四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

『僕が愛したすべての君へ』鑑賞。

自分はメガネっ娘が好きだ。思い返せばそれを初めて意識したのは中学生の頃で、女の子がたくさんいる中にメガネっ娘がいたらその子しか見えなくなる程度にはメガネっ娘が好きなのだが、『僕が愛したすべての君へ(以下、僕愛)』はメガネっ娘がヒロインっていうのは珍しいから観てみようかなという、軽い気持ちで観に行ったら火傷するようなSFスリラー映画であった。

 

この作品は『僕愛』『君が愛したひとりの僕へ(以下、君愛)』という同時上映の二つの作品を、どちらから先に観るかで結末が変わるという触れ込みの作品のうちのひとつである。予告映像では『僕愛』から見るとちょっと切ないラブストーリーで、『君愛』から見ると幸せなラブストーリーになるらしい。しかし今回はそんなの関係なくメガネっ娘がヒロインで出ている方を観た。

 

平行世界の存在が観測され、人間が知らず知らずのうちに意識だけ並行世界に移動していることも珍しくなくなっているような世界で、たくさんの選択の積み重ねの中、愛する人が自分の隣にいる奇跡を噛みしめる……真正面から捉えるならそんなSFラブストーリーであるはず。

 

キービジュアルからは学園青春ラブストーリーなんだろうなというような印象を受けるが、この作品はそういう部分もあるというだけで、実際には全然違うものが出てきた! という感じが凄い。なにせ主人公の幼少期から始まり、高校在学時にヒロインと出会ってから老衰して死ぬ直前までが描かれるという非常に長期のスパンにわたった長い人生の物語なのである。

 

個人的には平行世界を観測するどころか、任意で平行世界への移動も可能な世界だともっと人類社会に変革が起きていてもおかしくないと思うのだが、この作品については並行世界の描写は主人公とヒロインまわりだけに留まっている。まあ真面目にやり始めたら絶対収拾がつかなくなるだろうからそれは仕方のないことだろう。

 

自分が知らないうちに平行世界の自分と入れ替わっているなどということもあると序盤から描写されていて、気付いたら隣にいる人が外見だけそっくりの別人(並行世界の本人だとしても、記憶を共有していないのなら別人と言っても差し支えないだろう)と入れ替わっているということも起こり得るのだ。

 

そして並行世界から自分の元いた世界に戻ってくるときでさえ、完全に一致した状態にならない場合もあり、元の世界に戻ってきたはいいけれど、以前の人と完全に一致はしていないものの、限りなく元の人に近いのだから受け入れよう! なんてシーンは個人的にはホラーとしか思えなかった。

 

平行世界に移動可能なんて、絶対悪用する人が出てきてそれに対抗する警察みたいなものも存在して、お互いに阻止し合う『TENET』みたいなわやくちゃな状態に絶対なるだろ……とか頭の中でつい考えてしまうが、そういう話にはならない。一応所轄の公官庁が平行世界の移動を監視している設定らしいけど。

 

なんというかアニメという皮が被さっているだけで、グレッグ・イーガンの短編作品じみた、特定の科学技術の革新で人類の意識に少なくない変容が起こっているエクストリームな世界観を描いているSF作品なのである。正直言うと、並行世界の移動を扱いつつも設定だけ軽く使っている程度のSFアニメなんだろうなという、観る前に抱いていたイメージとは全然違うものが出てきてかなり面食らったのだが、テーマとしては結構好きな部類だから困る。

 

ただ劇場用アニメ作品としてはキャラクター作画と背景美術の情報量が少なめで、かつ見せ方も平凡なこともあって、あえて劇場の大スクリーンで見る価値があるか? と問われれば首を横に振らざるをえない。一番のウリであるはずの、高校時代のヒロインがあんまり可愛く見えないシーンが多いのはもうちょっと頑張ってくれよ! と思ってしまう。描写としてヒロインが可愛いシーン自体はあるのだが。

 

そして主人公のモノローグが主体となって話が進むのだが、はっきり言って主人公の声優が下手で物語への没入を妨げる程度には酷い。『夏へのトンネル、さよならの出口』でも主人公の声がちょっといまいちかなと思ったのだが、それに二つくらい輪をかけて酷いのが出てくるとは思わなかった。最近はプロ声優じゃなくてもそこそこ上手いなと思える芸能人声優が多かっただけに、今回はかなりの苦痛を味わった。

 

今の時点では『君愛』の方も観るかどうかは正直かなり迷っている(主人公は同じ、すなわち声も一緒だから)。だが片方見たのだから毒喰らわば皿まで……という感じで観るのも悪くないかもと思っている。やろうと思えばSF設定についてはいくらでも語れそうな奥行きを感じてしまうから。

 

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