四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

『響け!ユーフォニアム3』第3話”みずいろプレリュード”の感想。

 

前回水面下で進行していたあれこれが表沙汰になる回。京アニの描くキャラクターの細やかな芝居の数々を存分に味わうことのできる回となっているが、タイトル通りまだプレリュード(前奏曲)。本番はまだまだこれからなのだ。

 

早朝神社にお参りする義井沙里から始まるAパート。髪をかき上げる横顔が目の覚めるような正統派美少女の沙里だが、原作における彼女の実家は寺であった。寺なのに巫女の格好をして家の手伝いをするという何かがおかしい感じの設定だったのだが、ロングの黒髪を白いリボンでおさげにしている彼女の髪型はこうしてみるとめちゃめちゃ巫女っぽさを意識しているデザインであると再認識する。

 

朝練のために学校に登校し、サンフェスの衣装について話す久美子と麗奈。よく毎年買い替える余裕あるなと思いつつも、マーチング衣装のデザインはアニメ版における毎シリーズの楽しみのひとつでもある。そのまま進路の話題に移るが、部長の仕事のせいか考える余裕がないと言う久美子に対して音大にすればいいという麗奈。音大行くにはピアノが必須になるし、学費はヤバいし、サラリーマン家庭の久美子に麗奈が言うほど気楽に決められるものではない。音楽という繋がりがなくなっても、果たしてこの二人は繋がっていられるのだろうか。

 

朝練に現れるつばめと沙里。吹奏楽経験者かつ真面目な性格で練習にも熱心な沙里だが、ふと久美子越しに麗奈が視界に入るとなにやら思うところがある様子。それにしてもこの吹奏楽部に沙里って二人いるから中にはごっちゃになる人もいるんじゃないかとちょっと心配になる(フルートの三年生・高橋沙里のこと)のだが自分だけだろうか。この時点でサンフェスまであと10日。

 

校庭でのサンフェスの練習。日誌でのやりとりが描写されていて三者三様のスタンスが分かる。今年は曲に難しい曲を選んだので練習についてこられない子をフォローしている余裕はないという・ドラムメジャー麗奈。過去の経験から落伍者を出したくない、全員揃ってこそ北宇治だと思っている部長・久美子。去るものは追わずという考えの副部長・秀一。全国金を目指すならば麗奈の考えはもっともで、そういう学校は2軍3軍と別れているところも多い。北宇治はまだ本気で全国を目指し始めてから日が浅く、そこまでのシステムを確立できているわけではないのだろう。個人的に久美子は理想論に固執している気がしてちょっと危なっかしさを感じてしまう。秀一は麗奈にもっと久美子をフォローしろと言われたばかりなのにちょっと突き放しているように思えてしまう。

 

2話で少し目立っていた眼鏡の一年生・ホルンのタケカワさん(漢字不明。原作では橋川さんだったが変更になっている。部員の名前は日本のアーティストが元ネタなので、元ネタはタケカワユキヒデか?)が麗奈のスパルタ指導を受けて泣いてしまい、部に気まずい空気が漂う。タケカワさんが隊列を抜けそれに沙里が付き添う。もはや一年のサポート役になっているかのようだ。麗奈自身もちょっとやり過ぎたかな…といった雰囲気を出しているが、強豪校になるための避けられない痛みといった感じではある。でもコンクール関係ないサンフェスの練習にマジになりすぎているような気がしなくもない。

 

サンフェスの衣装合わせを視聴覚室で行う吹部。こういうたくさんのキャラがわちゃわちゃやってる場面は情報量が多くて見るのが楽しい。今年は北宇治の譜面隠しの色に似た、翠玉色のジャケットに白いキュロットスカートという露出控えめのデザイン。なんか凄い色彩感覚に思えてならない……。シャツが小さくて胸のボタンがはち切れそうになっている真由が久美子の元にやってくる。中学校の頃から胸がまったく成長していない久美子は巨乳の真由と自分のを見比べて天を仰ぐという、なんだか一期の頃を思い出す懐かしいノリだ。

