四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記31『フォースウォーンの陰謀(後編)』

 

エルトリスの頼みは、下手に首を突っ込めばこちらが火傷しかねないものだ。だが今の俺がそう易々と誰かに殺されたりするものか……そう考えたのは思い上がりだろうか。ちょっと調べてみるだけだ、深入りをするつもりはない。このマスカルスの闇を少し覗き見てみるつもりで、エルトリスの依頼を承諾した。

 

殺害された女の名前はマルグレット、そして殺害した男の方はウェイリンという名前であるというのは、エルトリスがすでに調べて得た情報であった。マルグレットは街の住人ではなく最近やってきた女であり正体は謎に包まれている。ウェイリンは街の鉱山に隣接する溶鉱炉の作業員であり、ウォーレンズと呼ばれる労働者用の住居に住んでいたという。

 

そこまで分かっていれば、何をするべきかはそれほど難しくない。地道に、それとなく、話を聞いていくしかない。それも慎重に。

 

 

俺はまずマルグレットの足取りを調べた。これは簡単に判明し、殺される前は宿に部屋を取っていたことがわかった。それも一番高い部屋だ。これだけでもう怪しさが漂っている。泊まっていた人間が死んだということで縁起が悪いのか、鍵がかかったままの部屋の鍵をなんとか頼み込んで借りて部屋に入る。

 

 

部屋の中にはまだマルグレットのものと思われる荷物が置かれている。その中に一冊の日記を見つけた。読み進めていくと、文章の中にある名前を見つけて驚いた。俺もソリチュードで会ったことがある、テュリウス将軍の名だ。これはまさか……マルグレットは帝国の間諜(スパイ)だったのか? 

 

このマスカルスを事実上牛耳っているのはシルバーブラッド家であり、この辺りはリフテンのブラックブライア家と非常によく似ている。シルバーブラッド家はストームクロークの支持者であるため、帝国のテュリウス将軍にとって脅威だと思われているのだろう。その調査員として派遣されてきたのがマルグレットだった。だが家長であるソーナー・シルバーブラッドに目を付けられ、常に誰かに監視されている気配を感じていた……というのが日記の最後のページに書かれていた内容だ。

 

そうだとすると、殺される理由は十分にあるような気がする。マスカルスの裏側を探っているのを邪魔に思い暗殺されたのだ。まさに今の俺と似たようなものだ。少し背筋がぞっとして身震いしたが、日記を懐に仕舞って宿から出た。

 

 

ウォーレンズは崩落が起こった遺跡をそのまま住居として利用している、言葉は悪いが貧民窟同然の粗末な場所であった。そこに鎧で武装した人間が入っていくのは場違い極まりないだろう。エルトリスもここに住んでいるらしいのだが。

 

管理人を説得し、ウェイリンの部屋の鍵を入手する。土砂が流れ込んでいる殺風景な部屋の中に木箱があり、一通の手紙が入っていた。そこに書かれていた内容は、まるで誰かを殺すように指示しているかのような、そんな風に取れなくもない短い手紙だった。差出人はN。Nとは誰だ?

 

 

途方に暮れながらもウォーレンズから出ると、外には男が一人待ち構えていた。誰かの差し金なのか、男は突然殴りかかってきた。相手が素手なのに、衆人環視の場所で剣や魔法で反撃したらこちらが悪いことにされてしまう可能性が高い。よってこちらも素手で応戦するしかない。

 

だがスカイリムに来てからというもの、それなりに荒事にも慣れた。こうなれば殴り合いだ! 相手の打擲に怯むこともなく、俺は両腕を思い切り振りかぶってドライストンの頭を打ち抜く。その後は壁際に追い込んで滅多打ちにすると、以外にもすぐに戦意喪失した。

 

 

名前を訪ねると、男はドライストンと名乗った。誰がやったのかとこちらが凄んで見せると、鼻利きネポスという爺に指示されたんだと涙目で白状した。ネポス……N……? まさかとは思うが、少し揺さぶりをかけてやる価値はあるか。それともこれは深入りしすぎか……?

