四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記26『計り知れない深み(後編)』

 

ドワーフあるいはドゥーマーと呼ばれる種族は、かつてこのタムリエル(スカイリムのある大陸)で隆盛を誇っていたが、ある日を堺にこつ然と姿を消した。禁忌に触れ創造主に種族ごと消されてしまったという説が有力だが、今その行方を知るものはいない。このアバンチンゼルもそのドワーフの遺跡のひとつ。今も蒸気が吹き上がり中からは歯車の駆動音が聞こえてくる。この遺跡はまだ生きているのだ。

 

 

遺跡の内部は金属のような光沢のある壁で覆われており、ところどころ光を放つ石が設置されているので探索には支障がなさそうである。しかし中に入ってから少し経つと不思議なことが起こった。

 

幽霊でもないし魔法でもない、幻なのか残留思念なのか、実体の無い薄ぼんやりとした人影が見えるのだ。その影は四つ。よく見ると、俺に”辞典”を渡したあのアルゴニアンの女もいる。まるで記憶を覗き見ているかのような……。

 

 

奥へ進んでいくその人影を追うが、この遺跡の守護者である自動人形(オートマトン)が行く手を阻む。金属の身体を持つその人形は、特殊なドワーフ金属によって作られており、剣も魔法も通りにくい厄介な敵である。倒すと中から宝石や魂石が出てくるのだが、これが動力源なのだろうか? 山ほど手に入ってこちらとしては助かる。

 

このアバンチンゼルは図書館として作られた、というのは影同士の会話によって得られた情報なのだがここには本など何も置かれていないのだ。”辞典”と呼ばれるこの立方体こそが本の代わりということなのか? 疑問は尽きない。どんどん奥へと進んでいくと野営の跡が残っていた。おそらくこの影の四人残していったものに違いない。歩き疲れていたのでしばしの間休息を取ることにする。

 

 

探検を再開し、やがて工房のような場所に出た。まだ組み立てられる前のオートマトンが幾つも横たわっているが、主を失ったその人形たちが完成することはもはや無いのだろう。中にはここまで遭遇しなかった大型のものもあり、もしこれが動いていたなら苦戦は免れなかったはずである。

 

 

通路に死体が横たわっている。四つの影のうちのひとりがそこで引き返し罠にかかって死んだのが見えた。そのおかげで自分は罠にかからず助かったのだ。このドワーフの遺跡の中でも、回転する刃が飛び出してくる罠には何度か冷や汗をかいた。少しでも油断したら全身をくまなく切り刻まれて死ぬだろう。最深部、大きな扉の前にあった死体も同様の方法で殺されていた。気が付けば影は二つになっていた。

 

 

大きな管の間を抜けて、ついに最深部と思われる広間に到着した。そこには既にバラバラになった大型オートマトンの他に、完全な形で残されていた大型のオートマトンが鎮座していたのだ。

 

もしや……こいつまだ動くのか? 近づいた途端部品同士が擦れ合うような音と、身体から吹き出す蒸気がまるで大きな唸り声を上げたかのようにオートマトンが動き出した。なんという迫力だ! 両手は槌と弓を合わせた形をしており、手数を増やすために召喚した炎の精霊はその腕の一振りによって一撃で倒された。それならと思って召喚したドレモラも今回ばかりは分が悪く押されている。

 

 

接近戦では重い強烈な一撃を放ち、離れれば熱い蒸気で狙い撃ってくる強敵だ。普通だったら、こちらもそう長くは持たなかっただろう。だが錬金術の腕を磨いていたおかげで治療薬も大量生産していたのだ。金属の身体ではない生身の人間だからこそ、この戦いに勝機がある!

 

 

長期戦となったが我慢比べはこちらの勝利に終わった。動力の切れたオートマトンは、小型オートマトンのようにバラバラになることはなかったものの、倒れこみ置物のように動かなくなる。そして再び動き出すことのないよう、核となる部分を抜き取っておいた。一時はどうなることかと思ったが、やってやれないことはないものだ。

 

 

そして広間には”辞典”が収まりそうな台座があり、その前には四つの影の三人目の死体が横たわっていた。この台座から最後に生き残ったあのアルゴニアンの女が辞典を抜き取ったのだと理解する。ではこの台座に戻せばいいのだろうか。辞典は台座にすっぽりと収まるとにわかに光を放ち、その瞬間頭の中に誰のものともつかない様々な記憶が流れ込んできた。

 

 

俺に見えていたあの影は、この辞典を通して見せられていたあのアルゴニアン女の記憶そのものだったのだ。この台座から抜き取ったとき、女の記憶の一部がこの辞典に移されたのだ。それと同時にわずかだが、辞典に貯えられていたドワーフの技術の一端を垣間見た。ほんの一工夫加えるだけで、武器防具の出来栄えが変わるコツのようなもの。大いなる古の知識であった。

 

 

流れ込んだ記憶の再生から我に返ると、今の閃きを忘れない内に鍛冶に取り掛かりたかった。大急ぎでアバンチンゼルを脱出し、ホワイトランまでの道のりはあっという間だった。

 

自宅に保管してあった月長石の鉱石を精製したインゴットをから、エルフの装備一式(兜・鎧・篭手・ブーツ)を作り出す。そして地道に買い集めていた鍛造の秘術を封じ込めてあるアミュレットと革の手甲を身に着け、ブリスターワートという茸とスプリガンの樹液を混ぜることによって出来る鍛造の秘薬によって普段の何倍もの集中力が一時的にだが発揮される。完成するまで何本もの秘薬を服用しながら、一心不乱に防具を鍛え上げ、ついに伝説の武具と見紛うほどの逸品が出来上がった!

 

 

しかしこれで終わりではない。青い蝶の羽とハグレイブンの爪によって作られた秘薬を用いて、今度は出来上がった防具に付呪を行う。その付呪とは、破壊魔法の負担軽減! 魂石に縛った魂が付呪を介して防具に宿り、魔法を使用する際に消費されるマジカを肩代わりする。それを全身の防具に行えば、破壊魔法の使用によって消費するマジカが大幅に軽減されるはずである。

 

 

手と足の防具には魔法負担軽減の付呪を行う術がないので、急遽金で作った首飾りと指輪を用意した。そして秘薬を飲み精度を上げて付呪を行う。使用する魂石はもちろん極大サイズの結晶に極大サイズの魂…たとえばドラゴンやマンモスの魂を縛った最高品質のものだ。これなら大きな成果が期待できる。

 

 

そうして完成したエルフの装備一式を身に着けてみた。金属製のはずなのだが革の装備と同じくらい軽く、そして遥かに丈夫な防具なのだ。ただし元々細身のエルフ向けのデザインのため、身長があまり高くなく横幅が広い俺が身につけると少々不格好なのが玉に瑕だ。そして金色に輝き少々目立つ。

 

俺は装備の効果を確かめるため、ホワイトランの人目につかない場所でエクスプロージョンを唱えてみた。これまでは俺のマジカ許容量では全てを絞り出しても一発撃つのがせいぜいだったのだが、今はまるで負担を感じない。これまで不可能だった二連の唱え(ダブルスペル)ですら可能になっている。

 

う、うわあああああ! 凄い! 凄すぎる! 調子に乗って10回ほどエクスプロージョンを使ったらようやくマジカが底をついた。まさかこれほどとは……。俺はとてつもない火力と、そして比類なき守備力を同時に手に入れてしまった。

 

【続く】