 

それを見て奏は真由は男性に好かれそうなタイプだとボヤき、それに同調する久美子。そこに突然現れたサファイア川島がみんなを動物に喩え始める。思えば『誓いのフィナーレ』でもそんなことを言っていた。奏は相変わらず猫で、奏が高坂先輩は?と聞くと白蛇だと言われて固まる麗奈が面白い。麗奈に対してここまで物怖じせずに言える相手はサファイアくらいだろうな……。他にも佳穂はアルパカ、弥生はペンギン、すずめはパンダとサファイアの動物シリーズが続く。そして真由はクラゲ。主体性が無く海を漂っているように見えるが近づけば刺されることもある。サファイアの洞察が鋭いのかどうかは後で分かる。

 

とここで登場するのがクラリネットの2年生・平沼詩織と加藤樹。下手なのに先に帰る部員はおかしいと声を荒げて部長に訴えてくる。なんか似たような話が去年もあった気がするが、美玲の場合は上手いから居残り練習の必要がなくそのせいで他の人と馴染めないという話だった。しかし今回は根っこが違う。ここでも沙里が毎日居残り練習しているという話が出てきて先輩に評価されている存在なのが分かる。ひとしきり不満を吐き出した後輩二人を久美子は優しく受け流すと、練習場所に戻る途中に沙里が竹川さんと一緒に帰るところを目撃する。

 

朝練のために早朝から学校に来る久美子と麗奈。みぞれが卒業したので一番乗りはすっかりこの二人になった。所狭しと物が置かれている滝の机の上を見て、大人になることの大変さを感じる久美子。ノートに書かれている内容はミュージカル映画を見た感想らしく、珍しく滝が音楽教師らしいことをやっているなと感じる。つい口に出してしまったので大人になりたいとは思わないのかと滝に聞かれることになったが、未だに将来に対するビジョンが持てない久美子。大人になれば自動的に人から尊敬されるような存在になれると思っていたがそうではなく、環境によってそれは変わるのだと言う滝。机の上に置かれているミルクコーヒーは、わずかに残った滝の未成熟な部分を象徴しているようにも思えた。

 

朝練のために音楽室を開けるとそこにつばめと沙里もやってくる。底抜けに明るいつばめに対して暗い顔の沙里。先輩は部活楽しいですか?と聞かれて狼狽える久美子。沙里ちゃん、それは鬱の初期症状だよ! つばめが久美子に話があるから先に練習しててと言うと、沙里は麗奈と二人で音楽室に残されるのを拒絶するかのような反応を見せてしまう。気まずくなって走り去ってしまう沙里。この日は雨が降っており、沙里の心境をそのまま映し出すかのような暗い画面だ。

 

つばめの話は一年の間で噂になっているという部長と副部長が付き合っているのかどうかという話。アニメでは麗奈との関係を強調するためか、幼馴染である秀一の出番が結構削られているので存在感がやや薄いが、二人でいるところは目撃されているらしい。今回も朝将来の話をするときとか、原作では秀一も話に混じっていたがアニメではいなくなっている。原作ではサファイアと求が付き合っているのかという話も出てきたがアニメでは割愛。二年生編をかなり駆け足で消化したせいでアニメで求の話を改めてフィーチャーするのかどうかはまだ読めないままだ。

 

というのは前置きで、つばめの話の本題は麗奈の指導が厳しすぎるので一年生が集団退部するかもしれないという話だった。かつて優子・夏紀世代でもあった、北宇治吹奏楽部の集団退部事件。当時の顧問と先輩はやる気がなく、傘木希美を含めたやる気のある部員の方が退部してしまい、後に禍根を残すことになってしまった出来事だ。そのおかげで去年の三年生は非常に層が薄くなり、コンクールでも結果を残すことが出来なかった。吹部経験者にとっては麗奈の指導は好意的に受け取られていたが、未経験者にとってはやはり厳しすぎたらしい。

