四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記29『禁じられた伝説・完結編』

 

イヴァルステッドのすぐ側にある墓には、アークメイジ・ゲイルムンドの遺体が今も安置されているという。書物”失われた伝説”によれば、ゲイルムンドとは大昔にゴールドールのアミュレットを奪った息子たちを討伐するため、時の王に派遣された魔闘士のことである。

 

このゲイルムンドの間と呼ばれる場所は、かつてゲイルムンドとシグディス・ゴールドールソンによる一騎打ちが行われ、その死後王によって墓が作られて埋葬されたのだが、それはシグディスをアミュレットと共に封印するための見張りとして仕立て上げるためだったというのが、ダイナス・ヴァレンという人間の唱えた説であった。

 

 

リフテンのディンヤ・バリュの元へと戻る前に、ゲイルムンドの間に潜ってみようと考えた。誓って墓荒らしが目的ではない。小さな湖の中央に浮かぶ島、その中心には洞窟があり、それこそがゲイルムンドの間であった。

 

中は茸が無数に生えており、ジメジメと湿っている。少し進んでいくと大きな穴のある部屋に突き当たる。部屋には遺体がひとつだけあり、”失われた伝説”を携えていた。もしかしたら、かつて自分と同じようなことを考えてこの地にやってきた人間かもしれない。

 

穴を覗くと下は水場である。落ちても死ぬことはないだろうが、戻ることができるかどうかは分からない。だが、ゴールドールの三つに分割されたアミュレット、その最後の一つがここにあるかもしれないのだ。すべてを揃えればかつての強大な魔力が蘇るかもしれない。その誘惑に抗えず、意を決して穴に飛び込んだ。

 

 

飛び込んだ地下の水溜りから上がってしばらく行くと、祭壇の上に安置された遺体があった。ドラウグルと同じように防腐処理が施されていたが、起き上がってくるようなことはない。一緒に置かれていたぼろぼろになった書簡のようなものをかろうじて読むことができ、彼こそがアークメイジ・ゲイルムンドであることがわかった。

 

 

多数のドラウグルを退けながら、ゲイルムンドの間の最奥と思われる棺のある部屋までやってきた。おそらくはここに最後のゴールドールの息子最後の一人、シグディスが眠っているはずである。

 

 

棺に近づくと、ゆっくりと蓋が開いていく。シグディスもまたドラウグルと化しており、安息を妨げるものに対して攻撃をしかけようとしているのだ。そして起き上がるやいなやシグディスは叫んだ。これはシャウトだ! 気付いたときにはもう遅く、声が地下に響くと同時に衝撃が発生し、俺とリディアは吹き飛ばされた。これは”揺るぎなき力”とまったく同じだ! 壁に勢いよく叩きつけられたが痛手を受けたわけではない。

 

 

吹き飛ばされた俺たちに、さらに追撃の矢が襲いかかってくる。その矢は刺さったところからマジカを奪っていく、付呪の力が宿っていた。なんという厄介な相手だ! 

 

シグディスは一定の距離を保ちながら三体に分身し、瞬間移動を繰り返す。弓、分身、瞬間移動、そしてシャウト。なんという厄介な相手だ!! 偽物は少し攻撃を加えただけで消滅するので、リディアと手分けしてそれぞれ別のシグディスを攻撃していった。

 

 

搦め手を使う奴に限って本体は脆いものだ。距離を取られている間は面倒な相手だったが、さすがに二人がかりではそれほど苦労もしなかった。シャウトには何度も吹っ飛ばされたが、これ自体に殺傷能力があるわけではないのは幸運だったと言える。

 

倒れて動かなくなったシグディスから最後のアミュレットの欠片を手に入れる。ついに三つ揃った! が何も起こらない。それもそうだ。冷静に考えてみれば何千年も前に三つに分かれたものがいまさらもとに戻ることなんてないのだ……。

 

部屋の奥からは最初に穴のあった部屋へと戻ることができた。その点では安心したのだが、せっかくの伝説的なアーティファクトが大したことのないものだったという事実に肩を落とさざるを得なかった。とりあえず、リフテンに戻ろう。

