Ave Mujicaの独特の世界観を表現した寸劇と、主題歌でもある『KiLLKiSS』のフルコーラスを披露して幕を開けた『BanG Dream! Ave Mujica』。前作の最終回でデビューしてからそれほど時間は経っていないはずだが(どんなに長く見積もっても3ヶ月も経っていないはず)、ライブが終わって早々に取材があり既にスケジュールに忙殺されていることが伺える。Ave Mujicaの世界観を忠実に守ろうとしているオブリビオニス(豊川祥子)に対して、他のメンバーであるドロリス(三角初華)、ティモリス(八幡海鈴)、アモーリス(祐天寺にゃむ)にはそこまでの拘りがない。モーティス(若葉睦)は質問を投げかけられても何も答えられない。前作でも喋るたびに祥子を怒らせたり長崎そよとの仲が決裂したりして、睦は自分が喋るとダメになるというのを非常に気にしているのだが、今回は祥子のフォローによって事なきを得る。
インタビューが終わってにゃむがマスクを外そうとするが、祥子は顔バレを防ぐために楽屋まで着用し続けることを徹底させるという念の入れよう。顔の全てを覆っているわけでもない仮面ならとっくに顔バレしていてもおかしくないが、アニメの仮面っていうのはそういうものなのだ。気にしてはいけない。配信者として短期的な数字を欲しがるにゃむと、長期的な計画でAve Mujicaを存続させようとする祥子との間にすでに軋轢が発生しているのだが、にゃむの言うことも間違っていないのが問題をややこしくする。祥子がワンマンで何でもやってしまおうとしてメンバー間の意思疎通をしていないせいでもあるのだろう。でも芸能人の初華と大物芸能人の娘の睦の顔を隠した状態で既に十分な人気があるのだから、もう少し祥子の手腕を信じても良さそうなものだが。
海鈴は揉め事が始まると特にフォローもせずその場を立ち去る。前作の海鈴はAve Mujicaより前は30バンドを兼任するベーシストで現在も活動しているバンドは10ほどだと言っていたのだが、1つのバンドにあまり深入りする質ではない…というのが見ていて伝わってくる。睦を気にかけたり、燈を励ましていたりした描写からすると意外とすら思う。初華は祥子がこのバンドをずっとやり続けるつもり…つまりずっと祥子といっしょにいられることを望んでAve Mujicaに入ったこともあって、目をキラキラさせて無邪気に祥子を見ている。祥子にとっていずれ仮面を外すことはあっても今ではない…そういうプランニングなのだが、表向きのパフォーマンスは完璧でも楽屋裏ではメンバーそれぞれの温度差があって、早くも暗雲が立ち込めているのがAve Mujicaというバンドなのだ。
祥子は初華と共にライブ会場を後にし、海の見える公園でロマンチックなひとときを過ごす。そう思っているのは初華の方だけかもしれないが。レインボーブリッジが見える場所なので、Roselia映画の頃から出てきているG:WAVEってお台場にあったんだと初めて知った。初華は幼い頃は離島で過ごしていたが、その島に別荘を持つ豊川家がたまに島を訪れそのとき出会った祥子にずっと憧れている。だからsumimiというアイドルユニットを既にやっていながらも、祥子の誘いには迷いなく乗ったという経緯がある。正直もっと裏があると思っていたのだが、初華は想像以上に純粋で少年のようにピュアな感じらしい。sumimiとしての活動はあまり乗り気ではなく、Ave Mujicaの活動を気分転換とすら言ってしまう。だがそのひとときを祥子の電話着信が終わらせる。画面に表示されていたのは赤羽警察署。映画館で見たときは正直笑ったし、TV放送でXのトレンドに入ったのを見て二度笑った。笑い事じゃないんだけど…。
酔いつぶれていたところを警察に保護されていた父親の身柄を引き取る祥子。警察署がスマホに登録されているほどなのでこういうことは一度や二度ではないらしい。フラフラの父親を連れて有名な呑み屋街である赤羽一番街を突っ切って帰るのは、今祥子が置かれている境遇を如実に表していて残酷ですらあるのだが、父親を肩に担ぐど根性祥子の姿はとても元お嬢様とは思えないほど逞しい。Ave Mujicaの発起人の件もそうだが行動力が凄すぎるのだ。目の前の困難は自分の手で乗り越えようとする。そして辛いとか苦しいとかは決して口に出さないし、同情なんてもってのほかというプライドの高さ。これが豊川祥子というキャラクターなのだ。ボロアパートに帰ってさらに作曲までやるのには思わず乾いた笑いが出る。
