四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記32『誰も逃げられない』

 

シドナ鉱山。それはスカイリムにおけるの銀の産出量の半分を賄う銀鉱山でありながら、マスカルスのあるリーチ地方の犯罪者を収容する天然の牢獄としても機能していた。シルバーブラッド家はこの鉱山の所有権を持ち、犯罪者という極めて安価な労働力を使うことによって財力を貯え、マスカルスにおける地位を不動のものにしているのだ。

 

ルバーブラッド家は市警隊と癒着しており、俺はタロスの祠から裁判も経ずに直接シドナ鉱山へと連行された。その際全ての所持品を没収されボロボロの布一枚の姿にさせられた。最近はすっかり鎧に頼り切っていたせいか心細い。だが魔法の使用までは封じられていないのは唯一の救いだった。もし誰かに襲われたとしても、魔法で制することができるからだ。灯火を使って視界を確保することもできる。

 

 

背後で鉄格子の錠前が閉められ、看守の足音が遠ざかっていく。中に入ってすぐの広間では一人の男が焚き火に当たっていた。ウラクセンと名乗った男は親切にも俺にこの牢獄のイロハを教えてくれた。看守がここに来るのは一週間に一回のみ。その間に銀を掘り、看守に渡すと労働の対価として食料を渡される。何もしなければ当然食料は得られない。問題を起こせばすぐさま看守によって懲罰を受けることになる。だがこんなところに長居をするつもりはない。すぐにでも脱出のために動き始めるつもりだ。

 

ラクセンはあるノルド貴族に仕えていたが、その貴族がある日何者かに刺されその濡れ衣を着せられそうになった。そこから逃亡しフォースウォーンに入りそこで殺人を犯し捕まったという。ここにいる囚人のほとんどがフォースウォーンであると教えてくれた。囚人は新しい刺激に飢えているせいか、新入りの俺に対して聞いていないことまで話してくれる。こちらはおかげで助かるのだが。

 

マダナックに会いたいと言ったが、それを言うのは新入りだなと鼻で笑われた。つまり簡単に会うことはできないということらしい。とりあえず護身用にナイフを持っておけと忠告された。グリスバーという囚人が持っているらしい。

 

 

広場には入ってきたものとは違う鉄格子の扉があり、強面のオークがそこに立ちふさがっていた。彼はマダナックの用心棒らしいのだが、そこを通りたいと伝えたら通行料を要求された。ナイフをくれたら通してやってもいいと言うのだが……。どちらにせよグリスバーからナイフを手に入れなければいけないようだ。

 

 

グリスバーは坑道の奥の方でつるはしを振るっていた。グリスバーは盗みの常習犯で、何度も窃盗を繰り返しているうちに刑期が無期限に延びていったと愚痴っていた。ここでは誰もが身の上話をしたがるらしい。

 

手先が器用で、銀を掘り出したついでに割れた岩を削り出してナイフを作っているのだという。彼はスクゥーマ(麻薬のようなもの)中毒であり、デュアチという囚人が隠し持っているというスクゥーマを欲していた。

 

 

シドナ鉱山はスカイリム有数の銀鉱山だけあってどこを掘っても銀鉱石が出てくる勢いだが、今の俺は鉱石変化の魔法によって鉄鉱石からいくらでも金と銀が作り出せるのでさしたる魅力はない。デュアチを探して坑道をうろついていると、さっきとは反対方向の場所でデュアチは作業していた。中毒者のふりをして近づくと、その姿を見て同情したのか手持ちのスクゥーマを恵んでくれた。

 

 

スクゥーマとナイフを交換し、ナイフを門番に渡し、ようやくマダナックと会うことができる。オークの持っていた鍵によって開かれた鉄格子の向こうは、小さな牢屋がいくつもありその奥にマダナックの部屋があった。

 

他の囚人の部屋とはまるで違う、酒にチーズに立派な寝床! 一体どうやって手に入れたのかなど、聞くまでもない。なにしろソーナー・シルバーブラッドと通じているのだから。そこで机に向かって筆を走らせる白髪の男がマダナックに違いなかった。身体に深く刻まれた皺がその男の歴史を感じさせる。この男が紛れもないフォースウォーンの王である。

 

マダナックはこちらを一瞥もせず、一心不乱に筆を走らせていたが、こちらの存在に気付くとそのまま話しかけてきた。マスカルスの闇とフォースウォーンの繋がりの話か、それともエルトリスと共に命を狙われた復讐を果たすか。そのどちらかを選べと。

 

 

俺は復讐よりも真実を選んだ。するとマダナックもまた話相手に飢えていたのか、ゆっくりと口を開き始めた。かつての大戦の最中、ノルドに支配されたマスカルスを取り戻したのだが、即座に報復を受けて捕獲され、裁判によって死刑判決を受けた。だがその執行はソーナー・シルバーブラッドによって止められ、それと引き換えにマダナックを自分の操り人形として生かし続けた。マダナックも最初は屈辱的な扱いだと感じていたが、いずれソーナーが油断するそのときまで堪え続けることを選んだ。そしてようやく、その時が来たのだ。

