四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

『トラペジウム』鑑賞。

乃木坂46一期生の高山一実が現役時代に書いた小説を、押しも押されぬ人気アニメ制作会社クローバーワークスがアニメ映画化! ……それ以外何も分からない公式サイトのトップページを見て、ちょっとヤバいんじゃないかと最初は思った。中身に言及せず、スタッフとか原作者の名前をウリにする作品に個人的にいい思い出がなかったから。だが公開後急に牙を剥き始めたYoutubeの本編映像の数々を見て、この作品もしかして別の意味でヤバいのでは…? そう思って観に行くことにした。

 

主人公である女子高生・東(あずま)ゆうはアイドルに憧れる女の子。アイドルになりたいという夢を叶えるため、自分の名字になぞらえて東西南北に由来する三人の美少女を仲間にするという計画を立て接触を図るという、恐ろしいほど意味不明なスタート地点から始まるこの物語は、徹頭徹尾東ゆうという女のエゴイズムによって牽引されていく。様々な策を弄して四人集まった後は、アイドルになった後のことを考えボランティアでアリバイ作りをしたり、学園祭では体育館で行われているライブに誘導してメンバーに興奮を焼き付けようとしたりと打算的でありながら、ノートになぐり書きされた浅はかな計画を実行に移していく。だが集めたメンバーはアイドル業に対してそれほど熱意のある者ばかりではなく、当然のごとく計画は破綻していくことになるのだが……。

 

アイドルものなら主人公たちがアイドル業を通して自己実現を果たし、四人で力を合わせて頑張って成功への道を駆け上がっていく……ような大団円を想像するかもしれないが、そうはならない。アイドルなので当然歌って踊るシーンもあるものの、たったの一回という割り切った作りである。かつてアイドルの輝きに脳を焼かれたゆうは、アイドルになりたいという目的はあるもののそれ以外のことが極めて空虚で、他人を自分がアイドルとして輝くための駒のようにしか思っていないが、人間のフリをするのだけは上手いサイコパス系主人公。積み上げられた不安材料はやがて頂点に達し、カタルシスすら感じるような鮮やかさで転落していってしまうのだが、この作品はむしろそこからが本当の始まりと言えるかもしれない。東西南北を揃える途中で知り合いになった男の子がボランティアで地道に腕を磨いた結果夢を掴む結末には、アイドルの原作者なりの憧れというか、思うところがあるのだろうかと思ってしまうあたりは自分もやはりアイドル小説であるという偏見を捨てきれていないのかもしれない。

 

制作がクローバーワークスということでこれまでのTVアニメーションでも見せた堅実なキャラの芝居も健在で、画面の構図や陰影を使って東ゆうという人間の存在感をこれでもかというほど浮き上がらせていく。東以外の西南北の女の子たちも非常にキャッチーな魅力があるものの、やはりこの作品はゆうで持っていると言っても過言ではない。なんで東西南北を集めようと思ったのか結局最後まで明されないが、自分がその一部として切り離せない確かな枠組みが欲しかったのかなと想像するしかない。総作画監督の一人にけろりら氏が入っており、そのせいなのか肝心なシーンでキャラが『ぼっち・ざ・ろっく!』になってしまうのはちょっと気になるどころでは済まなかった。めちゃくちゃ印象には残ったけども……。

 

ものすごく刺さった!というわけではないが、ドロドロのストーリーを展開しているわりには最後の方はすっきりする感じになっていて、青春腹黒物語でありながらエンタメとしても成立していたと思う。上映時間は90分ちょっとだし、スパっと終わって後味を引かないので想像したより気軽に見られる作品ではあった。