四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記8『猛勉強(後編)』

 

フェルグロウ砦を守っていたのは魔術師と精霊の混成部隊であったが、地上の守りはそれほど重視していないらしく少数に留まっていた。闇夜に乗じて侵入したかったのだが砦の入り口は固く閉ざされており、解錠に手間取っているうちに見つかってしまった。

 

初めての魔術師との戦いだ。はっきり言って俺などとは比較にならないくらい、相手の方が魔法での戦闘に長けていた。魔力の盾と破壊魔法を巧みに使い分け、こちらの魔法を無力化しながら的確にダメージを与えてくる。ドラゴンとの戦いのときとは逆に、俺が敵を引き付けつつリディアが斬りつけるという戦い方に自然となっていた。手強い相手だったが、魔術師の戦い方とはこういうものなのだと学ぶ良い機会になった。

 

 

炎の精霊が守っていた場所から砦の地下に通じる階段があり、暗闇に閉ざされたその通路は忍び込むにはちょうど良かった。一度に大勢の魔術師に囲まれるようなことがあれば危険極まりないが、そこには幸いにも無警戒な魔術師が何人かいるだけで排除は難しくなかった。

しばらく進むと牢屋の並ぶ部屋があり、その中には何人もの人が捕まっていた。人? そう判断するには明らかに様子が違っていた。こちらに敵意をむき出しにし、鉄格子が無ければ今にも襲いかかってきそうだ。解放するのは止めておこう……。

 

 

隣の部屋に入った途端むせ返るような血の匂いが鼻孔を満たし、気分が悪くなる。こちらの存在に気付いた魔術師たちを排除すると、ようやく周囲を落ち着いて見ることができた。何人もの人間が台の上に横たわり死んでいた。天井からぶら下がる檻の中にも人が閉じ込められていたが、こちらも既に事切れていた。ここは……人体実験の研究室だった。魔術師の要塞とは聞いていたが、その実態は魔術師たちの闇の研究所だったのだ。

魔術師とは本来知識の探求者である。俺はあくまで先人の研究結果を使わせてもらっているただの利用者に過ぎない。しかし新しい魔法を作りたいとか、利用法を見出したいなどという場合には犠牲はつきものである……しかし実際にその光景を目にすると決して気分のいいものではない。俺はうんざりしながら砦の地下のさらに奥の部屋へ早足で進む。

 

 

再び鉄格子のある部屋へやってきたが、先程とは様子が違い助けを呼ぶ声が聞こえる。生存者がいるのか? 灯火の光に気付いたその男が激しく鉄格子を揺らしていたので、名前を尋ねるとオーソーンと名乗った。本を返せと詰め寄ると、こちらが大学の使者だと察したのか謝罪の言葉を口にする。俺はあくまで本を取り返せと言われているだけで、こいつの処遇については何も言われていない。何もするつもりはないから本の所在を言えと男をなだめると、本はこの魔術師集団の長である召喚師の女に取り上げられたという。その後用済みになってここに閉じ込められたというわけだ。

 

 

レバーで鉄格子を開けてやると、オーソーンは外法の魔術師集団に仲間入りしようとしたことを後悔しているようだった。しかしこいつも一応魔術師のはずだ。せっかくだから本を取り戻すまで手伝ってもらうことにしたが、自分を閉じ込めた恨みからか意外にも乗り気であった。三人での戦いとなれば心強い。

その奥の部屋に砦に登る階段があった。魔術師たちの抵抗はさらに強くなったが、こちらが三人になったことで戦いはだいぶ楽になっていた。オーソーンは召喚魔法を得意としており、炎の精霊を呼び出すことにかけては俺よりも上だったのだ。

 

 

砦を一階づつ制圧していき、最上階にやってきた。円形のホールにいたのはただ召喚者とだけ名乗る女が一人。部屋の中央を挟んで対峙しながら本を返してほしいと頼んだが、女は威圧的な態度を崩さない。どうやらよほどの使い手らしく、話し合いでは返してくれそうもない。張り詰めた空気が場を支配する。

お互い無言の時が流れた。先に戦闘の口火を切ったのは俺だった。三対一で負けることは考えられない。手元から放たれたファイアボルトが直撃する! そう思った瞬間女の姿が消えた。それと同時に三体の精霊が暗闇から姿を現したのだ。三対四、一気に形勢逆転されてしまった! 伊達に己を召喚者と名乗っているわけではないということか……。

女はテレポートを駆使しながら精霊による攻撃頼みの戦法のようだ。オーソーンが炎の精霊を召喚し、なんとか数の上では五分五分に持ち込む。しばらく観察していると、女は精霊と入れ替わるようにテレポートしていることに気が付いた。先に精霊を排除しなければ。精霊の攻撃に晒されながらも一体づつ倒していくと、やがて行き場を失った女は素早く駆け寄ったリディアの両手大剣によって斬り伏せられた。

 

 

一時はどうなるかと思ったが、魔術師だけあって肉体の強さは人並みだったらしい。俺たちは誰も居なくなった砦の最上階を捜索すると、大袈裟に飾られた三冊の本を発見した。召喚者にとってよっぽど大事な本だったらしい。オーソーンに確認すると、大学から持ち出した本で間違いないようだ。少し中身を読んでみると、”涙の夜”という題の一冊にはサールザルで過去に起こった出来事が記述されていた。これがウラッグにとって重要な本だったというわけだ。

 

砦の入り口でオーソーンと別れ、俺たちはまた何日もかけて大学へ戻った。ウラッグに取り返した本を渡すと大層喜んで、約束の本を全ての魔法の分野にわたってなんと六冊も用意してくれていた。それらの本は魔法の力を伸ばすのに役立ったのだが、それ以上に今回の戦いによって積まれた経験が、俺の魔術師としての能力を向上させていたのを確かに感じていた。