四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』鑑賞。

映画館にポスターが貼ってあって、なんかすごいタイトルだなぁということは覚えていた『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』。原作はビッグコミックスピリッツに連載されていたらしいのだが作品の存在自体今回が初耳だった。観に行ったのは本当になんとなくで強い理由はなかったのだが、正直運命の出会いを感じた作品だった。こういうことがあるからアニメを見るのが止められない……!

 

物語は東京上空に巨大な円盤が現れて以降、それが存在しているのが当たり前になってしまった日本が舞台。円盤の出現や米軍による新型爆弾の投下から三年が経ち、高校3年生になった小山門出と中川鳳蘭(通称おんたん)は受験や卒業を間近に控えながらも、地味だが気の合うクラスメート三人を加えた仲良しグループで残りの青春を謳歌していた。しかしその日常生活の裏側で日本政府や自衛隊の円盤対策や、在日米軍の暗躍、情勢不安による陰謀論や政治活動が広がっていて、仲良しグループの身内にも少なくない影響を与えていた――そんなお話。

 

率直に感想を述べるなら、かなり好きなタイプの作品で結構刺さった。緩めのキャラにリアルな背景、不穏な空気の中でも過ぎていく日常。日陰者というわけではないけれど、かといって陽キャでもないサブカル趣味の女の子たちなりの青春模様がよく描かれていて惹き込まれる。そして二人の主人公のうち、眼鏡っ娘の小山門出ちゃんが滅茶苦茶好みで、これだけでもう元は取ったような気分。

 

門出はいわゆる眼鏡地味子と言っていい美少女の記号で描かれていない見た目なのだが、高校の担任教師に片想いをしていてその教師にふと肩を叩かれてかーっと意識したり、教師の家であるアパートの一室に上がり込んで精一杯アピールしてみたり、普段色恋沙汰に縁のなさそうな女の子がここぞというときに見せる精一杯の色気みたいなのが画面の向こうから伝わってきてとにかく可愛かった(教師の方も手を出すでもなく、さりとて何も感じてないわけじゃない反応を見せるのがいい)。もちろんメインキャラとして出ずっぱりなので、この作品は個人的に10年に一度、いやそれ以上の眼鏡っ娘アニメの聖典の座に躍り出た。

 

この作品はキャラクターデザインの美醜の差が激しくて、普通の人間とクリーチャーが混在していると錯覚する程度には極端。良い方に捉えればちゃんと描き分けされていると言える。メインとなる主人公二人とその仲良し女子高生グループ三人は最初どう見ても可愛くないよね? くらいな感じだったのだが不思議なものでわりとすぐに慣れた。それどころかそんな彼女たちでさえもしかしたらちょっと可愛いんじゃないか? と思えるくらい魅力の垣間見える一瞬の切り取り方が巧みなのだ。

 

それだけに中盤以降の展開はショッキング。自衛隊の新兵器によって墜落した円盤の事故に巻き込まれてしまう悲劇や、小学生の頃からの付き合いという門出と鳳蘭の出会いのエピソードは最初に示される門出視点と、後から語られる鳳蘭視点では大きく食い違っており謎が深まっていく。まるで邪悪なドラえもん? デスノート? 魔法少女まどか☆マギカ? ウルトラスーパーデラックスマン? そんな作品の名前が思い浮かんでしまうような、小学生の身にもたらされた大きすぎる力によって徐々に暴走していく幼い正義感と最悪の結末。それが何だったのかについてはおそらくパラレルワールド的なものなのだと想像するしかないが、それがはっきりしないままに事態を決定的に変える出来事が起こり前章は終わってしまう。

 

巨大円盤が突然東京上空に現れたと聞くと突飛な設定に思えるが、ある日突然日常が非日常に変わってしまい、非日常の方が段々当たり前になっていくような出来事は我々も少なからず経験しているはずだ。東日本大震災や新型コロナ、この円盤はある種そういった出来事のメタファーであるといえるかもしれない。それだけの変化が起こった後でもその状況を人は仕方なく受け入れていくし、物理的にも心理的にも影響を受け続けている。非日常の中でも青春はあるし、不穏な空気は常に付きまとっている……眼の前に見える脅威からは目を逸らしたまま。そういったシチュエーションを非常によく描けていると思う。

 

はっきり言って前章の段階ではどういう方向に話が転んでいくのかはまだ分からず、面白そうな素材がいくつか並べられているだけのような状態なのだが、そのいずれにもかなり興味がそそられる。前章の最後に起こった出来事と、地球滅亡まであと半年!のテロップでこれからとんでもないことになるのでは?と後章に少なくない期待を抱いてしまうのだが、不安材料としては原作を読んだ人間はオチが弱かったと皆口を揃えて言っていることだ。今回の映画化で原作者がラストシーンを描き下ろしているらしいので、その辺の問題が解決していることを願う。後章は5月24日公開。