熱心にマーラを布教していたある日、リフテンの街にドラゴンが舞い降りた。いくら強固な城壁を誇る要塞とはいえ、上空からの攻撃には意味がない。住民総出によるドラゴンとの戦いが始まった。俺も被害を拡大させまいと必死で魔法を放つ。しかし広場にいた物乞いのエッダがドラゴンの氷の息によって命を落とした。
多分初めてのドラゴン襲撃だったのだろう。住民たちは呆然とその死体を見つめていた。戦いが終わるとエッダの遺書が見つかり、その内容によるとどうやら俺が相続人として指定されていたのだ。俺はただ何回か金を恵んでやっただけだったのだが、そこまで恩を感じているとは意外だった……。
人の死を目の当たりにして少々感傷的になってしまった。家を買ったばかりなのだが、少しの間街から離れたい気分にかられる。俺は長い間一緒に旅をしたリディアと分かれ、新たに俺の私兵となったイオナを同行させることを決意した。ホワイトランの家の留守を任せられるのはリディアしかいない。俺たちはしばしの間別れを惜しんだ。
そして次にイオナのための装備を調達する必要があった。リディアにはオリハルコン製のオークの防具一式を与えたのだが、同じではつまらない。鍛冶の技術を磨くためにも俺はドワーフの装備一式を作ることにした。
見た目はドワーフのオートマトンの外装そのものである。非常に重いがその分高い防御力を誇る。イオナは屈強なノルドの女戦士であり、重装備も難なく着こなしてくれた。ただしガチャンガチャンと歩くたびに煩い音が出るのが難点だ。それについては靴に消音の付呪をすることで解決しよう。
前にスクゥーマの運び屋を探しに闘犬を行っている洞窟へ行ったのだが、そのとき北へ抜ける道を発見していたので、次の目的地はストームクロークの本拠地でもある要塞ウィンドヘルムに決めた。
だがその道中、俺はひとつの遺跡を発見した。そこはウィンターホールド大学が探し求めているマグナスの杖の在り処ではないかと目されている、ムズルフトの遺跡であった。俺は大学の命令に反発してあえて遺跡を探さなかったのだが、目の前を通ったとあれば話は別である。あれから結構な時間が過ぎた。そろそろ何食わぬ顔で大学に戻ってもいい頃だろう……。
中から駆動音が鳴り響き、ところどころから蒸気を放つそこはドワーフの遺跡に違いなかった。入ってすぐのところに遺体が転がっていて、所持していた文書からガヴロス・プリニウスという名の男であることが分かった。ローブを着た姿からサイノッドとはこの男を含んだ魔術の研究者の集団のことを指しているのだろう。俺は男の懐にあった鍵を見つけ、扉を開けて先に進んだ。
ムズルフトの内部は以前入ったドワーフの遺跡とそれほど違いはなかったのだが、ドワーフ・オートマトンの他に暗闇に生息するファルメルがところどころに天幕を立てて居住しており行く手を阻まれた。ファルメルはシャウラスという毒を持つ巨大な虫を従えており、面倒なことこのうえない。そしてところどころでサイノッドのものと思われる死体が転がっている。
鍵がかかって開かない扉を尻目に奥へ進んでいくと、アバンチンゼルで戦った巨大なオートマトン(ドワーフ・センチュリオン・マスター)が宝箱を守っていた! あまりに狭い場所での戦いで攻撃を満足に避けることもできず苦戦させられたが、サングインのバラによってドレモラを召喚し、三人がかりで反撃に転じた。
オートマトンを倒すと宝の中から扉の鍵が出てきて、それで先に進むことができるようになった。最深部ではより強力なファルメルたちが待ち構えており激しい戦いとなった。戦闘終了後に錬金術の素材となるファルメルの耳を切り落として集めていたのだが、ファルメルの内の一人が大きなクリスタルの塊を持っていた。なぜファルメルがこのようなものを……? 疑問は尽きなかったが、とりあえず物珍しさから持っていくことにした。
最深部の一角には固く閉じられた扉があり、どこにも鍵はなく内側から閉められているようだった。コンコンとノックしてみる。ファルメルにはドアをノックする文化はないはずなので、もし中に誰かいればこちらが人間だと分かってくれるだろう。
ノックに反応して中から声が聞こえてきた。どうやらこちらをガヴロス……遺跡の入り口で倒れていたサイノッドと勘違いしているようだ。扉が勢いよく開かれる。ローブ姿のサイノッドが姿を現すが、こちらがガヴロスではなかったことに狼狽えていた。
ガヴロスは死んでいた、そう告げると男は発狂寸前のようにおかしくなったが、俺が先程拾ったクリスタルを観ると様子が一変した。それがあれば俺の計画が実現できる! 悲嘆に暮れていた声がすぐさま興奮したものに変わったのだ。彼は長いことここに閉じ込められて情緒不安定になっているのかもしれない。下手に刺激しないよう話を合わせることにしよう。
道々説明しよう、そう言ってパラトゥスは部屋の奥へと歩いていく。途中にはベッドロールがいくつも敷いてあり、食べ物の入った樽がいくつか置かれていて、ここで生活していたことが伺えた。しかしベッドの数に対して一人しかいないとは、一体何があったのか。やはり長いこと閉じ込められて頭がおかしくなってしまったのか?
部屋の奥には大きな球体のようなものが安置されていた。遺跡の他のものと同様にドワーフ金属で作られており、魔法の灯火によって鈍い黄色の光を放っている。男はこれをオキュロリーと呼んでいた。
その球体の周りを螺旋状に登る道があり、その頂点では天窓から差し込む光がクリスタルによって増幅されて強い輝きを放っている。そして俺が持っていたクリスタルを中央に置けと男が言ったのでその通りにした。すると仕掛けがひとりでに動き出し天井から差す光を集め始める。そしてその光は乱反射しそれぞれ違う角度に向かって放たれる。
これだけなのか? そう思っていると、クリスタルを暖めることによって膨張し、冷やすことによって収縮し、光の角度が変わるのだと男に説明された。つまり魔法によってなんとかしろということだ。
しかし壁に光を当てたところでなんだというのだ? 俺は他にも何かないかと探してみると、三つのスイッチによって天井に仕掛けられた三つの円がそれぞれ動くことが分かった。そしてその円には同様のクリスタルがひとつはめ込まれている。
もしかして、反射した光をそのクリスタルに当てればいいのか!? 俺はその閃きを信じて、右手と左手からそれぞれ火炎と氷雪の魔法を放ちながら根気よく調節していく。やがて中央から放たれる三条の光がそれぞれ壁のクリスタルへと当たり、その光がある一点へと収束していった。
これは地図だ! スカイリムを含むタムリエル北部の地図が壁に投影されていて、その一点にはひときわ強い光で印が点けられている。スカイリムのほぼ中心地。地図を見るとそこはラビリンシアンという巨大な古代の遺跡群のある場所である。そこにマグナスの杖があるとするなら、なかなかにお誂え向きの場所のように思えた。
しかし男にとっては満足のいく結果ではなかったらしく、不機嫌な表情でさっさと帰れと激しく追い立ててくる。ずっとその場にいたら噛みつかれそうな剣幕だったので、すぐにその場を離れた。
帰り道、久しぶりにサイジック会のネリエンの幻影が姿を現し、一旦大学へと戻るようにと忠告してきた。しかもできるだけ早く。今大学では何かが起こっているらしい。俺はムズルフトを出ると、ウィンターホールドへの道のりを急いだ。
【続く】