四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

『響け!ユーフォニアム3』第7話”なついろフェルマータ”の感想。

 

ここのところ体調不良でブログをお休みしていたのだが、このままだと一週遅れどころか二週遅れになりそうだったのでちょっと気合を入れて更新していきたい。今回は第7話”なついろフェルマータ”。フェルマータっておっぱいに似てるよねなどというしょーもないネタをやっていたアニメがかつてあったが、吹奏楽コンクール京都府大会が終わり夏合宿前のお盆休みの期間を描いたエピソードであると思えば、フェルマータの意味にふさわしいインターミッションのような回であるといえる。そしてお盆休みと言えば毎年恒例のプール、水着回であるわけだが、単なるサービス回ではなくこういうところに重要な要素をぶっ込んでくるのがユーフォニアムである。心してかかろう。

 

まずAパートは真夏の京都コンサートホールから。北宇治が無事府大会を突破したところ……ではなく、府大会までで終わりになるいわゆるB編成の方だ。原作では府大会前後にもう少し描写があるが、A編成の方は勝つのが当然と言わんばかりに飛ばされてしまった。B編成の中心にいるのは前回姿が見えなかったフルートの三年中野蕾実。三年生で唯一のB落ちになってしまったので、かつてのチームもなかの全員コンクールメンバー入りとはならなかったようだ。前回落ちてしまったさつき、低音一年の佳穂や弥生に加え、ホルンのタケカワさんもよく見るとこっちにいる。弥生はさすがに正装でバンダナは巻かないらしく、パッと見誰だか分からなかった。A編成55人にこのB編成36人を足した計91人が現在の北宇治高校吹奏楽部の全容である。”もなか”の愛称はすっかりB編成の愛称として馴染んでおり、その名前の元となった三人も今は卒業してしまった。原作ではB編成の指導は美智恵先生が担当しているが、本番では滝先生がちゃんと指揮してるらしい。美智恵先生がボックスティッシュ用意してるのは完全にギャグだった。

 

夏休みに入り、幹部ノートのやりとりをバックにコンクールメンバーの練習にも益々熱が入る。秀一がノートのやり取りくらいにしか出てこなくて影が薄いのがアニメの数少ない不満だ。月末の関西大会のための夏合宿を直前に控え、吹奏楽部は最後の自由時間ともいえる3日間のお盆休みを迎えようとしていた。

 

夏合宿前のミーティングで、合宿の一日目にオーディションすることが部員に伝えられる。滞りなく説明を済ませドヤ顔の久美子。部長としてもようやく板についてきた感じがある。途中メガネの部員が並ぶカットが挟まるのはちょっとおもしろかった。ミーティングが終わったあと、B編成がもなかと呼ばれていることの由来をつばめに尋ねているが、その辺に関しては1期14話(円盤のオマケ)を見ると分かる。3期で副監督を務めている小川太一氏が演出を担当していた名エピソードである。久美子は真由に対して壁を作ってしまったことを気にしていたのか、真由に声をかけたが下級生に質問されたことで打ち切られてしまう。部長という役職によって、久美子という個人の思惑通りいかないのは三期を通してよく描かれている。

 

低音パートの練習シーン。原作ではこの前にサンフェスの件でサリーが久美子にお礼を言ってきたり、関西大会での強豪校について少し説明が入る。メンバー落ちしても腐らずすずめたちの練習を見てやるさつきが本当に健気で偉い。弥生が冗談を言って佳穂が笑ういつもの和やかなムードだが、久美子が戻ってきても真由だけは席を外しておりタイミングが合わない。

 