ここからは祥子の回想というテイの、『It's MyGO!!!!!』答え合わせの時間。祥子にとって、音楽の原点は母親にピアノを聴かせるためだった。病弱な母と、まだまともだった頃の父、そして幼い祥子。祖父は頼りない父の素養を既に見抜いているのか、相当厳しく接していることが伺える。だがその幸せな時間は長くは続かず母親は早逝してしてしまい、祥子は深い悲しみに打ちひしがれることになる。
睦と共に月ノ森女子学園に進学していた祥子はそこで高等部の先輩たちが結成したバンド・Morfonicaの演奏に触れたことで音楽に対する情熱を取り戻し、自らもバンドを結成しようと立ち上がる。CRYSHICの誕生である。メンバー集めは燈が最初だと思い込んでいたけど違ったらしい。燈より先にそよを誘っていたとは。燈が飛び降り自殺しようとしていたと勘違いしたのも、母親のことで人の死に敏感になっていたからだったからで、春日影の歌詞に感銘を受けていたのもきっとそのせいなのだろう。
CRYSHICの初ライブを終えてメンバーがSNSのコメントに目を通しているさなか、祥子のスマホには父親とのやりとりが表示されていた。だが祥子は父親から送られてきたメッセージを見てショックを受ける。祥子の父は母が無くなった後も頑張っていたらしいのだが、祖父の会社で大損害を出しその責任を取って豊川の家を追放されてしまったのである。その額…168億。地面師でも55億なのに168億の詐欺!? さすがにやらかしのスケールが大きすぎる。そよの母がタワマンの最上階まで上り詰めるなら豪邸からボロアパートまで落ちぶれることだってあるはずさと自分を納得させていたが、さすがに168億はとんでもない額だ。しかしこれは借金ではなく祥子の父が返済しなければいけないわけではない。あくまで勘当されただけなのだが……。祖父は娘の忘れ形見として祥子を引き取るつもりだったが祥子は父親との情を優先し、母の形見であろうと思われる人形だけを持ってみずから豊川の家を飛び出す。箱入り娘がどうやって生きていくつもりだ! とごもっともなことを言っているが、あなたの孫は只者じゃありませんでした。
祥子は父の住んでいる赤羽のボロアパートを探し出したが、既に酒浸りのダメ親父と化していた。おそらくこれまでやったこともなさそうな掃除を始める祥子のお嬢様っぷりが遺憾なく発揮されていて、シンクを掃除する姿にはちょっと興奮してしまった。そのうえまだ中学生の身でありながら働かない父親の代わりにアルバイトを探して生計を立てようとする祥子だったが、当然雇って貰えないので早朝の新聞配達をするど根性祥子。あまりにもガッツがありすぎてもはや尊敬の念が生まれてきた。生活保護を受ければいいとは思うものの、追放されたとはいえ豊川の人間だから父親は多分顔も割れてるし実家に援助してもらえでたぶん終わってしまうんだろうな。
自ら飛び込んだとはいえ完全にヤングケアラーになってしまった祥子。その結果月ノ森を辞めることになってしまったが、CRYSHICとはまだ完全に切れたわけではなかった。そよが心配してメッセージを送ってくるが、まだスマホ登録されてなかった頃の赤羽警察署からの電話によって中断させられてしまう。この時点ではまだ祥子からそよへの好感度がかなり高い状態だったのは少し驚いた。まだ心の余裕があったということか……。だが警察から帰る途中の祥子は情けなくも再起を誓う姿の父親を見てCRYSHICを辞めることを決意。睦の余計な一言もあって結果的に解散することになる。雨の中、これまでずっと気を張って生きてきたであろう祥子が大泣きするシーンを見ていると胸が張り裂けそうになる。彼女が手放したものはそれだけ大きなものだったのだ。
ここでMyGO!!!!!側の視点に移るのだが、暗いAve Mujica側に比べて明るいMyGO!!!!!側に笑う。完全に息抜きパートのつもりだこれ! 今は付箋と集めているという燈がRiNGのカフェのテーブルの上に並べているのを冷ややかに見ているそよ、一方愛音は今大人気のAve Mujicaのライブチケットに当選したことを喜んでいた。そよがめちゃくちゃ興味無さそうな返事をすることすら嬉しくなるのだが、にゃむちの動画を見てるっぽい発言をしたのは少し意外だった。自主的に見そうな感じではなかったので、もしかしたら愛音の影響なのか? 愛音はAve Mujicaにあまり興味の無さそうな燈を必死に説得しようとするが、今度はRiNGの店員である立希に阻止される。立希はAve Mujicaの寸劇を見てこんなのバンドじゃないと一蹴。楽奈はこの場にいないので愛音の視線はそよに注がれることになる。くぅ~!これこれ! この短い時間にMyGO!!!!!テンプレが余す所なく詰め込まれていて思わずニヤニヤしてしまう。完全に癒やしだ。それにしても愛音の流行り物にはとりあえず食いつくミーハーさが話を動かすのに便利すぎる。他のメンバーがバンド意外興味なさすぎるから。
