四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記9『善意』

 

図書館の本を取り戻してから数日。大学の寮で休息を取っていた俺は、この機会に同じく大学に滞在していた学友たちと親交を深めていた。聞くところによれば彼らはそれぞれ悩みを抱えており、解決できそうなものは解決し、そうでないものは話を聞くだけに留めた。

 

 

間違って上げてしまったものを取り返してほしいとか、作った巻物を試しに使ってみてほしいとか、まるで俺を何でも屋と勘違いしていそうな連中ばかりだが、その中でも同期の一人であるブレリナ・マリオンによる魔法の実験ではえらい目に遭った。最初は本来の魔法の効果が出ず、世界が別の色に変わってしまうという症状に見舞われることになった。それ以外に何かがあったというわけではなかったが、色を失った世界はそれだけで恐ろしく気分が悪くなった。やがてその効果が切れ、再度魔法の実験に付き合うことになったが、今度は色々な動物に変身させられることになり不思議な気分を味わった。最終的に元の姿に戻ることが出来たのだが、彼女はそのお詫びのつもりなのか、機会があれば今度冒険の旅に付き合ってくれるという約束をした。

 

 

フェルグロウ砦まで往復している間に、大学の元素の魔にはサールザルの奥で発見されたあの謎の球体が運び込まれていた。あのときほどではないが球体は今もかすかな光を放っている。最近のトルフディルは何かに魅入られたように、その周りをフラフラと徘徊していることが多い。心配して声を掛けてみてもいまいち要領を得ないが、そこにアンカノが現れるとトルフディルは急に不機嫌になり、どこかに立ち去ってしまった。

 

アンカノは俺の方に用事があるらしい。サイジック会のクアラニルと名乗る男が、アークメイジのザボス・アレンを訪ねてやってきたというのだ。サイジック会! まさかこの間知ったばかりの伝説上の存在が、今度は直接訪ねてきたというのか! アンカノの前で思わず驚きを隠せなかったが、この男はあくまでも冷静だった。サイジック会は俺に用があり、アンカノは相手の腹を探れと詰め寄ってきたのだ。この男の言うことを聞くのは癪だが、俺の目的もさほど変わらない。

サイジック会とやらが本気なら、この大学くらいどうにでもなるだろう。だがそうしないということは穏便に事を運ぼうとしているということだ。一体どういうつもりなのだろうか……。

 

 

アークメイジの部屋を訪ねると、ローブのフードを目深に被った男がザボス・アレンとともに待っていた。男が俺のことを確認すると徐々に周囲の色が褪せていき、まるでこの部屋全てのものが止まってしまったかのような状態になった。ザボス・アレンもアンカノも、言葉を発することはなく、瞬きすらしていない。動けるのは俺と、サイジック会のクアラニルという男だけだ。

 

男の態度は意外にも友好的であり、言いたいことは一つだった。要するにあの球体、その名を”マグナスの目”と呼ばれるものの危険性についてだ。しかしサイジック会が外の世界に干渉することは本来推奨されることではなく、話せることはそう多くないという。後のことはこの大学にいる”ダンレインの予言者”に聞けと言い、話は打ち切られた。部屋の様子が元に戻っていく。何かが起こったことだけに気付いたアンカノは激怒したが、クアラニルは何も気にする様子もなく、用事は済んだとばかりにアークメイジの部屋を出ていった。

 

 

マグナスの目にダンレインの預言者。ザボス・アレンに尋ねてみるも、大学の誰かは知っているだろうとだけ答えた。俺は講師たちに尋ねて回ったが、答えを知らないわけではないが答えたくないといったような態度を取られるばかりだ。だが一人だけ違う反応を示すものがいた。ミラベル・アーヴィンだ。彼女は予言者は大学の地下にいるとだけ言ってそれ以上関わろうとしなかったが、俺は感謝の言葉を告げて以前入り口だけ確認した大学の地下へと向かった。

 

 

大学の地下にはかつて牢獄であったかのような遺構が残されていた。大学の内部とは違い冷気がどこかから流れ込んできておりところどころが凍結していた。ここでは夥しい数の人骨が見つかった。その光景を見て俺はついこの間のフェルグロウ砦の人体実験場を思い出していた。かつてはここで大学の研究が行われていたのかもしれない。なんと言っても古くから魔術師の集まる場所だったのだから。こういうのを見てしまうと昔ウィンターホールドの大半を飲み込んだという厄災を、大学が引き起こしたのではないかという噂も真実味を増してくるのだが、今では使われている痕跡が見られないことだけが俺を安堵させた。

 

 

襲ってくるスケルトンを何度か退け、さらに地下へと進むと自然石を彫り抜いた洞窟に辿り着く。途中、重厚な鉄の扉があり中から俺に語りかける声が聞こえてきた。もしかしてこれが予言者か? そう思ったが俺の解錠の技術ではとても開けられそうにない扉だ。この階層をひととおり探索してみると、外に繋がる通路もあった。どおりで寒いわけである。結局倒したスケルトンの人骨の山の中から見つけた鍵で、鉄の扉を開けることができた。

 

部屋の中には誰もいなかった。いや、何かはあった。まばゆい光だけが部屋の中心にあった。一体どこからこの光が放たれているのか、光源は存在していない。まるで灯火の魔法の光をもっと強くしたような感じの不思議な光。さきほど扉の前で聞こえた声が部屋の中に響く。まさかと思ったが他に心当たりは無く、そうとしか考えられない。まさかダンレインの予言者とは、この光のことだったのか!?

 

 

俺は意を決して光に向かって語りかけてみた。だがダンレインの予言者かどうか確認する前に、光の方が自分を探していたことを既に悟っていた。まるで予言者……そう思った時点で、これこそがダンレインの予言者だと確信せざるを得なかった。予言者は既にマグナスの目のことも知っていた。そしてかつてアンカノがここにやってきて、予言者に何かを訪ねたらしいことも分かった。

 

予言者は俺の尋ねた質問に次々と答えた。しかし答えそのものを直接与えてくれるものではなく、質問の仕方に工夫が必要だった。多くの試行錯誤のうちに、マグナスの目を制御するのにマグナスの杖が必要であるということが分かった。だがそのマグナスの杖がどこにあるのか答える前に、予言者の光は力を失ったかのように消え去り、部屋には再び静けさが戻った。ああ、もっと聞きたいことが山ほどあったのに……。

 

俺は急いで地下から大学に戻りアークメイジに報告した。ダンレインの予言者と話したこと、そしてマグナスの杖のことを。彼はマグナスの杖のことを知っているわけではないようだが、ミラベルが何かを知っているかもしれないと言う。まさかそれも俺の仕事か!? まったく俺を何でも屋か何か勘違いしているんじゃないのか、この大学は。

 

 

【続く】