四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

『マイスモールランド』鑑賞。

2023年2月6日にトルコ南部を襲った大地震は、トルコとシリアに跨るクルド人の住む土地を多く含んでいた。クルド人とはかつてオスマン・トルコ帝国の領土内に居住区を持つ民族であったが、第一次世界大戦の敗北によって引かれた国境線によって、クルド人の住んでいた地域はトルコ・イラン・イラク・シリアなど複数の国に跨ることになった。”国家を持たない世界最大の民族”と呼ばれながらも、それぞれの国では少数派となったクルド人は迫害を受け国外へ逃れるものも多く、その一部は日本にもやってきた。日本では埼玉県蕨市川口市に約2000人の在日クルド人が住んでいるとされている(Wikipedia調べ)。最近たまたま再上映で観た『マイスモールランド』は、埼玉県川口市に住むクルド人少女の青春と受難を描いた作品である。

 

17歳のクルド人・サーリャは、父親が反政府デモに参加したことで国を追われ、幼い頃から日本で過ごしてきた。クルド人の生活習慣を守る父親と違い、ずっと日本で育ったサーリャは同世代の日本人に近い感覚を持っており、夢である教師をこころざしながらも、日本に溶け込めないクルド人と日本人との間を取り持つ役割を押し付けられることで多忙を極めていた。大学進学のため家族に内緒で始めたコンビニのアルバイトで、東京の高校に通う聡太と出会い親交を交わすサーリャ。しかし難民申請が不認定になったという報せを受け、不法滞在として扱われると無許可で埼玉県外に出られなくなり、父親は就労もできなくなってしまう。

 

はっきりいって、かなり出来がいい。2022年の作品だが2022年に観ていたら多分ベスト10には入れたかも。青春映画のままならなさとは、本来親であったり学校であったりするわけだが、この『マイスモールランド』ではさらに民族や宗教といったものにまでサーリャは雁字搦めになっていて、ヤングケアラーさながらの忙しさのなかでもがく姿が描かれる。父親に決められたクルド人男性の許嫁が存在しながらも、聡太という心許せる同年代の異性にどうしようもなく惹かれていったり、埼玉と東京という境界線が近くて遠い二人の関係のメタファーとして作用したり、社会派映画でありながら青春映画としての情感もたっぷりあるのだ。

 

在留資格カードに穴を開けられて無効にされる場面などは身を引き裂かれるような苦しみをひしひしと感じられたし、父親が入管に収監されてからのサーリャとその家族が置かれた状況には同情せざるをえない。日本は難民認定が非常に渋い国であるというのは耳にしたことがあるが、この作品と同じような状況に置かれた人に対しては、よく審査したうえで柔軟な対応をしてもらいたいと願うばかりである。在日クルド人に関してはトルコ政府と日本政府との国家間の関係もあり、一筋縄ではいかないようなのだが。

 

現実問題としてこの難民認定、結構悪用されてもいる。不法滞在の外国人が不法滞在以外の罪を犯し実刑判決を受けても、難民申請をすればその間は本国に送還されないという入管法のバグがある。そして実刑判決を受けた外国人の半数近くが難民申請をして送還を免れているという事実。日本国内にもそれを支援する者がいるのだ。法改正が必要だと思うが、わかっててやってる支援者もたいがい悪質だと思うし、日本の難民認定が渋い理由にはこいつらのせいもあるんじゃないかと思わなくもない。ちょっと映画の感想からは脱線してしまったが、ちょっと入管が悪者にされすぎてるので個人的には肩入れしたい気持ちになった。