四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記14『思い出の夜(後編)』

 

ロリクステッドからホワイトランへの長い道のりを踏破した俺を待っていたのは、要塞を駆け巡る恐るべき噂であった。もう三日も前になる夜、酔っ払った俺がサムと共にホワイトランを訪れると、とある女性と結婚した話を吹聴していたというのだ。イソルダという女性がそう告げると俺は頭を抱えた。

 

最初に従士として認められた要塞だけあって、ホワイトランには故郷にも似た愛着を持っていたのに、こんな噂が広まってしまったらまともに道も歩けないではないか! 俺は必死に自己弁護を試みたが、よっぽど結婚の話に感銘を受けたのか取り合ってもらえそうにない。ウィッチミスト・グローブと呼ばれる場所に隠れ住む女性に送るための結婚指輪を俺に売ったのが、他ならぬこのイソルダだったのである。心当たりはまるでないが、誤解を解くためにこれからでも婚姻関係を解消し、指輪を返品しなければ!

 

 

地図上ではホワイトランより更に東にある、ウィッチミスト・グローブへと向かう。結果的にだがスカイリムを西の端から東の端まで横断してしまうことになるとは思わなかった。これだけの距離を酔っ払っている間に移動したなどとはいまだに信じられないが、しでかしたことの後始末のためにただひたすら走り続けるしかないのだ。

 

 

周囲の山地から一段下がった場所にある、温泉と間欠泉による蒸気が地表に漂う陰鬱な森こそが、どうやらウィッチミスト・グローブと呼ばれる場所のようだ。こんなところに誰が住んでいるというのか? しばらく森を歩くと一軒の古びた小屋を発見した。まさかと思い一応訪問してみると、中からハグレイブンと呼ばれる老婆とカラスが混じったような怪物が姿を現した。

 

 

その怪物は俺の姿を見ると覆いかぶさるように飛びかかってきた! その姿に俺は恐怖にかられてファイアボルトでハグレイブン滅多撃ちにする。黒焦げになったその死体の懐からは結婚指輪と思われる指輪が転がり出てきた。まさかこのハグレイブンは、攻撃しようと飛びかかってきたのではなく、俺を伴侶だと思って抱きしめようとしたのだろうか? 今となっては真実は何も分からないが、後味の悪い結末となった。

 

 

俺はホワイトランに戻り、噂の震源地であったイソルダに指輪を返して全ては事実無根であると改めて説明した。イソルダはモルブンスカーで行われるはずだった結婚式を本当に楽しみにしていたらしく残念そうに肩を落とす。そこではサムが杖を使った魔法で式を盛り上げることまで予定に入っていたようだ。次の目的地はモルブンスカーに決まった。

 

 

モルブンスカーは朽ちた砦であり、とても結婚式を行うような場所ではなかった。外は少数の召喚師(コンジュラー)が守っていたが、今となっては物の数ではなく軽く蹴散らす。しかし砦の内部では多くの魔術師が待ち構えており、俺がまだ使うことができない上位の破壊魔法を使って襲いかかってきた。

 

その十字砲火の前にまるで太刀打ちできず、ただ逃げることしかできなかった。だが砦の奥まった場所には謎の光を放つ泡が浮かんでいた。死の嵐が渦巻く破壊魔法の飛び交う中で、まるで誘われるようにその光に向かって飛び込んだ!

 

 

光の中を抜けると霧の立ち込める森の中に立っていた。そこにはぼんやりとした明かりと、それに似つかわしくない騒がしい男たちの声が響いていた。俺の姿に気付いたローブの男はこの宴に参加するように促す。最初は分からなかったが、この男こそあのサム本人に他ならない。てっきりサムは俺に酔っ払いの責任を押し付けて逃げたのだと思ったが、どうやらそうではないらしい……。

 

 

サムはローブを脱ぐと、自らの正体を明かした。姿を現したその異形の者は自らをデイドラの王の一人、サングインと名乗ったのだ。俺は驚きを隠せなかったが、サングインは笑い飛ばした。スカイリムを西から東へ歩きまわされたのは、杖の修理のための材料を集めるためだったという。このデイドラが支配する空間からは、スカイリムのどこにでも出ることができるらしい。酔っ払っている間に色々な場所に連れ回され、一晩であれだけ移動することができたのはそれが理由だったのだ。

 

 

そうして修理した杖を、サングインはお詫びのつもりなのか渡してきた。”サングインのバラ”と呼ばれる伝説のアーティファクトをこんなことで手に入れてもいいのだろうか。いや……それだけのことはしたつもりだ。俺はありがたくもらい受けることにした。

 

そして俺がまたこの空間に連れてこられたのは、あのソリチュードの夜の続きをやるためらしい。つまりこの宴に混じって一緒に楽しもうというわけだ。恐怖の対象であるはずのデイドラと酒盛りとは、まさに運命の悪戯とでも言うしかない。せっかくの機会だ、とことんまで付き合ってやる! その酒盛りは夜更けまで続いた。

 

 

目を覚ますと、俺はソリチュードの酒場のカウンターに座っていた。あれは夢だったのだろうか。思えばあの日の出来事すべてが絵空事のようにおかしなことばかりだった。だがこの手に握られた”サングインのバラ”だけは、あれが現実だったということを証明するものだった。

 

【続く】