四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

TVアニメ『もういっぽん!』スタッフトークイベントに行ってきた。

 

4月2日に最終回を迎えたTVアニメ『もういっぽん!』。2023年冬アニメの中では個人的に推していたのだが、最後まで見て良かったと胸を張って言えるくらいの作品になってくれた。柔道の経験なんて高校時代に受け身の練習させられたぐらいしかないのだが、それでも熱中して見られたのは青春ドラマとしての完成度の高さによるものだと思う。勝つために練習しているのには違いないのだが、勝利至上主義に陥らない好きだからやってる!という姿勢は大変眩しく、自分の荒んだ心を照らされるようでもあった。特に部を辞めていた三年生・姫野紬が大会参加のために復帰し、最後の大会を納得行く形で迎えようと奮闘する姿は涙なしでは見られなかった。

 

そんなわけでこういう作品を作っているスタッフのことは記憶に留めておきたいと、最終回を目前に控えた4月2日、阿佐ヶ谷ロフトで開催されたトークイベントに参加してきたのだった。阿佐ヶ谷ロフトは何年も前に別のイベントで行ったきりだったが、やはり狭かった。最初は参加するべきかどうか躊躇していたので、自分の整理券番号がかなり後ろの方(70前後)になってしまったのだが、空いた席を探すのに難儀した。

 

トークの前に最終回の先行上映があり、放送に先駆けて見ることができた。放送との違いはエンドカードが無いくらいだったのだが、最終回をひと足早く、それも沢山の同好の士と見るのはなかなかない経験で面白かった。最後の方、場の雰囲気に飲まれて目頭が熱くなってしまったのかなと思ったが、家に帰って最終回を見ても同じだったので雰囲気のせいではなかった。

 

トークパート第一部は監督・キャラクターデザイン・プロデューサー二名・制作デスク二名が登壇し、アニメの印象に残ったシーンを振り返りながら制作時のエピソードなどを語ったのだが、なんといっても『YAWARA!』以来30年ぶりの柔道を題材にした作品のアニメである。たまに柔道するシーンが出てくるアニメはあっても、柔道をメインにした作品は本当に久しぶりなのだ。

 

今はYoutubeで試合や技の参考になるものが沢山出てくるのだが、技をかけるのを失敗する資料を探すのが逆に大変だったという。そして一連の技をかける動きを誰でも描けるわけではないのでカットを細かく割ったりして誤魔化すなどの工夫があったようだ。そのせいで平均的アニメに比べてだいぶカット数が多くなってしまったらしい。

 

それに加えてグロス請けの会社がなくなって代わりの人員を手配することになるという『SHIROBAKO』めいたトラブルが本当に起こったりして、制作スケジュールは超過気味。最終回は直前の木曜日まで作っていたのだ。この作品は完パケだという噂が流れていたが、それはきっちりと否定された。一回も落とさず放送できたのはまさに奇跡だったと言ってもよさそうだ。

 

キャラデザの武川愛里さんがお気に入りのシーンとして挙げた第一話のアバンタイトル。個人的にもそれを見た時点で、これ自分の好きな感じのやつ!と直感的に思ったのだが、監督自身の口から自分の激推しアニメである『響け!ユーフォニアム』を参考にした、スポドリのCM感だったという話が出て、自分は見事に釣り上げられてしまったのだと分かった。部活もののお約束として、キャラのエピソードもなんとなく近いものがある。先輩とレギュラー争いして勝ってしまい、関係がギスってしまうのは久美子にも似たようなエピソードがあるし、やっぱりそういうのが好きなんだろうな……。

 

そして12話の姫野・小田桐戦の決着は、制作段階では作画ミスで姫野先輩が一本を取って勝ってしまったという幻のカットを現地では見ることができた。情報伝達の誤りで姫野先輩が勝っている方が正しいという誤解があったようなのだが、見たかった……その世界線を。とはいえかなりギリギリのタイミングで気付いて大急ぎで直したようなので、監督の心労も相当なものだったと思う。この仕事が終わったらちゃんと休んで欲しい……。

 

休憩を挟んでトークパート第二部は原作者の村岡ユウ氏とその編集者、そして引き続き監督とプロデューサーが登壇して、主に原作の裏話やアニメ化に際しての舞台裏の話が中心になった。村岡ユウ氏もアニメの出来には大変満足しているようで、原作者とアニメスタッフとの良好な関係が垣間見えるようで微笑ましかった。自分も最終回を見た時点でもう原作は買うつもりだったので、ここからの話も興味深く聴かせてもらった。

 

編集いわく、元々未知たちのキャッキャウフフや尻叩きの描写は作者の妄想で描いていたらしいのだが、アニメの取材で淑徳中学校に行った際、実際に同じことをやっていて解像度が上がったという。アニメでは6話にあたる南雲のエピソードは原作で唯一全直しがあった話らしい。賛否があって当然の話という認識で描いたらしいのだが、元のネームはもっとあっさりしておりそのための流れをもっと丁寧に書き直したのが現在の話だとか。最初は南雲が柔道部に入るかどうかは決めていなかったというのは今となっては驚きである。ライブ感で決められるレベルの話なのか!?

 

笑い話としては、柔道アニメなんて全然無かったのに同時期にやっていた『イジらないで、長瀞さん』でたまたま柔道が被り、決め技の支え込み釣り足でも被るとは思わなかったとか、姫野紬役の永瀬アンナはオーディション当時はまだ世に出ていなくて、自分たちが発掘したつもりだったが『もういっぽん!』が放送される頃には既に『サマータイムレンダ』の小舟潮役で知られた後だったというのは申し訳ないが笑ってしまった。

 

本当はもっといろいろ話があったはずなのだが、メモ帳の走り書きが自分でも解読困難なのでこのくらいで終わりにしておきたい。最後に抽選会があったがまるで掠らなかった。サイン入りポスター、色紙、単行本……欲しかったなぁ。イベント終了後に原作者との交流会や監督やキャラデザのサイン付き物販などもあったが、阿佐ヶ谷ロフトの会計システムを考えると行列が出来ていつ帰れるかわからなくなる可能性があったので、多くの人が残る中泣く泣く先に会計を済ませて帰ることにしたのだった。

 

アニメが終了してちょっと寂しい気持ちはあるのだが、アニメは原作の7巻までらしいので、原作が今22巻まで出てることを思えばあと三倍以上も楽しめるのだ。そう思うとこれから楽しくて仕方がない。アニメは終わってしまったが、しばらく『もういっぽん!』漬けの日々は続きそうだ。