四十の一部始終

今年で四十歳になりました。一日一回更新が目標。

スカイリム日記21『夜明けの目覚め(後編)』

 

人間はサングイネア吸血症と呼ばれる病気を経て吸血鬼となる。吸血鬼のドレインを受けることによって感染し、放っておくとやがて吸血鬼になってしまう。吸血鬼になる前に治療を受けるか、疾病退散の薬を服用することで治すことができるのだが、今回ばかりは完全に油断していた。

 

吸血鬼になってしまうと、あのモヴァルスのところにいた吸血鬼たちのように人の理を外れて闇の中で生きていかなければならない。もしくは吸血鬼であることを隠して人の世界で生きていくかである。だが吸血鬼が太陽の下で生きていくには大変な不利益が生じることになる。冒険を生業としている自分にとって、はっきりいって現実的ではない。

 

 

だがサングイネア吸血症ならともかく、吸血鬼になった者を治す方法というのは寡聞にして聞いたことがない。もはや万策尽きたかに思われたが、ホワイトランの酒場で情報収集していたときにある噂を耳にしたのだ。なんでもモーサルに住むファリオンという男がアンデッドの研究をしているという……。

 

モーサルに立ち寄ったのがつい最近ということもあり、その名前には聞き覚えがある。街に溶け込む気が一切ない黒いローブ姿の男だった。通りすがりに少し話したことがあるくらいだが、あの男がドラウグルはともかく吸血鬼の研究もしていたなどとは初耳であった。

 

ファリオンの存在は住民から相当怪しまれていたと思うのだが、首長のイドグロッドはそのことについて特に動く様子を見せていなかった。たまたま吸血鬼が街の近くに潜伏していて、たまたま吸血鬼の研究をしている魔術師が街にやってきたのか。考えてみれば出来過ぎな話のように思えたが、イドグロッドには予知能力のようなものがあるらしいので、それを見越していたのかもしれない。吸血鬼から本当に人間に戻れるのかまでは分からないが、その噂を頼りにもう一度モーサルまで行ってみる価値はあるだろう。

 

 

ふたたび山を越えてモーサルに戻ってきた。陽光下での自然治癒やマジカの回復が一切行われないという吸血鬼の性質は思った以上に厄介で、それは要塞の外ではなおさらのことだった。偶発的な戦いはなるべく避けていかなければいけなかったのだが、こちらの都合お構いなしに狼や山賊は襲いかかってくる。リディアの援護なしにはとてもモーサルに辿り着けなかっただろう。

 

 

モーサルに着くと、俺は住民の目から隠れるようにしてファリオンの家の戸を叩いた。開いた戸の隙間から覗くファリオンは、俺の顔を見てだいたいの事情を察したようだった。彼に促されて家の中に入り、吸血鬼から人間に戻りたいと告げる俺に対して、ファリオンは至って冷静に自分がいかに物知りであるかを語った。

 

かつてオブリビオンを旅し、様々な知識を吸収してきたという。怪しげな風貌に見合った修羅場を潜ってきているようだ。それ故に、一度は吸血鬼になることを考えたこともあったが、子供を引き取ったことで断念することになったらしい。だからこそ、吸血鬼を治す術も知っているというのだ。

 

 

彼が言うには、吸血鬼を治すには満たされた黒魂石が必要である。黒魂石とは人間の魂を封じ込められる魂石のことで、俺はファリオンが持っている黒魂石を仕方なく購入することになった。商売上手な男だと思う。

 

そして黒魂石を魂で満たすのにちょうどいい場所がこのモーサルの近くにあった。スノーホーク砦という、死霊術師たちが占拠している場所である。俺はファリオンの家を後にしてスノーホーク砦へと出かけていった。いつもだったら黒魂石を使うなどというのにはためらいを感じただろうが、自らが吸血鬼になり、相手が死霊術師となれば話は別である。

 

 

城壁の上で見張りをしていた死霊術師の前に姿を見せると、そいつは見事に釣られて外に出てきた。そして魂縛の魔法を使ってから軽く捻り上げると黒魂石を魂で満たすことができたのだが、その後が大変だった。

 