部活後に一緒に帰る久美子と麗奈。いじらしいやりとりの後、例年通りみんなを誘ってプールに行くことに。真由を誘っていいか久美子が訊ねるが麗奈は了承する。夏休みの学校で写真を撮っていた真由は久美子からプールに誘われると喜びを顕にする。これまでの真由からすると本当に嬉しい!って感じの声色だ。久美子の方もこれでようやく真由とのわだかまりが解消できそうで素直に喜んでいるのだが……。プールに行くメンバーは低音女子メンバーに加え釜屋つばめと剣崎梨々花という結構な大所帯となった。求は唯一の男子ということで誘われなかったのだが、原作では4話冒頭にあった姉の墓参りに行くからということになっていた。ここですずめからじゃあ塚本先輩も誘えばと気を遣われるがさすがに久美子も気まずいのか却下される。プールの話とは別に、休みの初日に奏は梨々花と一緒に電車の吊り広告にもあった大学説明会に参加するということで、久美子と葉月も便乗して参加することになった。思わぬ奏の意識の高さにダメージを受ける久美子。

 

そうして吹奏楽部はお盆休み前の清掃の時間となり、各パートが担当を受け持つ中低音パートは楽器準備室の清掃。発掘されたチューバ君のきぐるみを被った佳穂がイジられて緑輝がそれに反応する懐かしい雰囲気のところに、北宇治吹部OGである去年の部長吉川優子と副部長中川夏紀がやってくる嬉しいサプライズ。夏紀はそれほどイメージが変わっていないが、優子はデカリボンなどと揶揄されていた通り子供みたいな頭の大きなリボンが特徴だったのが大学生になったためか少し小型化したようだ。まあキャラクターのシンボルすぎて取れないよな……。二人はお揃いのヘアピンをつけたりして、控えめながら色々な関係を匂わせている。この作品は特別な関係のキャラにはそういう匂わせをするのが定例になっていて、あすかと香織は水着をお揃いにしたりピンキーリングつけたり、久美子と麗奈もそれを真似てお揃いの水着を買いに行ったりしているという。つまり優子と夏紀もその領域に足を踏み入れたということだろうか……。ユーフォのスピンオフ小説である吹部引退後の卒業前の南中カルテットを描いた『飛び立つ君の背を見上げる』を読めば、想像力を働かせるには十分な描写があるのだが、このヘアピンの話自体は原作にも存在していないので、本当にファンサービスといった感じだ。

 

OGふたりによる差し入れのアイスを部員たちが取っていくが、奏だけはダイエット中だからと受取拒否。奏は夏紀が来てからは露骨に不機嫌そうな表情で、本当に分かりやすい奴だ。大好きな先輩に会えて本当は嬉しくてしょうがないのに。その後のOG二人と現部長とドラムメジャーの会話。ここでの会話は原作で緑輝のやった関西大会の強豪たちの説明の部分を兼ねた感じになっている。求の祖父である源ちゃん先生が関西三強だった明静工科高校から龍聖に移ったという話で、顧問の存在がそれほど大きな影響を与える。優子と麗奈はかつては香織のソロを巡ってバチバチやりあっていた二人とは思えないほど穏やかなリスペクトを感じられる関係になっており微笑ましい。窓の外を歩いている奏はアイスはいらないと言っておきながら、ちゃっかり夏紀と久美子が食べているものと同じものを口に咥えていて、本当は好きなくせに眼の前では素直な態度を取らない可愛さがあるアニオリ描写もあり満足感はあったのだが……だが、みぞれの演奏会に行く話がカットされてしまった!? 原作ではお盆休みの最終日にあるはずのみぞれの音大の演奏会に行くかどうかという話を二人からされる。鎧塚みぞれは作品トップを誇る人気キャラだし、傘木希美のフォーマルな装いも見られるということでここは絶対削らないだろう…と三期アニメ放送前に予想していたのだが、元からファンサの意味合いが強そうなエピソードで話の流れとしては浮いた感じなのと、尺がカツカツのアニメでは入れられなかったようだ。残念でならない。

 