そんな呑気なやりとりをしている一方で武道館ライブを直前に控えた祥子。だが短期間で武道館ライブまでやるようになったことを知った父はあまりの祥子の凄さに打ちひしがれ、拒絶。いなくなってくれとまで言われた祥子はついに荷物をまとめてボロアパートを飛び出す。酷い父親だというのはその通りなのだが、全然気持ちが分からないというわけではない。実際祥子が凄すぎるから、こういう出来た娘が近くにいたら自分なんて…と思ってしまうこともあるかもしれない。いや酷いし最低だけど結婚指輪をまだしているあたり妻をまだ愛しているらしい描写もあるし、悪人ではないと思うが心が弱すぎた。祥子が激怒するのも当然で、豪邸生活を捨ててまで父に尽くしてきた意味を失い、残されたものはAve Mujicaだけになった。父親と切れたのならもう実家に戻ることも出来るんじゃないか? と思うが今のところは気にしないでおく。全てを忘却するため、祥子はAve Mujicaのステージに望む。
武道館ライブがスタートした。舞台袖に控える祥子とにゃむだったが、今日のにゃむはとりわけ祥子に対して含みがあって何かやらかしそうな空気がこの時点でプンプン臭っている。台本通りに舞台は進行し、このまま演奏に入るかのように思われたが、突然アモーリスがブックを破ってアドリブで仮面を取ってしまう。会場は騒然となり、ライブを見に来ていた愛音は動画で匂わせがあったので驚きというよりやっぱりといった反応を見せる。そよは結局愛音に付き合ってライブを見に来たが、ひとりだけバングルライト付けてないのは周囲と温度差ありすぎて笑ってしまった。
アモーリスはそのままモーティスの仮面も取り、人気芸人と演技派女優の娘として顔が知られている睦の素顔が晒されてさらに会場は大騒ぎに。興味無さそうに見ていたそよもそれにはさすがに驚いた様子だった。CRYSHIC再結成の話には一切乗って来なかった睦がこんな仮面バンドをやっているというのが分かったら、そりゃいい気はしないだろう。そしてティモリスの仮面も剥がされ、残すところはドロリスとオブリビオニスだけ。ティモリスはこのブック破りには不服のようで、かなり厳しい視線をアモーリスに向ける。これ普通だったら契約違反とかになりそうな行為だけど大丈夫なのだろうか……。オブリビオニスの計画がおじゃんだからってだけじゃなくて、関係各所に迷惑かかりまくるぞ。まあバンドリはややファンタジーな世界だから、細かいことを気にしちゃいけないが。観客にとって海鈴はディスラプションのベーシストという認識らしいのだが、そんなに有名だったんだIt's MyGO!!!!!劇場版に出てたあの人たち。
アモーリスによって予定外の展開になってしまったことでオブリビオニスも場を収めるためにアドリブで仮面を外すことになる。祥子は一般には知られていない存在のはずだが、会場にいたそよにとっては自分たちのバンドを捨てて新たなバンドで活動しているというのはあってはならないことだった。最後に残ったドロリスにオブリビオニスは仮面を取らないよう首を横に振ったが、何を思ったか祥子の指示を無視して仮面を取ってしまう。そのことにはさすがの祥子も予想できなかったのか驚きを隠せない。ここの初華が現役で売れっ子アイドルらしく本当に自信に満ちていて美しい。その後は舞台は通常通りに進行し、祥子のアドリブによってなんとか場は収まったかのように見えたが、まるで終わりの始まりのようなそんな雰囲気を漂わせて1話は終わる。
というわけで展開も早いが中身も濃い、ボリュームたっぷりの第1話だった。説明的なアニメではないためしっかりと描写を自分で読み解いていく必要があってやはり面白い作品だと思う。もっと引っ張ると思っていた祥子の父親の存在や顔バレは1話にして投げ捨てられ、完全に予想は裏切られた。こうでなくっちゃな……。たった1話でこのスピードなのに、1クールあったらどれくらいやばいことになるのか想像もつかない。合同ライブのことを考えたらそんな酷いことにはならないだろうとメタ予想したくなるが、全員ぶっ壊れたとかあり得ないわけではない。先月末からそよ視点のMyGO!!!!!漫画も始まり、これを読むことでよりAve Mujicaも味わい深くなるはずだ。というか今更あの45階のバルコニーに文脈が発生するとか思わないだろ!