四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

ウマ娘・トランセンド実装。

 

3月11日に新ウマ娘トランセンドの実装予告があった。先月22日の三周年記念配信でキャラクターそのものがお披露目になったばかりなのにもう!? 長い間放置されたキャラがいる一方で、これだけのスピード実装は他に類を見ない。しかしウマ娘の実装スケジュールは長期的なスパンによって決まっているということを考えれば、これは明らかに狙ったものだった…というのはモデルになった競走馬のトランセンドについて調べていくうちに理解することになる。

 

個人的にメガネっ娘は大好きなのだが、最初に公開されたビジュアルではいまいちピンと来ず、モデルとなった競走馬の方も活躍していた年代は2010年前後というあまり詳しくない時期だったので特に思い入れがあるわけでもなく、正直ガチャが来てもスルーでいいかなというのが当初の認識だった。しかし3月12日の実装当日、Xに投稿されていた固有スキル演出の動画を見て考えを改めた。

 

 

トランセンドは伊達メガネだったのか! ウマ娘ツインターボに似た印象のオーバーサイズのパーカー、ゲーミングファッション的な勝負服も相まって、第一印象とはだいぶイメージがかけ離れたその姿に一気に心を鷲掴みにされた。もうメガネがどうとか関係ない。どストライクだこれ! ゼンノロブロイ貯金としてガチャチケを170枚ほど取っておいたこともあり、トランセンドのために躊躇いなくガチャを回すことにした。ついこの間イクノディクタスのために20枚ほど使ったが、今回は40枚ほどでなんとかなった。ありがたい…。

 

 

ウマ娘トランセンドはひとことで言えば”共通した趣味を持つ気のおけない友人”のような、トレーナーとの距離が非常に近いキャラクター。ついその人懐っこい態度に勘違いして告白なんかすると、そういうつもりじゃなかったとか言われちゃうやつだな……。その低音ボイスによるダウナーな感じの雰囲気とは異なり、あらゆるところに繋がりを持つ陽キャでそういうところはウマ娘セイウンスカイに似ているかも。映画が趣味のサブカルオタクで、最新ガジェットを好むという設定は半導体メーカーのトランセンドと重ねているのだろうか? オタクはオタクだが限界オタクのアグネスデジタルとはタイプの違うオタク女子だ。ウマ娘トランセンドが映画好きなのはたぶん母馬がシネマスコープという名前だからだろう。伊達メガネではあるのだが、勝負服のときは本気なのでメガネを外し、そうでないときはメガネを掛けるのでひと粒で美味しい。

 

さっそく最初から4話まで解放されているキャラストーリーを読むと、今までのウマ娘キャラストーリーとだいぶ毛色が違う。まず最初からトランセンドが部屋にいて既にかなり仲が良い。一応出会いのエピソードも語られるのだが、趣味が同じで学園外でもたびたび顔を合わせることがあり、ウマが合ったので気が付けばで一緒にいることが多くなったという。こちらはウマ娘のトレーナーなので情報が必要、そして情報収集の得意なトランセンドとしょっちゅう取引という名のお茶会を開いてノリの良い会話を楽しんでいるというすごく居心地の良い空気が流れている。他のウマ娘の場合は大抵出会いから始まって、何かしら問題の抱えている子にアドバイスなりしてやって、その後の選抜レースで結果を出して信頼関係が生まれ、晴れて契約を結ぶ……というのがだいたいのパターンなのだが今回はまるで違う。

 

トレーナーもいずれ誰かの担当にならなければいけないし、ウマ娘もトレーナーが付かなければレースに出られない。そういうわけでスカウトする相手を探すわけだが、トランセンドはトレーナーに一度も担当にどうかというアピールをしなかったので、もしかしたら脈無しなのではないかと思っていた。実はお互い今の相手でいいんじゃないかと思いつつも、いざ口に出して今の心地よい関係を壊したくないと思って二人とも言い出せずにいるのだ。なんというかウマ娘にしては恋愛もののような甘酸っぱさがあって、いい歳こいて思わず身悶えしてしまった。ウマ娘は恋愛ものじゃないんだけど。

 

いつもはあけすけに物を言うトランセンドがこのときだけはどこか遠慮がちというか、奥ゆかしさが感じられて非常に可愛いのだ。もの凄く遠回しに自分をスカウトしてほしいと伝える様子はまるで愛の告白のようで、見ているこっちが照れくさい。もうこれで終わりでいいだろ! 他のウマ娘だったらこれでエンディングだよ! と思ってしまうくらいの満足感がこの時点で既にあった。しかしここまではプロローグでしかない。

 

 

ここでモデルとなった方のトランセンドについて調べてみる。2009年から2012年の間に現役だった競走馬で、ダートを主戦場として活躍した。主な勝鞍はジャパンカップダート(現チャンピオンズC)、フェブラリーSマイルCS南部杯。2011年のドバイワールドCにも出走し、ヴィクトワールピサの二着と敗れはしたものの、日本馬によるワンツーフィニッシュという初の快挙を成し遂げた。2011年のドバイワールドCは、言わずとしれた東日本大震災直後の3月末。ウマ娘トランセンドの実装にあたって、公式からは異例の注意喚起がなされた。

 

 

トランセンドの物語を語るうえで、震災のことを避けては通れないとCygamesは判断したようだ。おそらく相当の覚悟が必要だったはず。そして実際にウマ娘トランセンドのストーリーは、震災の年のドバイワールドCから逆算して作られた物語だったと言っても間違いではなかった。

 