そして吹奏楽部の短い夏休みが始まった。大学説明会に参加するため久美子と葉月、奏と梨々花の四人が集まったのはたぶん京都東山にあるみやこメッセ。原作でもはっきりと明示されてはいるわけではないが、東山駅の近くだと書かれている。自分も京アニ放火事件の追悼式で一度だけ訪れたことがあるのでそのときのことを思い出してしまう…。久美子は葉月と一緒に会場を周るもやはり結論は出ないまま。二人は説明会の返りに喫茶店に立ち寄る。この喫茶店は実在のお店で東山駅近くの『あるぺんローズ』というらしい。色々あって覚悟を決め、葉月は美智恵先生からの勧めもあって保育士になるために短大に行くことを決めたようだ。改めて担任であり吹部の副顧問でもある美智恵の凄さに感心する二人。葉月が教師になった久美子を想像したりするが、これは結構いい線行ってるんじゃないかと思う。部員ひとりひとりのことを見て、性格や希望を把握しながら部を運営する、部長の久美子がやっているのはわりと近いところではある。

 

志望校も決まらず焦る久美子が家路につくと、お盆休みだけあって姉の麻美子も家に帰ってきていた。原作では2年生編でもたまに家に帰ってきており父親との険悪なムードもなくなっていったらしいがアニメでは二期以来の登場。久美子と麻美子の会話も原作とは若干異なり、原作では久美子の成績を見て具体的な受験のアドバイスをしてくれたりする。二期の終盤で仲直りして以降はすっかりいい姉妹関係になっている。原作で麻美子と父親が直接会話を交わすシーンは無かったが、アニオリでお土産の入浴剤を渡すシーンが描かれたのは良かったと思う。好きなことを仕事にするなんて夢が自分にもあったけど、今はお母さんの安定した仕事についてほしいという方に理解を示してしまうのは自分も歳を取ったからかな……。

 

それが終わるとお盆休みの二日目、久美子たちがプールに行く日に。場所は例年通り宇治の太陽が丘のプール。NHKになってから露骨なサービスシーンはやらないのかなと思っていたが今回はバッチリ水着回。でもこういうときこそ油断ならないシリアスをぶち込んでくるのがユーフォというアニメであり色々な意味で身構える。プール参加メンバーの中ではみっちゃんとサリーが結構なナイスバディで目の保養的にありがたい。久美子と麗奈の水着交換は原作読んだときにこいつら正気か!?と思ったものだが、あらためてアニメで見るとやっぱり尋常じゃない。誰が見ても、梨々花あたりは二人はただならぬ関係なんだなと思うだろうし、梨々花あたりは薄々そう思っているだろう。バストサイズが違いすぎてトップスの交換ができなかったらしいのが余計に怪しさを増幅させている気がする。梨々花はリズと青い鳥以来のもじもじした動きをしているのがファンサービス感ある。それに引き換えつばめはスク水だか競泳用水着みたいな感じで色気が無さすぎる。真由は結構大胆な黒のビキニを着ているっぽいのだがパーカーを羽織っていてその全容が分からないのがもどかしい。

 

麗奈とつばめが席を外し残った真由と久美子が並んで座る。当たり障りのない会話を交わす二人だが、久美子と麗奈が水着交換しているのを仲良さそうと羨む真由に対して久美子も真由がつばめと仲が良いと切り返す。原作では麗奈とつばめも同席している中での会話なので、久美子の発言に対してつばめがやや不穏な反応を見せたりもする。おそらく友達の少ない同士なのでつばめがいなかったら一緒にご飯を食べる相手もいないとまで言われるほど。そのせいか真由はすずめの誰とでも話せて仲良くできる性質を羨む。久美子は真由ちゃんもそうでしょ?と一年生から好かれていて優しいし話しやすいしちゃんと教えてくれるから…と言うのだが、個人的には1年のときに部長の晴香から「優しいなんて他に褒めるところがない人に言う台詞でしょ!?」と言い返されたときのことを思い出しそうになった。久美子はそういうこと言う。

 

真由はみんなが喜んでくれるからそうしているだけだと言う。思えば清良で吹奏楽部にいたときもみんなが喜んでくれるから頑張ったと言っていた。このことでだんだん真由の人間像が分かってくる。真由には執着がなく結果にも特に拘りがない。普通の人より自分がないと表現する真由のことを、久美子は中学時代を思い出すような相手だからこそ苦手意識を感じていた。悔しくて死にそうという気持ちが持てなかった頃の久美子だと。この辺は原作ではぼんやりと触れられるだけだが、アニメではわりと対立軸を鮮明に映し出している。久美子にとっては苦手意識というか同族嫌悪のようなものがある。

