四十の一部始終

今年で四十歳になりました。一日一回更新が目標。

『異動辞令は音楽隊!』鑑賞。

以前自衛隊でらっぱを吹いていたことがある。音楽経験は義務教育以外では皆無に近かったが、部隊内における専門の教育を三ヶ月受ければ晴れて自衛隊らっぱ手となる。らっぱ手になると、駐屯地勤務では主に課業時間に合わせて放送で流れるらっぱを吹いていたが、それとともに自治体のイベントや同じ自衛隊の音楽隊に呼ばれて演奏会などでらっぱ吹奏を披露することがあった。建前としては地域住民との交流及び自衛隊の活動への理解を得るという目的のためだったが、正直なところ頭の中で想像する自衛隊としての仕事とはかけ離れていて、自分自身を納得させるのに苦労した覚えがある。

 

今回観た映画で、そんな昔の思い出が少し蘇ってきた。『異動辞令は音楽隊!』は阿部寛演じる刑事・成瀬司が警察音楽隊に異動という名の実質左遷をさせられるが、実際は警察内のはぐれ者たちの集まりで、これまでとはまったく違う環境の中で戸惑いながらもそこで新たなる自分の役割を見出していく、そんなお話。

 

だがこの成瀬刑事、勤続三十年とのことだが今の時代にはまるで適応できていない古いタイプの刑事で、コンプライアンスの遵守はおろか問題行動ばかりである。強引な捜査と言えば聞こえはいいが違法捜査だし、部下の刑事に当たり散らすパワハラは当然として上司には楯突くし独断専行は当たり前という有様。左遷されるのも当然といえる。

 

そして街では老人を狙った連続アポ電強盗が起きているが解決の糸口すら見えず、音楽隊にいては満足に捜査もすることはできない。犯人を5年前から追いかけていた成瀬の苛立ちは募るばかり。ただ刑事から左遷されて音楽隊に行くことなんかありえるのか? というのはこの際置いておく。劇中の所轄における音楽隊は廃止間際の閑職扱いということになっている。このあたりは現実とはだいぶ異なる部分だろう。

 

音楽隊でパーカッションとしてドラムを担当することになった成瀬は最初はまともに演奏もできないが、トランペット担当の婦人警官・来島春子を始めとする音楽隊の癖のある面々や音楽隊のファンの老婆などとの交流で徐々に上達し、態度も少しづつ丸くなっていく。その丸くなるまでの刑事課に未練タラタラで娘とは不仲で音楽隊ではギスギスするパートが一時間以上あり、正直結構なストレスである。

 

その分後半は成長した成瀬にまるで生まれ変わったような清々しさすら感じられて悪くない。一人がミスをしても周りがカバーすればいい、そんな音楽のありかたからチームワークを学んだ成瀬は他人に頭を下げることすら厭わなくなり、それまでの刑事としての強い拘りを捨てる。実際自らの誤りを認めるというのは非常に勇気のいることだし、その間違っていた期間が長ければ長いほど認めるのは難しくなってしまう。この成瀬の成長には見習うべきものが数多くあった。

 

音楽隊も当初はやる気もなく下手くそで給料泥棒とまで言われる始末なのだが、成瀬のやる気に呼応するようにバラバラだった音楽隊も段々ひとつにまとまっていくのは王道だがカタルシスがある。最初の演奏なんか本当に酷いものなのだ。この作品内で演奏されるのは結構な有名曲ばかりだが、特にお気に入りなのはここぞというところで演奏される『宝島』だ。これまでの音楽隊とはまるで違う軽快なパフォーマンスも含めて、それまでの鬱屈した空気を一気に塗り替えるほどの気持ちのよさだった。

 

連続アポ電強盗、部下の刑事との問題、音楽隊廃止の危機……その全てに決着を付けた後の最後の演奏は阿部寛の自前のドラムプレイで、たった三ヶ月練習しただけとは思えないほどのカッコ良い。阿部寛はかつて身長の高さゆえに役者に向いていないと言われたことがあるそうだが、その高さが遺憾なく発揮されている場面だと思えた。作品の最終的な爽快感は相当なものなのだが、その分序盤の暗さ(実際映像も暗い)がちょっと辛い感じがするが対比として重要な部分だけに難しい。

 

大のおっさんが真っ当に成長するのは素直に感動するし、子供時代に親にやらされていたことや、刑事時代に部下に教えたことが問題解決の糸口になっていたりするのは、人生でこれまでやってきたことに無駄なことなんてないんだよ! というメッセージを感じさせるもので、少し勇気づけられた感じがする。同じ監督の前作『ミッドナイトスワン』ほど諸手を挙げて絶賛とまではいかないが、いい映画だったと思う。