 

退屈な日常より刺激的な非日常を求めて走るトランセンド。最初は観客の前で走ることには慣れていなかったものの(史実ではブリンカーという視界を遮る馬具をつけていたためか)、クラシック期からは同世代のライバルであるワンダーアキュートエスポワールシチーフリオーソらと鎬を削ることになる。エスポワールシチーフリオーソトランセンドと同時期に発表されていたが今回のシナリオが初登場となる。俗に言うスマートファルコン被害者の会。フリオーソは口を開けば船橋のことばかりで、フリオーソというよりサトミアマゾンみどりのマキバオー)の擬人化なんじゃないかと疑いたくなるほど。このアプリではドバイワールドCは実装されていないため、なけなしのドバイ要素として名もなき大富豪が登場。このときはこの程度でお茶を濁すかに思われたのだが……。

 

 

シニア期の3月に異変は起こった。非日常を求めて止まなかったトランセンドの前に訪れた本物の非日常。自分が被災したわけではないものの、様々な地域を訪れ交流していたトランセンドにとっては突然の出来事に価値観が揺らぎ、レースにも身が入らなくなってしまう。ウマ娘世界はわりとギャグっぽいというか、なんでもありの雰囲気がこれまであったので、大きな天災の前に無力感に打ち拉がれている姿は最初は意外にすら思えた。なんならウマ娘の超人的な力でパパっと復興してしまう、なんてこともあり得たのだが、しかしこれはウマ娘。競走馬だけでなくその周辺の競馬に関わっている人間たちもひっくるめた擬人化なのだから、今こんなことをしていていいのだろうか…と思ってしまっても何ら不思議ではなかった。

 

このときの目標レースである帝王賞JBCクラシックに当時猛威を振るっていたスマートファルコンが出走してくる。非常に高い能力値だが頑張れば勝てそう…と思ってしまうが、スキル構成がガチなのでこっちも本気でスキルを取っていないとまず勝てない。勝てばスキルPと先駆けと逃げコーナーのスキルヒントが貰えるが、そこまで無理をする必要はないかもしれない。2011年には本来盛岡で開催されるはずだったマイルCS南部杯が府中で開催されることになったのだが、ウマ娘でも東京競馬場マイルCS南部杯が開催される。実況やファンファーレもこのレース専用の特別仕様で当時を徹底的に再現するという熱意を感じるものになっている。

 


ずっと迷いの晴れないトランセンドであったが、被災地の復興とともに交流のあった人たちに後押しされ、非日常ではなくかけがえのない日常のシンボルとなって走ることを決意。最初は可もなく不可もないシネマだと自分の人生を例えていた彼女も、やがて人生は波乱万丈の終わりのないシネマだと認識を変えていく。チャンピオンズC(当時はジャパンダートダービー)二連覇を果たし、三年間の競争生活を終えたトランセンドの元にドバイの大富豪から招待状が届く。トランセンドは二人のウマ娘ヴィクトワールピサブエナビスタのはずだがウマ娘として実装される予定は今のところ無い)と共に日本代表としてドバイ国際G1に出走し見事ワンツーフィニッシュ。ドバイのターフに『HOPE』の文字を刻んで物語は終わる。

 

オタク娘というキャラクターからこれほどまでシリアスな展開が繰り出されるとは思わなかったが、真摯に史実と向き合った良いストーリーだったと思う。なんなら自分も当時のことを思い出してしまって、最後の方ちょっと泣いてしまった。3月11日という日に実装された意味が今なら理解できると思う。競馬でも、ゲームでも、人々の心が沈んでしまったときこそ必要なんだという、エンターテイメントの持つ力を信じたトランセンドのストーリーは、エンターテイメントを提供する企業であるCygamesの自身の声でもあったんじゃないかと思ってしまう。実際にドバイに出走した陣営の人間も、日本が大変なことになっているのに競馬のために海外へ行くことには躊躇いがあったと聞く。少し前のイクノディクタスのストーリーもかなり良かったが、ウマ娘に飽きたと言いつつもときどきこういうのが出てくるからウマ娘が止められない。

 

 

話は変わってウマ娘の性能としては、ダートに適正を持っているが芝もFなのでその気になれば魔改造できなくもなさそう。脚質適正は逃げと先行。他ウマ娘の加速スキルに反応して加速する固有スキルを持ち、自前で”盤石の構え”と”ポジションセンス”を持ちイベントによる”危険回避”の取得が可能。固有スキルはダート専用ではないが、特定のダートレースで効果が上昇する。

 

盤石・ポジセン・危険回避を持っているということは自前で逃げの裏技・斜行コンボが可能。アオハル賢があればより完璧。盤石の進化スキルと斜行コンボで序盤のハナを取って前に出続け、ラストスパートでは他のウマ娘の加速と同時に加速するという、これは現在ダートの覇王と化しているコパノリッキーをメタるために生み出されたと言っても過言ではなさそうだ。かなり強いはず。成長補正もスピ・パワ・賢にそれぞれ10%持っていて無駄がなくかなり育てやすそうな感じ。

 

これまで自前のダートキャラが全然いなくて、ダートチャンミにもいまいちモチベが上がらなかったのだが、トランセンドのおかげで次のダートチャンミは頑張れそうな気がしてきた。でも実際のチャンミはコパノリッキーよりもトランセンド同士の戦いになるような気がしている。一筋縄では多分いかない。

 

 

見た目だけではなくそのストーリーも最高に刺さったウマ娘トランセンド。またしばらく頑張れそうだ。