四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

不寝番(ねずのばん)

野菜泥棒は日曜から木曜まで毎日少しづつ盗んでいった。

被害総額は五千円にも満たないが、完全に舐めきった犯人の行動に怒りが燃える。

その程度の窃盗にムキになるより

暖かい布団で眠る自由を謳歌したほうがいいに決まっているのだが

これはプライドの問題である。

自分のものは自分で守りたい。ただそれだけのことだ。

 

よって自衛隊以来の不寝番を敢行することにした。

まだそこまで寒い時期ではないから、モチベーションは十分にある。

真冬の富士演習場に比べればどうってことはない。

自衛隊にいた経験を最も活かしている瞬間だと思った。

昼の間に計画を練る。

畑が見えるところに車を止め、夜の間見張る。

はっきり言ってかなり目立つしわざとらしいが、抑止力になるはず。

犯行現場に違和感を撒き散らし、そもそも近づかせなくさせる。

違和感にも気付かないような馬鹿だと逆に困ってしまうのだが。

作業場にも夜の間明かりを点けておいた。

 

もしも野菜泥棒が現れた場合

複数犯なら下手に接触せず、警察を呼びつつ動画撮影など証拠集めに努める。

単独犯なら車の中にビデオカメラを設置しつつ

スマホのカメラで撮影しながら犯人に詰め寄る。

被害規模からしておそらくこちらの公算が高い。

いざというときのための棒や縄は畑の作物の中にこっそり隠した。

あとはただ待つ。夜明けまで。

 

この日は夕食の後すぐ就寝し、目が覚めたのは23時頃。

近所のマクドナルドで腹ごしらえをし

モンスターエナジーで眠気を飛ばして準備万端。

全身黒尽くめの格好。何かあったらこちらの方が容疑者扱いされそうである。

0時30分から位置についたが、車のエンジンを切っていたので結構寒い。

1時間どころか30分毎にトイレに行く羽目になった。

2時頃までは車がまばらに行き交い、まだ泥棒が現れるような雰囲気ではなかったが

3時頃になると一気に車の往来が少なくなり10分に1台走っていればいいくらい。

新聞配達のバイクも動き始め、静けさの中に緊張感が走る。

 

当初第一容疑者は、新聞配達だと思っていた。

雨の日でも畑の前を通る理由があり、最も静かな時間に動いているからという理由だが

結論から言えばあらぬ疑いをかけてしまった。

新聞配達の仕事は盗みを働いているような時間はなく、いたって真面目に働いていた。

その後もまばらに人や車が通っていく。

畑に用事はないようだったが、今の状態では全てが疑わしく見えてくる。

徐々に空が白んできて、畑の隣にある運送会社のモータープールに人が集まってきた。

そうなるとさすがに盗みを働くようなものがいるとは思えなかった。

6時30分に現場を離脱。結局この日野菜泥棒は現れなかった。

 

はっきり言って宇宙一空虚な6時間であったが

何かが功を奏して野菜泥棒を追い払った。

三十までは夜勤も平気だったが、四十にもなるとちょっと辛く

一日休んで日曜日にもう一回不寝番をするつもりである。

土日は野菜泥棒も休むかもしれないし。