 

放課後、先輩の指導のもと練習に打ち込む竹川さんを見る久美子。指導している先輩はアンコン編で少し出番のあったホルンの2年生・屋敷さなえ。麗奈の厳しい指導で泣いていた竹川さんだが、沙里のフォローと面倒見の良い先輩のおかげで今は立ち直っており特に問題は無さそうに思える。サンフェスまであと7日。

 

ここからBパート。低音の一年生3人が部活に来ていないと騒ぐさつき。そこに現れた梨々花によると沙里も学校を休んでいるらしい。沙里は病欠らしいのだが、仲良し四人組が揃って休んでいるということで集団退部の件が久美子の頭をよぎる。奏に後を任せ葉月・梨々花と共に沙里に話を聞きに行こうとするが、その話を聞いていた真由は部活を辞めるなんてよくあることなのに大げさだと言い、シリアスな反応をする低音チーム。真由の言うことが間違っているわけではない。なんなら秀一とちょっと考えが似ているといえる。しかし空気を読めていない発言なのは間違いなく、良くも悪くもまだ北宇治の空気に染まってはいない。たかが部活…育った環境の違いが久美子たちと真由の間に大きな認識の違いを作り出している。

 

久美子は葉月・梨々花と共に沙里の自宅である神社へ向かう。原作では家が寺だったので、京阪宇治駅から山の方に向かってしばらく歩いたところということになっていたが、アニメにおける沙里の家は京阪の黄檗駅から宇治川に向かって行く途中にある許波多神社である。さすがに寺で巫女はアレだと思ったのだろうか。

 

久美子たちが鳥居をくぐると境内を掃除していたのは佳穂と弥生。原作で巫女の格好をしていたのは佳穂だけだったのでサービス増量。沙里は本当に病欠だったが、全員で揃って部活をサボることにしたのはすずめの差し金だとあとで判明する。直情的に見えて案外油断ならない女・つばめ。このあとも他のトラブル要因になりそうで怖い存在だ。久美子たちが家に上がると沙里の部屋にはなんとグランドピアノが置かれていた。よっぽど親から溺愛されてるんだろうな…そんな印象を受ける。

 

久美子と沙里が部屋に二人きりになり、悩みを打ち明けてくれるように久美子が諭すと、沙里が静かに語り始める。ここからは細やかな作画と演出で沙里の心情やしぐさが描かれるので非常に見応えのあるシーンだ。だが原作を読んでいるか、それともアニメだけを見ているかでかなり印象が変わるシーンでもある。アニメでは沙里の慟哭に対して自分の経験を言葉にして語る美しく感動的な場面になっているが、それに対して原作では久美子は田中あすかの背中を見て育ったこともあり、責任ある立場になってからはジェネリックあすかとでも言うようにあすかだったらどうするだろうかと考えて振る舞っているところがある。アニメでもこの後梨々花の言葉であすかのことを思い出すのはそのためだ。相手に刺さる言葉を的確に選んでいる様は、アニメのように自分の言葉を振り絞っている感じとは別の感想を抱くのではないかと思う。だが原作にはアニメ一期であった”上手くなりたい…上手くなりたい…上手くなりたい…”でお馴染みの通称・上手くなりたい橋が存在しないため、ある意味別の成長を遂げた久美子であるといった印象が、今回より強く感じられた。アニメではアニメ独自の解釈で描写される久美子の成長を見るべきだろう…と個人的には思う。

 

結局今回の大量退部騒動未遂は久美子を動かすためにすずめが大げさに伝えただけだったのだが、それによって久美子は一年生のまとめ役のようなポジションの沙里の信頼を勝ち取ることに成功した。そしていよいよサンフェスということで次回も楽しみだ。今回は原作の220Pあたりまで消化し、このペースでいけばあと3話ほどで前編は終わりそうな感じである。