四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記36『マグナスの杖』

 

ラビリンシアンはスカイリムのほぼ中央に位置する遺跡群である。二つの大きな山の間に存在するそれは、いまだに大規模な調査がされたという記録がなく謎に包まれている。ムズルフトの遺跡の設備からマグナスの杖のヒントを得た俺は、ミラベル・アーヴィンたっての願いでここにやってきた。サボス・アレンに託されたネックレスをこの手に。

 

 

ウィンターホールド大学出発前に俺は熟練の魔術師と認定され、より上位の破壊魔法を使うことが許可された。炎・氷・雷のそれぞれ上位であるファイアーボール、アイスジャベリン、サンダーボルト。広範囲を攻撃することを目的としていた精鋭の破壊魔法に比べて、魔力を収束しより破壊力を高めた魔法ばかりである。これから遺跡探索に臨むにあたってはきっと役に立つはずだ。

 

 

遺跡に到着したはいいものの、どこから探せばいいのか……。住み着いていたフロストトロールたちを退け辺りを見回していると、階段を昇っていく亡霊の姿を見た気がしたのだ。それを追いかけていくと、閉ざされた扉が見つかった。

 

なにやら意味ありげな紋様の掘られた扉は、他の遺跡の入り口とは明らかに雰囲気が異なっている。その扉に刻まれた溝の形を最近どこかで見たような気がして、サボス・アレンのネックレスを嵌めてみる。すると静かに扉が開き始めた。そのことに何か引っかかるものを感じつつも、闇の中へと歩みを進めた。

 

 

その中で待っていたのは亡霊? いや、残留思念か? いつだったがアバンチンゼルで見たものと同じだ。話し声は聞こえてくるが触れることは出来ない人の影。かつてあった出来事を映す過去の亡霊たちだ。

 

ローブを被った六人が会話をしているが、そのほとんどは他愛のない話だった。この六人は大学で修行中の若き魔術師であるらしい。血気盛んな若者たちが己の実力を確かめんがために遺跡を探索している……俺にはそんな風に思えた。俺はその亡霊たちを追いかけるように遺跡の奥へと進んでいく。

 

 

レバーの仕掛けを弄って鉄格子を開けるとその先は大広間であった。だが一歩足を踏み入れた途端背後で鉄格子が落ち、背中を守っていたイオナが取り残されてしまう。古典的な罠だ。こちら側にもどこかにこれを開けるレバーがあるはずだと思った途端、かすかに外の光が差し込む広間の中央の穴から巨大な影が立ち上がる。ドラゴン? いや、あれは骨だ!! ドラゴンのスケルトンだ!!!

 

想像を絶する敵の出現に焦りが生まれる。いつもならイオナが先陣を切ってくれるのだが、今回ばかりはそうもいかない。夥しい数のスケルトンが土の中から這い上がってきて、スケルタル・ドラゴンと共にこちらに集まってくる。非常にまずい状況だ!

 

 

俺は近づいてくるスケルトンに対してエクスプロージョンを放つ。スケルトンは耐久力は大したことがない。魔法の爆発によって何匹ものスケルトンが粉々に吹き飛んでいく。その間小癪にも放ってきた氷雪の魔法によってスタミナが奪われていくが、この程度ならまだ耐えられる。なにしろ俺にはマーラの祝福(魔法耐性)があるのだから!

 

スケルタル・ドラゴンも生きたドラゴンほどの強靭さは持っていない。エクスプロージョンによって骨で作られた身体が爆ぜていき、やがて木端微塵になって消えた。くそ…見せかけだけのくせに、ほんの一瞬だが恐怖を味わわされた。鉄格子を開けるレバーは広間の入り口、つまり背後にあった。なんという盲点……。

 

 

広場から先に進むうちに、青い影は徐々に数を減らしていった。多分先程のスケルタル・ドラゴンの犠牲になったのだろう。途中謎の声によってマジカを大幅に吸い取られ、何度も休憩を余儀なくされた。魔力によって凍りついた扉、そしてドラウグルなども行く手を阻む。

 

いまさらだがイオナドワーフの装備一式を与えたのは誤りだったと思うようになっていた。暗闇だとドワーフオートマトンと見間違えることがあって心臓に悪いのだ!