 

お前も仲間になれ。マダナックは暗にそう言っていた。他の囚人たちがフォースウォーンに鞍替えしたように、俺にもそれを求めているのだ。今はここを脱出するという目的のために従ったフリをするべきだろう。面従腹背だ。

 

だがマダナックは仲間になるためには密告者を始末しろと言ってきた。その密告者とは先程ナイフを取引したあのグリスバーらしい。密告者を排除しなければ脱獄はできない。だから俺にその手を汚せというのか……。

 

 

グリスバーの元へ行き、マダナックの遣いでやってきたことを告げた。するとグリスバーは密告者である自分が始末されることを悟ったのか発狂して暴れだした。つるはしを振りかぶり、今まさに振り下ろされようとしている。だが周囲の囚人たちもみなフォースウォーンである。先に手を出したグリスバーを寄ってたかって袋叩きにし、自分が手を下すまでもなく殺してしまった。

 

 

俺がやったわけじゃないが、グリスバーの訃報を聞いてついにマダナックが立ち上がった。広場にフォースウォーンを集め、ついに立ち上がるときがきたと高らかに宣言する。脱出用の通路は既に坑道の中に存在し、隣接するドワーフの遺跡に繋がっているという。囚人たちは鬨の声を上げると、一列に連なり通路に向かって走っていく。置いていかれないように俺もそれについていった。

 

 

ドワーフ遺跡はこれまで誰も足を踏み入れていないらしく、大蜘蛛やドワーフオートマトンが配置されていたのだが、フォースウォーンの士気は高く連携で次々と撃破していく。

 

しばらく走っただろうか、出口と思われる大扉の前にはフォースウォーンの女が待っていた。彼女は武器と防具を用意しており、囚人たちは次々と身につけていく。その中には戦士としての姿を取り戻したマダナックの姿もあった。そして俺がマスカルス市警隊に没収された所持品一式も取り戻してくれていたのだ。これから俺がどうするのかも知らずに。

 

 

武装したフォースウォーンが次々と門の外へと出ていく。そして俺とマダナックが最後に残った。そしてマダナックが出ていこうとしたそのとき、俺の放ったアイスストームの魔法がマダナックを巻き込みながら、扉を凍結させた。

 

マダナックは驚愕の表情で俺を観た。どうやら完全に仲間だと思っていたらしい。個人的な恨みももちろんあるが、これまでマスカルスで起こった事件のことを考えると逃がすわけにはいかなかった。そして今こそが千載一遇の機会なのだ。扉が凍りつき外に出たフォースウォーンも戻ってはこれない。ここで決着をつける!

 

 

意外なことにマダナックは優秀な氷術師であった。連続で放たれるアイススパイクが身体を貫いてくる。あの牢獄の中で権力を維持していられたのは魔術師だったからだ。だがこちらも装備が戻ってきたことで魔法の連続使用が可能になった。アイスストームで持続的に相手の体力を奪う。お互いの氷魔法のぶつかり合いでみるみるうちに遺跡の中の気温が下がっていく。

 

 

魔法の撃ち合いでは不利と悟ったか、氷の魔法が込められた手斧を振るうマダナック。だが手当たり次第に撒き散らした氷魔法の影響でマダナックの動きも鈍っている。あんな牢獄に二十年もいて、体力が衰えていなかったらどれだけ恐ろしい相手だったのだろう。体力が底を尽きマダナックは膝を付いた。だが俺は容赦なく追い打ちをかける。冷たく凍りついたフォースウォーンの王は力を失って横たわり、ついに動かなくなった。マダナックの気の遠くなるような長い戦いはここに終止符を打たれたのだ。

 

 

遺跡の外に出るとマスカルスの街中で市警隊とフォースウォーンの戦いが繰り広げられていた。両者とも多くの犠牲を払い、死体の山を築いている。俺が市警隊に捕まったときの混乱ではぐれていたリディアが俺の姿を見つけて走ってくる。しばらく身を隠していたらしい。再開を喜び合う。ソーナー・シルバーブラッドもこのような戦いが起こることは予想できなかったらしい。彼は戦いに巻き込まれ、抵抗虚しく死んでしまった。

 

 

戦いが終わった。ソーナーとマダナック、マスカルスを裏から支配し多くの人間を不幸に陥れていた二人は倒れた。シルバーブラッド家と癒着していた市警隊にも多くの死者を出し、しばらくは機能しないだろう。脱獄したフォースウォーンも結局街から一人も出られず全員死んでしまった。

 

これで何かが変わるのだろうか。今は残されたマスカルスの民が頑張ってくれることを期待するしかない。しかし今回の事件で俺も有名人になってしまった。ほとぼりが冷めるまではマスカルスには近寄らないようにしよう。

 

 

【続く】