外の異変に気付いた術師たちが次から次へとやってきて、意外なまでの激戦になった。死霊術師が死んだ死霊術師を蘇らせるので厄介なことこのうえない。ただし一回蘇った死体はもう一度倒すことによってただの灰になってしまうので、いずれは限界を迎えることになる。そうしてしばらく戦っているうちに砦の外には誰もいなくなってしまった。もう用は済んだはずだったのだが……。

 

 

欲が出た。幸い夜も更けており、自然治癒もマジカの回復も正常に行われていて戦いに支障はない。どうせならと思い砦の中へと入る。砦の中は錬金器具や薬の素材などが大量に並べられており、いかにも魔術師たちの砦といった感じだ。価値の分かる今となってはまるで宝の山のように見える。

 

死霊術師の一人が持っていたメモから、ここは元々山賊の根城になっていたようだが、この死霊術師たちによって追い払われたということが分かった。その証拠に研究室の台の上には山賊だったと思われる人間の死体が散乱しており、実験の痕跡が残っていた。

 

 

死霊術師たちから奪った鍵で砦の中央部の扉を開ける。部屋の中央にはスケルトンが横たわっており、その近くには最後の死霊術師がいた。おそらくこいつが親玉だろう。しかし突然部屋に押し入ったわりには、驚いている様子は一切なく冷静を保っている。どんなに手練れの死霊術師といえど、操るものがなければそれほど驚異ではないはず。しかしこちらが攻撃に移る前に、死霊術師は杖を手にして魔法を放ってきたのだ。

 

 

赤い閃光とともに炎の塊が飛んでくる。咄嗟に身構えたが、魔法が着弾した炸裂音とともに後ろに跳ね飛ばされた。これは……火炎球(エクスプロージョン)!? その爆発は付き従っていたリディアをも吹き飛ばしていた。俺が一発撃つのがやっとのエクスプロージョンを魔法の杖で無数に放てるとは、あまりにも強力すぎる!

 

 

壁に叩きつけられ朦朧とした頭でなんとか打開策を考える。ああいう大きな爆発を起こす攻撃に対してどうするべきか……その答えは、相手にも影響が出るほど接近することだ! 俺は武器をサングインのバラに持ち替えて走り、死霊術師に肉薄した。こう近ければエクスプロージョンによる攻撃はできまい!

 

俺の思惑は的中した。死霊術師は近づいてくる俺に対して爆発する魔法を撃つかどうか一瞬の迷いがあり、その隙に召喚されたドレモラの一太刀が入った。あとは一切手を緩めず総攻撃をかけ、死霊術師は倒れた。落ちていた杖を拾い上げると、やはりエクスプーロージョンの力を持つ杖で間違いない。これはサングインのバラに匹敵するほどのお宝だ。

 

 

朝になり人間の魂が入った黒魂石をファリオンのところに持っていくと、明け方に近くの沼地にある召喚サークルで落ち合うことになった。具体的な場所が分からないので、明るいうちに沼を探索しておくことにする。するとそれほど時間が経たない内にストーンサークルを発見した。多分ここのことを言っているのだろう。

 

 

夜になり再び沼の召喚サークルを訪れた。約束では明け方ということになっているのでそれまで待つ。あまりにも暇だったので、沼に群生していた茸を戯れに口に運んでみると、ピリピリと身体が痺れる。麻痺の効能を持つ錬金素材は貴重だ。麻痺の毒薬は非常に高価だし、武器に塗って使っても極めて有効な逸品だ。俺はファリオンのことも忘れて一晩中茸を採取した。

 

 

夜明けが近くなり空が白み始めてきた頃、モーサルの街の方から歩いてくる男が一人。ファリオンが召喚サークルに到着するとさっそく儀式は始まった。呪文を唱えるとオブリビオンとのゲートが繋がったのか、周囲の空気に微かな瘴気が交じる。俺が持っていた黒魂石が反応し、吸血鬼の力がそのゲートに吸い上げられ身体の隅々から消えていく感覚があった。

 

終わってみると、あっけない儀式であった。ファリオンは満足そうに頷き、俺が礼を言う前に足早に街に戻っていった。こんなところで怪しげな儀式をやっているなどとはあまり知られたくないだろうからしょうがない……そう納得することにした。吸血鬼から人間に戻りすっきりとした気分でいると、山の影から太陽がのぼり始める。光はいつもより眩しく、そして美しかった。

 

 

【続く】