四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記27『自然の祝福』

 

先日ハグレイブンから手に入れたネトルベインという短刀は、なまくらな上に重すぎるし、依頼の品だったので処分もしにくい代物だったのだが、ホワイトランのキナレス聖堂の神官ダニカ・ピュア・スプリングに持ってきてほしいと頼まれたものだということを思い出した。

 

 

ドラゴンズリーチと並ぶホワイトランの象徴と言われている神木のギルダーグリーンは雷に打たれ、今まさに枯れゆく状態にあった。それを儚んだダニカはギルダーグリーンを蘇らせるために、親樹とされているエルダーグリームの樹液を手に入れることを望んでいた。そしてエルダーグリームを傷つけられる唯一の刃物が、自然を憎むハグレイブンによって作られたこのネトルベインだとはなんとも皮肉な話である。

 

 

俺はネトルベインをダニカに見せた。当然の成り行きだがそのエルダーグリームの樹液を手に入れて来てほしいという話になった。ギルダーグリーンがまだ生きていた頃はそれはもう美しく咲き誇っていたらしく、もはやホワイトランが第二の故郷のようになっている自分にとっても、一度は見てみたい光景であった。

 

 

その依頼を受け、ホワイトランから東にあるエルダーグリーム聖域を目指すことにした……のだが、ちょうどキナレス聖堂を巡礼に訪れていた旅の男がその話を立ち聞きしていた。男の名はモーリス。エルダーグリームを一度目にしたいらしく同行を申し出てきた。この男、驚くべきことに丸腰である。戦えるならともかく非武装でははっきり言って守りきれる自信はない。断ろうとしたがそれでも無理やりついてこようとしたので、仕方なく連れていくことにした。

 

 

……しかし案の定、途中で山賊の襲撃を受けてモーリスは死んでしまった。いくらなんでも素手で立ち向かおうとするのは無謀すぎる。いったい何だったんだろう、こいつは。簡易的にだが山の中に遺体を埋葬し、先を急いだ。

 

 

エルダーグリーム聖域は、かつてハグレイブンから指輪を奪還しにやってきたウィッチミスト・グローブのすぐ近くにあった。湧き出す温泉の湯気によって昼夜を問わず視界が悪い場所で探すのに苦労させられた。聖域という名の洞窟の中は広い空間の壁に光の筋が無数に走っており、外よりはむしろ見やすい環境である。

 

 

聖域の天井からはわずかに陽の光が差し込み、その下には大木が立っている。小川が流れ緑が生い茂る、洞窟の中とはとても思えないような神秘的な場所だった。目的の樹へ向かおうと進んでいると突然声をかけられて驚いたが、穏やかな落ち着ける場所には違いないので先客がいたとしてもおかしくはない。

 

 

その一組の男女はこの場所に詳しいようで、エルダーグリームはこの聖域内に大きな根を張っており近づくことができないと教えてくれた。だがエルダーグリームが恐れを抱くような武器があるなら話は別だとも。そう、ネトルベインなら。

 

懐からその刃を取り出すと、彼らはおぞましいものでも見るかのように露骨に嫌悪感を示す。だがここで引き下がるわけにはいかない。俺は丘の上にあるエルダーグリームを目指して登り始めた。

 

 

途中エルダーグリームの太い根が道を阻んでいた。しかしネトルベインを振りかざすと傷つけられることを嫌ったエルダーグリームが自ら根を持ち上げて道を開いた。そうなると樹の元まで行くのは簡単だった。澄んだ空気に満たされたその場所では人間の存在そのものが異物に思えてならなかったのだが、幹をほんの少し傷をつけて樹液を貰うだけだからと言い訳して、ネトルベインで樹皮を切った。

 

 

すると辺りの植物がざわめくように動き出し、空気は淀み始めた。エルダーグリームを守るために息を潜めていた木の精であるスプリガンたちが動き始めたのだ! どうやら彼らの怒りを買ってしまったらしい。囲まれる前に急いで丘を降りて出口を目指す。

 

先程の男女は怒り狂ったスプリガンたちに殺されており既に息は無かった。申し訳ないと心の中で謝りながら寄ってくるスプリガンを倒していく。だがいくら堅牢な防具に身を包んでいるとはいえさすがに多勢に無勢、追いかけてくるスプリガンから逃げるように聖域を飛び出すと、外までは追いかけてくる様子はなかった。

 

 

後ろめたい思いを振り切るように、ホワイトランのキナレス聖堂まで戻ってきた。ダニカはこれでギルダーグリーンが蘇ると無邪気に喜んでいたが、そのために出た犠牲のことを考えると胸が痛む。俺は気を紛らわせるために、今度はリディア用の新しい防具を作ろうと考えた。今はとにかく手を動かしていたかった。

 

 

重装備による戦いを得意とするリディアには、オリハルコン製のオークの装備一式がふさわしいだろう。鍛冶屋からオリハルコンのインゴットを買い集め、オークの装備を鋳造し、薬を飲んでさらに鍛造する。伝説的なオーク装備の完成だ。簡単そうに思えるが、これまで技術を身につけるのにかかった時間を思えばそれほどでもない。

 

そして今リディアが持っている消音の魔力が宿っているブーツを解体して習得し、オークのブーツに付呪する。リディアの装備品に何を付呪するかまでは考えていないが、ひとまずはこれでいいだろう。

 

 

リディアに完成したオーク装備一式を身に着けてもらう、灰色のくすんだ金属光沢と刺々しい意匠に身を包んだその姿はまさにオークの戦士といった出で立ちだ。金色のエルフ装備一式を身に着けた俺が横に並ぶと、いいコンビのように見える。エルフ装備の男魔術師とオーク装備の女戦士か。悪くないな。

 

そう思っているときに、花びらがふわりと舞い落ちてきた。桃色の小さな花びらが、ホワイトランの上の方から風に乗って飛んでくる。もしや、と思って階段を駆け上がる。

 

 

そこには咲き誇るギルダーグリーンがあった。鍛冶をしている間に、樹液によって枯れた樹が蘇ったのだ。樹の周囲では神木の復活で沸くホワイトランの住人たちの喜ぶ姿があり、その中にはダニカの姿もあった。しかしこの樹が蘇るまでの犠牲を思うと、俺には素直に喜ぶことができないのであった。

 

 

【続く】