 

 

しかし青い影たちの会話が気になった。サボスとアレン。そう呼ばれる者がこの中にいる。もしかしてアークメイジはかつてこの青い影のうちの一人だったのではないか。そう考えると渡されたネックレスがラビリンシアンの鍵になっていたのにも辻褄が合う。俺はこれから何を見せられるのだろう。深淵へと続く縦穴は何も答えてはくれない。

 

 

深層になるとドラウグルたちは青い亡霊の姿となって襲ってきた。こいつらの使う武器はスタミナやマジカ、体力を奪う力があり厄介だが、非常に軽く扱いやすい。護身用にいくつか持っておいても悪くはなさそうだ。

 

 

回廊を抜け玄室に入ると青い影はもう残り三人になっていた。彼らはかろうじて最深部までたどり着き、仲間同士で醜く言い争い、もはや最初の自信は打ち砕かれていた。あのアークメイジにこんな過去があったのか……。帰らぬ人となってしまった今となっては、そのことを本人に確かめることもできないのだが。そして俺は奥へと続く木製の扉を開けた。

 

その空間には結界があり、二人の亡霊魔術師がそれを作り出していた。その結界に包まれている化け物はどこかで見たことがある。そう、シアーポイントで棺の中から飛び出してきたあの異形の魔術師。それに気付き、あのときの恐ろしさを思い出して背中に冷や汗が伝う。俺はできるだけ結界の方を見ないようにして部屋の中を調べる。だがそこにはマグナスの杖らしきものはなかった。

 

 

あの結界の中にいる化け物の手には杖が握られている。もしかしてあれこそがマグナスの杖? だがそれを手に入れるには、自らの手であの結界を解かねばならないということになる。それには相当の覚悟が必要とされた。

 

覚悟を決めて結界を張っている二人の亡霊を倒すと、化け物が開放された。空気が一瞬にして張り詰めるのを肌で感じる。その化け物は空中を浮遊しながらこちらに近づいてくるが、シアーポイントのときのような瞬間移動は使ってこない。長い間結界に封じ込まれていたせいで力が戻ってきていないのだろうか? それならば好都合だ。あのときはただ逃げ惑うことしかできなかったが、今は違う。魔術師として遥かに腕を上げたのだ。今度は勝つ……!

 

 

幸いにも部屋の中の入り組んだ地形はこちらの有利に働いた。遮蔽物を利用することによって相手の魔法から身を守れる。逆に相手が空中にいてくれるのはこちらからは狙い放題だということ。イオナが弓による援護をして、引き付けてくれている。近づいてファイアーボールで燃やし尽くす! 作戦というにはあまりにも大雑把だが、これが一番確実だ!

 

”お前は誰だ?” 声が聞こえてくる。それは道中でマジカを著しく奪っていったその声だった。あの声の主はこの化け物だったのだ。この遺跡を潜ってきたのはサボス・アレンだと勘違いしていたようだが、あてが外れたようだな化け物め!

 

”お前は……まさかアレンが? 彼がお前を送り込んだのか?” ファイヤーボールを当てるたびに化け物のうめき声が聞こえる。かつてこの遺跡に仲間たちと潜り、生き残ったサボス・アレンが送り込んだ刺客だとでも思っているのだろうか。場合によってはそう取れるかもしれない。もしかして彼は初めからマグナスの杖の在り処を知っていたのではないのか? だが未熟だった頃に出会ったこの化け物の存在をいまだに恐れていて、誰かが代わりに取ってきてくれることを望んでいたのではないか。あまり考えたくなかったが、そう考えるのが自然だ。それが本当なら、嫌な置き土産をしてくれたものだ……。

 

若かりし頃ならともかく、今のアークメイジなら恐れるほどの相手ではなかったのに。ファイヤーボールの炎が化け物を焼いていく。空中に浮かんでいた化け物は今やその力を失い地を這う存在に成り果てていた。思ったほどの相手ではなかった。これほどまでに俺は強くなっていたのだ。

 

 

その化け物は焼き尽くされ、仮面を残して灰になった。何やら不気味な意匠の仮面だが非常に強い魔力を感じる。そして杖も。これがマグナスの杖であるという確証はないが、魔力を吸い取る力があることはわかった。

 

その場を離れようとするとまた青い影が現れた。先程の結界は、サボス・アレンが施したものなのだろうか。若気の至りで眠れる化け物を呼び起こしてしまい、他の仲間を犠牲にして封印した。話の断片しかわからなかったが、そういうことなのだろうと納得するしかなかった。全ては闇の底へ消えたのだ。青い影も二度と現れることはなかった。

 

 

深層部からの帰り道、サルモールの魔術師と遭遇した。どうやらアンカノが送り込んだ刺客らしい。どれだけ自信があるのか、べらべらと聞いていないことまでよく喋る。はっきり言って俺の相手じゃない。ミラベル・アーヴィンが変な気を起こさないうちに、早く大学へ戻ろう。

 

 

【続く】