四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記25『計り知れない深み(前編)』

 

すべての始まりの地、ヘルゲン。あのとき目の前にドラゴンが現れてからこの世界は一変した。そして俺自身の運命でさえも。鉄壁を誇ったはずの帝国の砦もいまは焼き尽くされて廃墟と化しており、山賊のねぐらになっている。門の鍵を強引に突破して中に入ってはみたものの、得られるものは何もなかった。

 

俺が今目指しているのはリフテンと呼ばれるスカイリムの南東、ほとんど地図の端に近い場所に位置する要塞であった。ホワイトランからの道のりは非常に遠く、そして道は険しい。リバーウッドを抜け、ヘルゲンを通り、世界のノドと呼ばれるスカイリムで一番高い山の麓を通ってようやくリフト地方に入る。そこからさらに長い距離を歩いていくとようやくリフテンだ。

 

 

なぜそんなところにわざわざ向かっているのかと言えば、同胞団で起こったこともあるのだが、錬金術の成果物である薬を売る相手がいなくなってしまったからだ。正確には出来上がった薬が高価なため買い取るためのお金を誰も持っていないという、恐れていた事態が起きてしまったのだ。

 

そのために行商人のごとく他の街へと売り歩く必要が出てきたのだが、せっかくだからまだ行ったことのない遠い街まで行こうと考えた。リフテンはソリチュードやホワイトランにも匹敵するほどの大きな要塞だというので、商売をするにも都合が良いはずである。

 

 

ヘルゲンからは峠道になり、ずっと登っていくことになる。長い長い上り坂だ。途中少し道を逸れたところにあるオーファンロックという場所で、ハグレイブンと戦いネトルベインという短刀を手に入れた。これは誰かに取ってきてほしいと頼まれた品だったような気がするのだが、今はちょっと思い出せそうにない。ぼんやりと考えているうちに峠を越えた。

 

 

そして今度は峠を下っていくと一軒の小屋があった。入り口には鍵もかかっておらず、人が住んでいる様子もない。だが置かれていた日記を読むと、かつて一人の錬金術師が住んでいたということが分かった。ここには無数の錬金素材が所狭しと置かれており、まるで宝の山だ。ご丁寧に錬金器具まで置かれており、研究をするのにこれほど適した場所は他にないだろう。庭に毒草ばかり生えているのは気になったが、素材についてはありがたく頂戴し、そのままリフテンに向かう。

 

 

峠を下りきったところにある、イヴァルステッドという世界のノドの麓にある小さな村に宿を求めて立ち寄った。風光明媚だが何もない小さな村で、世界のノドの登山口である七千段の階段というのはこの村にあったのだ。いつか俺もドラゴンボーンの使命を果たすためにこの山に登らねばならないときが来るだろう。しっかりと覚えておかなければ。

 

そこから先は平坦な道のりだった。木立がどこまでも続き、川に沿った道をずっと歩いて行く。幾つもの砦や遺跡の横を通り過ぎていき、まだ見ぬ冒険を予感させて胸が躍った。やがて大きな湖の湖畔に石造りの大きな城壁が見えてきた。あれこそが探し求めていたリフテンに違いない。

 

 

ようやく門の前までやってきたのだが、どうやら俺の思い描いていたリフテンとはだいぶ違うようだ。貸馬車の親父が言うには、盗賊ギルドが街に蔓延って治安が悪化しており、どこにいても気が抜けない街らしい。そして入口で早速その洗礼を浴びることになった。衛兵が交通料を要求してきたのだが、俺は大声で強請られていることを主張すると、鬱陶しそうに衛兵はしぶしぶ通してくれた。

 

 

城壁の中は数多くの家が立ち並んでおり、中央の広場には露天商が何軒も立っていて活気がある。しかもここには売買するものを選ばない雑貨商ばかりだ。中にはスリを唆してくる人間もいたが、話を聞かないフリをしてやり過ごした。

 

 

作った薬を売り捌いているうちに、自分も彼らと同じような雑貨商として、専門店相手にも薬を売りつける会話術が身に付いたのだが、薬売りの悪徳行商人の噂が広まってしまうんじゃないかと少し心配になった。

 

 

住民の話を聞いているうちにリフテンの現状がだいたい把握できてきた。ハチミツ酒で財を成した富豪ブラック・ブライア家。現在は盗賊ギルドの後ろ盾になっていることは公然の秘密であり、権力は首長をも上回っているという。そのおかげでリフテンの治安は悪化する一方であり、住民たちには言いしれぬ不安が広がっているのだ。

 

 

俺は薬の売買で儲けた金を、鍛冶屋・灼熱の戦鎚の主であるバリマンドから技術を習うのに費やした。そしてついに鍛冶の奥義の一つである、魔法鍛冶の技術を習得することに成功した!

 

 

鍛えた武器防具を後から付呪するならともかく、既に付呪されている武器防具を後から鍛えるのは繊細な技術を要求される。今度からは誰の手を借りることもなく自分で行うことができるようになった。鍛冶・錬金・付呪の三つを精鋭の域にまで高め、ようやく自分自身のための防具を作る技術と覚悟が整った。ただし準備が整っているホワイトランに戻ってからになるが。

 

 

要塞の中をうろうろしていると、街の一角に孤児院があることに気付いた。その名もオナーホール孤児院。オナーホール孤児院!? 思わず目を疑ったが、確かにそう書いてある……。なんだか卑猥な響きのする孤児院だが、俺の気のせいだと思いたい。

 

少し興味が湧いたので中を訪ねてみると、ここの院長だと思われる老婆が子供たちをまるで人とは思わぬ態度で叱責しているではないか。あの老婆……街の噂によると”親切者のグレロッド”と呼ばれているそうだが皮肉としか思えない。

 

子供たちの顔にも諦観の表情が浮かんでおり、最近子供が一人脱走したことで躾の厳しさがより増しているという。その子供がウインドヘルムという街へ逃げ出したという話を、施設の子供たちが口々に噂をしている。その子が救世主を連れて自分たちを助けに来てくれると信じているのだ。しかし今の俺にはこの子たちには何もしてやれない……そんな無力感に苛まれそうになり、自己嫌悪に陥る前に孤児院を立ち去った。

 

 

湖に隣接した城壁の出口を出ると桟橋があり、漁を生業としている人間たちが集まっている。要塞内の淀んだ空気とはうって変わって爽やかな風が吹く。たまたまそこに置いてあった釣り竿の糸を水面に垂らし、しばしの間佇んでいると、アルゴニアン(トカゲ人間)の女が声をかけてきた。その女は”辞典”と呼ばれる謎の立方体を持っていたのだが、どこからどう見ても辞典と呼べる代物ではない。強いて言うなら呪いのアイテムか何かか……。

 

 

この近くにあるドワーフの遺跡・アバンチンゼルから持ち出してきて以来、売ることもできず頭を悩ませているという。しかしもう二度と遺跡に足を踏み入れたくないので、代わりに返してきてくれないか……そんな事情だけ話すと、俺にその箱を押し付け女はさっさとどこかに消えてしまった。

 

なんだか体の良い厄介払いをさせられている気がするのだが、この近くにドワーフの遺跡があるという情報を得たのは収穫だった。ドワーフの遺跡はスカイリムに来てから一度もお目にかかったことがないので、いずれ冒険してみたいと思っていたのだ。商売ばかりしていても腕が鈍る。次の目標はリフテンの西にあるアバンチンゼルに決めた。

 

 

【続く】