四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

『近畿地方のある場所について』を読んだ。

10年に一度くらい、眠れない夜に怖い話を読み漁りたくなるときがある。そんなときに読んだのが、少し前にちょっと話題になっていた『近畿地方のある場所について』だった。現在は書籍になっているが元々はカクヨムに投稿されていたいわゆるWeb小説で、書籍版には少し追加があるものの作品のほぼすべてはカクヨムで読めることもあって興味本位で手を出すにはちょうどいい読み物であった。

 

物語は出版社の新入社員である小沢という男がムック本を取り扱う部署に配属されるところから始まる。その出版社は業界では有名なオカルト系の専門誌を扱っているところでもあり、小沢の初仕事がそのオカルト系専門誌の次号の編集であった。しかしそれはあまり陽の当たるような仕事ではなく、あくまでも新人の練習ようなものであまりお金はかけられなかった。よって通常は過去の記事のツギハギのような内容になりがちだったのだが、新人の小沢はせっかくだから雑誌のバックナンバーに全て目を通してから本を作ろうと考えた。そうして何十年にもわたる過去の記事を読み漁った結果、日本の特定の場所で怪異が頻発しているのを発見する。それが近畿地方のとある場所・●●●●●。そのことに気付いた小沢は怪異の調査に没頭するのだが、あるときを境に行方不明になってしまう。その小沢の友人である背筋と名乗る人間が、行方不明になった小沢の情報提供を広く募るというテイで、小沢の調べていた怪異に関する資料を公開するという形式の小説だ。

 

オカルト系専門誌のバックナンバーの記事、怪異の目撃者へのインタビュー、ネットにあった書き込みなど様々な媒体からかき集められた30編以上の怖い話からなる、”近畿地方のある場所”にまつわる話である。はっきり言って、ひとつひとつの話自体はそんなに怖くない。というよりどこかで見たような感じの話ばかりで、いわゆる”洒落怖”的なありふれたネットの怪談という感じすらある。一番最初は何の前置きも無しで語られるネットの奇妙な書き込みについての話ということもあってなんのこっちゃという感だ。そうして読み進めていくと急に作者の自分語りのような話になって、え?そういう感じ?と若干の戸惑いを覚える。そこから本格的に怪異の話になっていくわけだが……。

 

年代も怪異の形もバラバラな話が、非常に巧妙なパズルのピースのように読み手に情報として渡されていくのである。何でもなかったはずの話が、あるとき別のタイミングでその意味が分かってくる。そうして徐々に組み上がっていったパズルが、”近畿地方のある場所”で起こる怪異を立体的に読み手の頭の中に想像させてくる。そうなるとこんなの別に怖くないなと思っていた自分も、途中からちょっぴり寒気を感じるようになっていた。これが作り話なのか、それとも本当にある話をしているのか、分からなくさせるような語り口が巧みで話に引き込まれていってしまった。そうやって読み進めていった果てに判明するおぞましい事実も、なかなかに嫌~な気分にさせてくる。

 

この作品は怖い話というよりも単純に読み物として楽しめた。最後まで読んでから最初から読み返すと、最初は意味がよく分からなかった話もそういうことだったのか!という気付きを得られて一粒で二度美味しい。一気に読もうとすると結構時間が掛かってしまうと思うが、ひとつひとつの話は短い話ばかりなのでちょっとした空き時間に読み進めるにはちょうどよく、そういう意味でも暇つぶしにはもってこいである。