四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記30『フォースウォーンの陰謀(前編)』

 

久しぶりに訪れたマスカルスは、前回の訪問とはまるで違った顔を見せていた。以前は夜だったためほとんどその全容が分からなかったのだが、日中に改めて見てみると、ドワーフの遺跡をそのまま利用したと言われる要塞は美しい彫刻のように崖に沿ってそびえ立ち、ある種の幻想的な風景を浮かび上がらせる。


思えば最初に訪れたときは街の入り口でいきなり殺人事件が起こり、物騒なのであまりここには近寄らないようにしていたのだが、今回はマーラのお告げによる使者として他人の恋愛成就のためにやってきたのだから、状況が真逆すぎて自分でも可笑しくなってしまう。

 

 

思い耽っていると、ドンッと男の肩が当たって我に返った。こちらが呆けていたとはいえ、さすがに腹が立って呼び止めようとしたのだが、その前に男は走り去ってしまった。マルカルスの構造が複雑なこともあって、あの男が現地の人間だとすれば逃げられたら捕まえられるとは思えなかった。よって追跡は諦める。


だがいつの間にか手の中に、幾重にも折り畳まれた紙が握られていることに気付いた。それを開いて見てみると短い文章が書かれている。”タロスの祠で会ってくれ”とただそれだけ。今の男が書いたもの…ということでいいのだろうか。少し気になるが、今はマーラのお告げが優先だ。

 

 

ディンヤ・バリュによって伝えられたカルセルモという名の男を探して街を歩き回る。階段による昇降に苦労させられる街だったが、要塞の官舎であるアンダーストーン砦にて、宮廷魔術師として働いている老人こそカルセルモその人であった。カルセルモは俺がマーラの使者であることを告げると、その理由を悟ったのか恥ずかしそうに口籠りながら事情を話し始めた。


カルセルモはマスカルスの首長イグマンドの私兵であるファリーンに片思いをしているらしい。ただカルセルモは宮廷魔術師として長年研究に没頭してきたせいで話術の心得がなく、満足にファリーンのご機嫌を取ることもできずにいる。そこでマスカルスにいる人気の詩人であり、ファリーンの友人でもあるイングヴァーに、彼女の好みを聞き出して欲しいという、なんとも奥手で回りくどいお願いをしてきた。

 

 

まさか老いらくの恋にさえ使者を遣わせるとは、愛の神としてのマーラのご利益もそんなに捨てたもんじゃないらしい。俺自身それほど信仰に篤いわけではないのだが、徐々に信じてもいいような気がしてきた。縋り付くような顔の老人に、任せておけと俺は胸を叩いた。


イングヴァーの元へ行く途中、首長の部屋にファリーンがいたのだが若い女性であり、お世辞にもカルセルモと釣り合いが取れているとは言い難い。それとなくカルセルモのことについて尋ねてみたのだが明らかに変人という認識で、脈があるとは到底思えなかった。

 

 

イングヴァーを宿屋の前で見つけ、さっそくファリーンの好きなものについて尋ねた。しかし何でそんなことに興味があるのかと言い返されたら、カルセルモの名を出さないわけにもいかなかった。いかにも”遊んでいる”風のイングヴァーにとっては陰険な爺としか思っていないようだったが、おだてているうちに段々口が軽くなってきて、ファリーンのことについてべらべらと聞いていないことまで喋り始めた。

 

ファリーンは首長の私兵として強気な面を常に見せているが、詩を理解する繊細さも持ち合わせているという。詩は女に言い寄るときに役に立つとはイングヴァーの弁だ。吟遊詩人の大学ではそんなことも教えているのか……。ソリチュードにある吟遊詩人の大学に少し興味が湧く。

 


イングヴァーはかつてロリクステッドで女性を口説いたときに使ったという詩を、ファリーン相手にも使えるように書き直してくれることになった。お値段なんと200ゴールド。最近は金で解決できるならむしろ安いと思えるようになってきたので、気前よく払ってやる。するとイングヴァーはカルセルモに渡すのではなく、お前が渡せと助言してきた。口下手なカルセルモでは失敗する可能性が高いからだと言われたが、それは俺ももっともだと思った。

 


ファリーンに詩を渡すと、彼女はその文章を読んで感激に打ち震えた。自分がそれを渡されたとしたら正直寒気を感じるような内容だったのだが、女とは不思議なものだ……。無論カルセルモからということも付け加えておいた。


彼女はすぐに返信の手紙を書くとカルセルモに渡して欲しいと言ってきた。すぐにカルセルモの元へ行き手紙を渡す。彼は目を皿のようにして手紙を読み耽っていた。その横から内容を盗み見たが、無関係のこちらが思わず赤面してしまいそうな文面だ。

 


カルセルモは手紙を読み終えると、何かを決意したように走り出した。追いかけていくと、これは明らかにファリーンの元に向かっている。まだ首長がいる部屋の中へお構いなしに入っていくと、カルセルモはファリーンに向かって求愛した。


少し離れたところから二人が話しているのを眺めていたが、どうやらうまくいったようだ。カルセルモは俺に気付くと頭を下げた。その姿を見て、なんだか少し羨ましいと感じてしまったのだ。あの詩はカルセルモが書いたものではないのでいつかボロが出るかもしれないが、この後のことまでは責任は持てない。さて、これで俺の役目も終わりのようだな。

 


しかしせっかくマスカルスまで来たのだから、他にも何かないだろうか。そう思ったところに、さっきの紙切れに書かれていたことを思い出した。タロスの祠……この街に来てからまだそんなに時間は経ってはいない。一応足を運んでみるか。

 


マスカルスのタロスの祠は、人気の少ない街の一角にある。秘密の待ち合わせをするならこれほどうってつけの場所はないだろう。いくつかの火が灯っている祠の中に入っていくと、暗がりから男が現れた。エルトリスという顔に紋様を入れた逞しい男だ。さきほどぶつかった男と見て間違いない。


エルトリスは以前この街に来た俺のことを覚えていたらしい。街の入り口の市場で起こった殺人事件を見ていたことも。そして俺が再びこの街にやってきたときに、とある考えが頭の中に閃いた。


この街ではああいう殺人事件が繰り返されている。そのうえ市警隊が決して問題視しないことについて、彼は密かな苛立ちを感じていた。あの殺人犯がフォースウォーンであることも公然の秘密なのだが、自分が目を付けられまいと誰も口にできないでいる。


しかし余所者なら、もしかしたらこの謎を密かに調査できるかもしれない。報酬を支払う代わりに、あのとき殺された女と、殺した男のことを調べて欲しい。それがエルトリスの頼みであった。

 

 

【続く】