四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

『SAND LAND』鑑賞。

原作の『SAND LAND』は、鳥山明ドラゴンボールの連載を終了した後に、少年ジャンプにポツポツと短期連載された作品のうちの一つだった。大ヒット作品を世に送り出した作家にありがちだが、ドラゴンボール以降の鳥山明は趣味性の強い作品ばかりであまりパッとしないというのが正直なところで、『SAND LAND』もどこまでも続く砂漠の世界にギミック満載の鳥山メカ、そしてクソガキとおっさんとジジイとモンスターしか出てこないという、渋みのある作品だった。なんで今さらこれを映像化するんだろう? というのは当の作者でさえ思っていたらしいが、日本より海外の方が鳥山明は人気があるらしいし、昨今の原作不足も相まって単行本一冊という長さは劇場用アニメとしてはちょうど良かったのかなと思う。

 

物語はかなりシンプルで、水を失った砂漠の国サンドランドの保安官ラオは、水を独占し高額で住民に売りつける国王に嫌気が差し、サンドランドに住む魔物の王子であるベルゼブブとその従者シーフと共に幻の泉を探す旅に出るというロードムービー。その途中トラブルが発生したりして、結果的に国に追われることになってしまうのであった。改めて見ると鳥山明版マッドマックスとても言うような感じの作品で、為政者によって独占された水を取り返すという、当時はありがちに見えた話も格差社会の今ではエスタブリッシュ批判としてなんだか妙に説得力を感じてしまうし、「あーあ、なんでこんな世界になっちゃったかな~」というベルゼブブの台詞も、もはや冗談には聞こえない。

 

原作はわりとあっさりした展開が続くのだが、やはり映画となるとそういうわけにもいかないのか、大筋は変わらないもののところどころ原作から脚色されており、特に中盤の戦車戦やラストバトルなんかは原作から大幅に盛られているので、この作品ってそんなに盛り上がる話じゃないよなと思っていたはずが、なかなかどうして楽しめる作品に変身を遂げていた。原作の終盤、さすがにラスボスが一人でラオたちを倒すためにやってくるのはおかしいしシュールすぎるという判断があったのだろう、ちゃんと物語の終盤に相応しい山場になっていたのはかなり驚かされた。

 

戦車戦の描写なんかはもはやガルパンに追随するレベルで、音響担当スタッフもガルパンの人(岩浪美和)を連れてきているのでさもありなん。デザイン自体は丸っこい、いかにも鳥山メカといった風情の戦車のディテールも、存在としての説得力が大幅に増していて色んなところがガコガコ可動する様は自分の中に残されたわずかな男の子の部分でさえ血肉湧き踊らずにはいられない。原作では戦わずに終わったアレ将軍との戦車戦も描かれるので、非常に満足度が高い。

 

基本的には夏休みのファミリー向け映画としてところどころチューニングされているものの、ファミリーが見るにはずいぶん渋い映画を作ったなというのが正直な感想なのだが、渋カッコいいおっさんの活躍を見たいならかなりおすすめできる。人間と怪物の共存する、独創的で鉄臭いマシンの出てくる鳥山明の世界観を堪能するという意味ではこれ以上のものはない。