 

この後去年北宇治が演奏した自由曲”リズと青い鳥”の話が出てきてアニメだとわりと唐突な流れなのだが、原作だと1年のときに清良にいた真由は駅ビルコンサートで北宇治と一緒になったときのことを覚えており、吹奏楽コンクール全国大会では銅賞を取ったことや密かに応援していたことなども話す。そして転校前に北宇治のことを調べて去年の関西大会では”リズと青い鳥”を演奏したことも知っていたというその流れの中で出てくる話である。そのせいかリズと青い鳥に関する感想もアニメと原作ではだいぶ違う。リズはどうしてたくさんいる動物の中で青い鳥に固執したのか。でも普通の人はそういう風には思わなくて、なにかに固執するのが普通なのだと真由は思っている。そういうのがまったく無い人のことを本気で好きになることは絶対にない…なぜなら自分がそうだから。なんというか、真由はそういう虚無感をずっと抱えて生きてきたんだろうなと思えるような発言だ。自分を持たず、誰かの望むまま生きてきたような人間。真由はつばめから差し出された飲み物さえ、自分からは決められずにつばめに選ばせたほどに。この辺次々に水着のカットが映っていくが全然頭に入ってこなかった。

 

ここからは夢のシーンを除いてほぼアニオリ。プールから上がって集合写真を撮る久美子たち。もちろんカメラマンは自分では写りたがらない真由。だが先程の真由との会話で久美子には思うところがあり、真由も集合写真に入ることを提案する。そして原作では三日目に入るはずのみぞれの演奏会はアニメでは飛ばされてお盆休みが終わり、ふたたび吹部の練習の日々が始まる。久美子と麗奈が楽器準備室に入るとそこには既にトランペット二年の小日向夢がいた。夢がついしてしまったネガティブな発言で、去年卒業した加部友恵からネガティブ発言禁止の約束をしていたことを思い出して自省する夢。アニメではやらなかったが、加部ちゃんのおかげで夢が演奏者として一皮剥けたイベントは一応あったことにはなってるらしい。原作では二年生編のわりと大きなイベントのひとつなのだが……。そこに真由が現像した写真をみんなで見ようと思って持ってきた。今の時代もまだそういう写真入れる袋あるんだな~みたいな感じで懐かしくなったが、そこには真由も写っているはずの集合写真だけがなかった。真由は現像にうまくいかなくいて…と言い訳をするのだが、まあそんなわけはない。写真に写りたくないというのは、よほど自分の自分のことが嫌いなのかそれとも一緒に写っている相手に対して何か思うところがあるのかのどちらかだと思うが、プールでの久美子とのやりとりを見るに前者なのかなぁと思う。もしかしたら本当に写真写りが変だからという可能性もあるが、そんなことでわざわざ意味ありげな演出はするまい。久美子ちゃんはどうして私のことを誘ってくれたのかな?と質問する真由の身体は半分磨りガラスに隠れており、その意図は読めない。真由は久美子の本音が聞きたかったようなのだが結局それは叶わず、真一人納得したようにオーディションはちゃんと吹くから心配しないでと言う。久美子はオーディションで一番うまい人が選ばれて最高の演奏をして金賞を取ることを望んでいる。真由は部長としての久美子の言葉を、自分が望まれていることだと受け取った……のかもしれない。

 

第7話は原作前編の350Pあたりから一気に飛んで、後編の86Pまで進んだ。いろいろあったが特に真由についての掘り下げが印象深い。原作にはない、アニメ独自の解釈。原作既読でも黒江真由という人物像について理解できているという自信は無くて、今回のアニメで改めて”黒江真由”というキャラクターに向き合っているという感覚ということもあって、今回の話は特に興味い。次回二度目のオーディションを含めた夏合宿が始まる。もう波乱の予感しかない。