 

 

ネポスの家を尋ねたが、当然のことながら玄関先で侍女に止められてしまった。だがそのやりとりを聞いていたのか、奥から老人の声がして中に入れることになった。通された部屋の暖炉の前いる老人こそがネポスに違いない。単刀直入にあんたがNなのかと問い詰めると、しらばっくれるわけでもなく観念したように語り始めた。

 

 

かつての大戦のさなか、混乱に乗じてフォースウォーンはマスカルスを占領した。しかしウルフリック・ストームクローク率いるノルドが奪還のために攻め込んで来て、フォースウォーンの王マダナックとその部下である鼻利きネポスは囚われの身になった。その後にネポスは開放されたが、今は牢獄の中にいるマダナックを通じて、二十年の間邪魔者を消すために働いた。それはあまりにも長い時間であった。

 

話が終わったとき、周囲をネポスの召使いたちに囲まれていた。その手には短刀が握られている。ここにいる全員がフォースウォーンだったのだ。なぜネポスが正直に話したのかようやく理解した。確実に口封じをする自信があるのだ。

 

一斉にネポスの手下が襲いかかってきた。だが力の差がありすぎた。俺が手を下すまでもなく、反撃に移ったリディアによってあっという間に全員が斬り伏せられた。たかが鉄のダガーで俺を殺せると思われたなんて、舐められたものだ。

 

 

既に息のなかったネポスの懐から見つけた日記からは、疲れ切った彼の心情が綴られていた。読んでいるだけで、言いようのない切なさに襲われる。ネポスはただの操り人形にすぎなかった。まだエルトリスが満足するような真実にはたどり着いていない。それは俺自身も同じ気持ちだった。

 

 

外に出ると市警隊が待ち構えていた。どうやら事件を嗅ぎ回っている俺のことがだいぶ目障りになったようだ。この街の市警隊はシルバーブラッド家の息がかかっている。ということはつまり、俺が次に行くべき場所はあそこしかない。

 

 

ルバーブラッド家の当主、ソーナー・シルバーブラッドの家に向かった。そういえば、この街の宿屋もシルバーブラッドの名を冠している。もしかしたらこちらの行動は全て筒抜けだったのかもしれない。しかし今は真実を知りたいという欲求が身体を突き動かしている。

 

こっそりと中に入り、鍵のかかった扉をこじ開けて中に押し入った。衛兵を寄越したのはあんたか? ソーナーにそう問い詰めたが、衛兵は誰が自分たちの財布の紐を握っているのか知っていると悪びれずに答える。それが分かったらとっとと出て行け。そう言って取り付く島もない。

 

 

しかしそのとき玄関のほうが騒がしくなった。女の悲鳴が聞こえてくる。それにはさすがのソーナーも焦りを見せた。何者かの襲撃だ! 暗殺者にソーナーの側近たちが次々に殺されていく。ソーナーの妻のリズベットも殺された。俺もやむを得ず侵入者を迎撃することになった。だが暗殺者は死霊術で操られていたようで、息絶えるとすぐに灰になって消えてしまった。

 

 

静かになった家で、ソーナーはようやく重い口を開き始めた。フォースウォーンの王マダナックと取引をし、死刑を免れる代わりにフォースウォーンを暗殺者として使い邪魔者を排除してきた。だが先程の刺客はもしかしたらマダナックが送り込んだものかもしれない……。お前もシドナ鉱山に送り込んでやる! 激昂したソーナーはそう捨て台詞を残し、彼は奥の部屋に引っ込んでいった。

 

 

とりあえず、今わかることはこれが全てだろう。帝国・ストームクローク・シルバーブラッド・フォースウォーン。複数の思惑がこのマスカルスの裏側にあった。だが真実のために流された血の量があまりにも多い。一旦エルトリスの元に戻らなければ……。

 

タロスの祠ではエルトリスが物言わぬ姿に成り果てていた。唖然とする俺の前に、市警隊が現れる。ソーナー・シルバーブラッドめ、初めからこれを狙って……! 市警隊にはシルバーブラッドの息がかかっている。状況証拠を押さえられてしまっては弁護などいくらしたところで無意味だろう。全員を倒して逃げることはできるだろうが、結局お尋ね者になってしまう。

 

お前は鉱山行きだと市警隊の一人が告げた。だが、鉱山にはフォースウォーンの王、マダナックがいる。この窮地を脱するための唯一の方法。そのために俺はあえて大人しく捕まることにした。今は、それが上手くいくことを祈るしかない。

 


【続く】