 

 

俺はディンヤ・バリュにイヴァルステッドであった出来事を話すと、彼女はその結果に大層満足したようだったが、マーラにとってはまだ精進が足りないらしかった。今度はマスカルスに行ってカルセルモという男に会えというお告げが下った。

 

リフテンがスカイリムの東の端なら、マスカルスは西の端である。マスカルスは以前デイドラの王子サングインによってスカイリム縦断の旅をさせられて以来訪れていない。もう一度くらい行ってみたいとは思っていたのだが、なんという遠さだ……。いや、ここはもののついでだと思うべきか。

 

 

ホワイトランを経由し、ロリクステッドを抜けて西へ西へと進む。あともう少しでマスカルスへ着くと思われたそのとき、荷物袋の中で何かが激しく反応していることに気がついた。何かに引き寄せられるように震える三つの欠片。そう、あのゴールドールのアミュレットだ。

 

街道を外れ、欠片が強く反応する方へ歩いて行くと、とある滝の裏に洞窟を見つけた。以前一度通った道だったが、アミュレットが反応していなかったら分からなかっただろう。俺は誘われるように、その洞窟へと入っていった。

 

 

とても天然のものとは思えない造りの洞窟の奥へと進む。ドラゴンの爪を差し込む仕掛けを解いて進むと、儀式を行う古い祭壇のある部屋へと続いていた。まるでそうすることが定められていたかのように、アミュレットの欠片をそこに置くと、亡霊となったゴールドールの三兄弟が静かに姿を表した。

 

 

しかしこれはどういうことなのだろう? そう思っていると頭の中に声が聞こえてくる。よくぞアミュレットを取り戻してくれた。我が息子たちは愚かにも力に溺れ命を落としてしまった。いまいちど息子たちと戦い、魂が浄化されたのなら分かたれた力はふたたび一つになるであろう……と。誰の声なのかは概ね見当がついたが、その声の主が言うのはつまりこういうことだろう。出来の悪い息子たちを叩き直せということだ。

 

 

まずシグティス・ゴールドールソンが立ちはだかる。戦い方は前に戦ったときと同じめしながら弓で遠くから攻撃してくるという、何回やっても面倒な相手だ。そして角兜を被り斧を携えたジリク・ゴールドールソン。最後は剣を使うミクルル・ゴールドールソンである。

 

いずれもドラウグルのときには使ってこなかった氷雪魔法を使い、こちらのスタミナを的確に奪い攻撃を鈍らせる、以前戦ったときよりもずっと厄介な敵だった。だが三人同時ならともかく、あえて一人づつ戦うのならば苦戦はすれども負ける相手ではなかった。

 

倒された三兄弟はそれぞれ膝を付くと徐々にその姿を消していき、後にはローブを着た一人の亡霊が立っていた。おそらくこれがかつてあの三兄弟に寝込みを襲われアミュレットを奪われたゴールドール本人なのだ。

 

 

彼が分かたれたアミュレットを手に取るとまばゆいばかりの光を放ち、その後には一つに結合されたゴールドールのアミュレットが残されていた。彼もようやく息子たちによって引き起こされた惨禍の念から解き放たれたのだろうか。だがそんな感傷に浸るよりも、俺はついに目の前に現れた伝説のアーティファクトに心が奪われていた。どれだけの魔力が秘められているのか想像もつかない……!

 

 

だが、その期待は脆くも打ち砕かれた。確かに持っているだけで全身の力が増幅される魔力がある。それは付呪としては極めて珍しく、自分の手で再現することは困難を究めるだろう。しかし、しかし……アミュレットに秘められた魔力の大半は既に喪失しており、残されていたのはほんのわずかなものに過ぎなかった。いくら伝説とはいえ何千年も昔の話なのだから、そうなるのも不思議ではないだろう。最初から期待なんかしてなかった! こんなもんだ!!!

 

そう自分に言い聞かせながら、改めてマスカルスへと進路を取った。悔しさで濡れた頬を、マスカルスの冷たい風がそっと撫でていったような気がした。

 

 

【続く】