四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記10『目覚めの悪夢(前編)』

 

マグナスの杖の捜索を命じられた俺は、その手がかりを知っているというミラベル・アーヴィンに話を聞くことにした。彼女が言うには数ヶ月前に大学にやってきたサイノッドと呼ばれるスカイリムの外からやってきた魔術師の集団が、マグナスの杖の在り処を探しにきたのだと言う。そして大学にもマグナスの杖が無いことが分かると、ムズルフトの遺跡について訪ねてきて、そこへ向かったらしい。

 

マグナスの杖の手がかりというにはあまりにも貧弱な根拠だが、それしか情報がないというのならそれを頼りにするしかないのが辛いところである。地図で見るとウィンターホールドからはかなり南の方に位置する遺跡である。南と言ってもスカイリム自体が大陸では北に位置するため、寒い地域には代わりはないのだが。

 

 

俺は大学での便利屋扱いに少々うんざりしていた。マグナスの杖の捜索を一旦打ち切り、スカイリムの現首都であるソリチュードへ行ってみたいと思うようになっていた。マグナスの杖は魔術の神が使っていたと言われるほどの伝説のアーティファクトなのだ。すぐに見つかるなどとは誰も思っていないだろう。俺が捜索に出かけたとして、しばらく戻って来なかったとしても誰も不思議には思わないはずだ。多分。

 

大学をこっそり抜け出し、ウィンターホールドの遥か西にあるソリチュードを目指して旅立った。ムズルフトの遺跡とはまったくの別方向である。途中雪山に大穴を見つけたが、覗いたときに足を滑らせて落ちてしまった。底は水溜りになっていて辛うじて怪我はしなかったが、内部は切り立った壁になっており上に登るのは不可能だった。だが偶然にも発見した横穴から奥へ進んでいくと、そこはドワーフたちが遺した古代の機械仕掛けがいまだ動き続けている地下の遺跡だったのだ!

 

 

巣食っていたファルメルと呼ばれる地下の住人たちは、シャウラスという大きな甲虫を使役し、自らも魔法を使いこなす手強い敵であった。地上の生き物に対して強い憎しみを抱いているらしく、こちらを見るやいなや攻撃を仕掛けてきたのだ。今の俺の力量ではかなりの苦戦を強いられ、じっくりと進んで行かざるを得ない。

 

俺は”二連の唱え(ダブルスペル)”と呼ばれる魔術師の技術をこれまでの戦いの経験によって習得していた。両手で同じ魔法を同時に唱えることにより、相乗効果で威力や効果を倍以上に高めることができるのだが、魔力(マジカ)の消費はそれ以上なのであまり多用することはできない。しかしじっくり休みながら進むならそれはあまり問題にはならず、心強い切り札となった。

 

 

最奥では部族の長と思われるより強力なファルメルとの戦いとなったが、俺の魔法とリディアの弓による遠距離攻撃でどうにか倒すことができた。溜め込んでいた財宝を頂戴し、機械仕掛けによって地上へと運ばれ脱出に成功する。思いがけないトラブルではあったが、収穫もまた大きい冒険だったと思う。

 

洞窟を抜け出てまた西へと歩みを進める。途中で帝国の野営地を通り過ぎ、さらに進むと山の上に遺跡があったが鍵がかかっており中には入ることができなかったが、山の上から臨む景色には海辺に広がる集落が見えた。そこはドーンスターと呼ばれるペイル地方の主要な村であり、地図上ではおおよそウィンターホールドとソリチュードの中継地点に位置する場所である。

 

長く旅してきてほっと一息……というわけにはいかなかった。何か様子がおかしい。甲高い咆哮が響き渡り、衛兵が燃えて逃げ惑う姿が遠くから見えた。直感が告げている。この村は今ドラゴンの襲撃を受けているのだ!

 

 

山の上から全力疾走し村に飛び込んだ。風を切る音と共に大きな影が頭上を通り過ぎていく。やはりドラゴン! 空中を旋回しながら炎を吐く相手に対して、俺は二連の唱えによるアイススパイクを放つ。命中するとドラゴンの興味はどうやら衛兵からこちらに移ったようである。だが続けて撃ち出されるアイススパイクとリディアの弓との連携攻撃により飛行する体力すら奪われたのか、じきに村外れの平野に落ちていった。しかし俺たちは追撃し攻撃の手を緩めない。残された体力でなんとか飛び立とうとするドラゴンに止めの一撃を放つと、そのまま岩場に落ちて力尽きた。ドラゴンとの戦いも最早慣れたものだ。

 

 

戦いが終わると、ドラゴンの死体を一目見ようと衛兵と村人たちが駆け寄ってきた。だがドラゴンソウルは既に吸収済みであり、骨だけになったドラゴンでは彼らの興味は満たせなかったようだ。その代わりなのか俺は村人たちにまるでドラゴン退治の英雄として祭り上げられた。ホワイトランでは身の丈に合わない栄誉のように思えたが、実際にドラゴンに太刀打ちできるようになると称賛も心地よく思えてくるのだから不思議だ。

 

 

俺たちは称賛する村人たちを背に、旅と戦いの疲れを癒やすために宿へ向かった。先程の村人たちもそうだったのだが、宿屋の主人の顔色が優れない。なんでも今ドーンスターは悪夢に悩まされており、村全体が同じ睡眠不足の悩みを抱えているというのだ。そういう村で宿を取ったら、もしかして俺も危ないんじゃないか? そう思っていたところに、同じ宿の客と思われる男が声をかけてきた。

 

エランドゥルと名乗ったその男が言うには、この悪夢はデイドラの王ヴァーミルナによるものであると言う。デイドラとはこの世界の創造に関わらなかったまつろわぬ神々であり、普段はオブリビオンと呼ばれる別の世界に住んでいるのだが、たびたび定命のものである人間に関わっては運命を狂わせる存在であると言われている。そんな与太話信じられるものか……そう思ったが、男にはなにか心当たりがあるようなのだ。この悪夢を止めるためには山の上の遺跡に向かう必要があると、まるで試すかのように静かに俺を見据えてきた。

 

 

【続く】