四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

『かがみの孤城』鑑賞。

辻村深月原作の映画といえば、今年は『ハケンアニメ!』があった。視聴率でアニメとしての人気を争うという、概念としてちょっと古さを感じる映画だったものの、クリエイターとしての理想と現実にどうやって折り合いを付けていくのかというストーリーは非常に自分好みで、興行的にはコケてしまったものの今年のベスト10には入れてもいいくらいの作品であった。

 

そんなわけで原作を読んでもいない『かがみの孤城』を、原作者繋がりで観ることにしたのだが、よほど原作の力が強いのかそれとも作者に波長が合ったのか、あまり期待していなかったのだがいい意味で裏切られた。派手なアクションも印象深いカメラワークも無い、極めて堅実な作りのアニメで、いわゆる今の売れ線からは程遠い作品なのであまり売れそうにないが個人的にはかなり良かった。

 

学校で居場所がなくなり不登校になっていた中学生のこころ。毎日母親に学校へ電話をしてもらうのにも気まずさを感じていた頃、突然部屋の鏡が輝きだし吸い込まれるように光の中へ入ってしまう。気が付けばそこは絶海の孤島に浮かぶ城で、そこで”オオカミさま”を自称するお面を被った少女に出会う。そして少女に案内された城の中には既に六人の同じ年頃の少年少女が待っていた。オオカミさまは城に隠された鍵を探せば何でも願いを叶えてくれるという。城に集められた七人も最初は半信半疑だったが、一年という期限を通して鍵を探し、仲を深めていくうちにある共通点があることが明らかになる……。

 

はっきり言って、重いストーリーである。こころはクラスの人気者によって虐められたことで不登校になっており、回想ではあまり気分のよくないものを見せられることになる。序盤で七人のうちの一人である嬉野(太っている)が、同じく呼び出された女の子に粉をかけているところは、見ていてあっ…やばいなと思いつつ、まあそうなるよなという展開になり、嬉野がブチ切れたときは少々居た堪れない気持ちになっていた。弾かれたものの中で更に弾かれてしまう現実は、あまりに切ない。終盤にかけて、一人の少女がレイプされかける場面ではあまりの生々しい描写に見ていて血の気が引くような思いをした。そういうことをされたと匂わせるような描写が事前に存在していたから、覚悟はしていたのだがそれ以上だった。

 

こころの立たされている状況はなにも子供に限った話ではなく、他人事のようには思えなかった。大人になってみてよく分かったが、大人になってもイジメは普通にあるし、それにうんざりさせられるようなこともしばしばある。孤独は悪で集団は正義なんて、大人でもその生き辛さには息が詰まるが、まあなんとか生きてはいける。だが子供の頃は視野が狭く、限られた交友関係を失ってしまえば世界の終わりのように感じてしまうこともあるだろう。自分だってイジメっ子には腹が立つが、ここで自分が激怒して何もかもメチャクチャにしてやれば全部終わるのにな~みたいな暗い感情を抱えつつも、大人だから表面的には何でもないかのように振る舞うしかない。だからこそ、周囲の助けを借りながらも少しづつ前向きに変わっていこうとするこころを素直に応援できたし、そういう現代の生き辛さに寄り添って、理解を示してもらえたような気持ちになれる、そんな作品であったと思う。

 

謎要素に関しては、ところどころ匂わせる描写が存在していて、勘が良ければ作品の終盤で明かされる前に自分で気付くことができると思うが、種明かしの感動が半減してしまうと思うので気付かない察しの悪さも必要だったかもしれない。しかしミステリー要素はメインではなく、話の主題はこころが仲間や城での出来事を通して成長し、誰かを変えるよりも自分が変わるほうが良いと気付くことだと思うので、そちらの点でも十分楽しめたこともあって個人的には問題なかった。

 

個人的にちょっとどうかと思ったのは、入場特典のランダム封入イラストカードである。各キャラクターのその後の姿などが描かれているのだが……これをエンドロールで流していたら、満足度に相当な違いが出ていたはずだ。中身をSNSに投稿するなとは書いてあるが、それなら一度鑑賞したら全部中身を見られるようにしておいてほしかった。一部しか見られないのは非常に勿体ない。

 

アニメ作品としては『すずめの戸締まり』や『THE FIRST SLAM DUNK』の影に隠れてしまい、初週から小さな箱に追いやられてしまっているが、『ハケンアニメ!』の二の舞いにはなりませんように……。