四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記19『埋葬(後編)』

 

俺たちは一列縦隊になって街外れにあるモヴァルスの隠れ家へと向かった。モーサルを影から支配しようとしていた吸血鬼に対して、誰もが怒りをあらわにしている。敵の戦力は分かっていないが、これだけ士気が高ければきっとあっという間に吸血鬼を退治できるだろう。ラレッテを喪ったソンニールからは悲壮な覚悟が感じられる。もしかしたら死ぬつもりなのかもしれない……。

 

 

モーサルの戦士たちは洞窟の前までやってくると急に怖気づき始めた。一人、また一人と帰っていき、残ったのは俺とリディアとソンニールだけであった。俺はあいつらとは違う!と主張していたが、こうなってしまうとソンニールを守り切るのは難しい。俺はソンニールにここで待つか帰ることを勧めた。

 

妻を奪われて悔しいのは分かるが、死んでしまっては元も子もない。勝ったとしても後味の悪い結末は御免だからだ。それにいざとなれば俺にはサングインのバラがあるのだ。相手が吸血鬼と言えど負けることはないはずである。ソンニールは泣きそうな顔をしていた。やはり吸血鬼との戦いは恐ろしいに違いない。

 

 

俺はソンニールを置いて洞窟に入っていく。入り口に巣食っていたフロストバイト・スパイダーを倒し、奥へと進む。要所要所にモヴァルスの下僕と思われる吸血鬼たちが配置されていたが、少数ではもはや相手にならなかった。途中に掘られていた穴には人間の死体が積まれており、ヘルギの亡霊の存在に気付かなければ犠牲者はもっと増えていたかもしれない。思わず身震いしてしまう。

 

 

ある程度進むとより大きな広間に出た。食卓などの調度品に加え、主のものと思われる大きな椅子が置かれている。まるで王様だなと思う。沢山の食料が並んでいたが幸いにも人間の死体などではなく人間と同じ食料である。こんな闇深い場所で狂気の晩餐がいつも繰り広げられているのだろう。だが吸血鬼の営みなどに興味はない。モヴァルスを探さなくては。

 

 

そのとき広場に繋がる三つの部屋からそれぞれ吸血鬼が現れた。だがすぐに襲いかかってくる様子はない。その吸血鬼たちを割って入ってくる者がいる。その男こそこの吸血鬼たちの親玉、モヴァルスその人なのだろう。獲物を見つけたと言わんばかりの血に飢えた形相、上がった口角からは尖った牙が覗いている。その男が合図をすると一斉に吸血鬼たちが飛びかかってきた。

 

俺は炎の精霊召喚を使い、リディアとそれぞれ吸血鬼たちの群れを分断しようと考えた。だが炎の精霊は吸血鬼たちの一斉攻撃に長くは保たず、爆発して消えた。その爆発で多少のダメージを与えるものの、囮がいなくなれば敵は俺とリディアにそれだけ集中することになる。そうなれば俺たちだって長くは保たない。モヴァルスを含めた複数の吸血鬼に追いかけ回され、食卓をぐるぐる周りながら次の一手を考える。やはりあれを使うしかない!

 

杖を振りかざすとオブリビオンとのゲートが開く。瘴気にも似た薄靄がホールに広がり中からドレモラが姿を現した。その姿を見て吸血鬼の間にも一瞬動揺が走ったかに見えたが、モヴァルスが命令すると再び襲いかかってきた。だが召喚されたドレモラによって鎧袖一触に倒された。だがそのうちの一人が、今際の際に放った謎の魔法によって俺は力を奪われ膝を着く。今のは、一体? リディアがその間にモヴァルスに斬りかかったがやはりその力は強大で、腕の一振りで壁に叩きつけられて昏倒してしまった。

 

あんな相手と正面切って戦うのは不可能だ。俺は残りのマジカを振り絞ってファイアボルトで足止めしながら、ドレモラとモヴァルスの一騎打ちに持ち込んだ。だが一進一退のかなりいい勝負をしている。召喚するたびに弱い敵に対して不満を漏らしているドレモラが、今回は心なしか楽しげに見える。

 

もしかしたらドレモラが負けるかもしれない、そんな風に考えたこともあったが、ドレモラの圧倒的な膂力によって操られる両手剣の一撃は、吸血鬼の再生能力を遥かに上回る痛手を与える。モヴァルスの顔が恐怖に染まった。野心を抱いた吸血鬼の親玉は、ついに糸の切れた操り人形のように力なく吹き飛ばされてその活動を終えた。

 

 

戦いが終わった。広場には幾つもの吸血鬼の死体が転がっている。これだけの数をよくも凌いだものだ。リディアも肩で息をしながらなんとか生き残っている。俺たちは残りの部屋も調べて回った。もし吸血鬼の生き残りがいたとしたら、また変な野望を抱かないとも限らない。一人残らず倒してしまわなければまたヘルギのような不幸な子供を作ってしまうかもしれないのだ。

 

 

奥の部屋ではアルバが倒れていた。多分モーサルでの潜伏に失敗したことでモヴァルスに粛清されてしまったのかもしれない。勝手な女だったが、こうなってしまえば敵も味方もあるまい。このことはフロガーに伝えておく必要があるだろう。

 

ベッドの横にはモヴァルスのものと思われる革のブーツが置かれていた。さすがに吸血鬼の愛用品らしく、足音を消す魔力が宿っている。これは戦利品としてありがたくいただいておこう。棚にはさまざまなブーツが揃っていた。まさかこいつの趣味だったのか?

 

 

吸血鬼を一掃したことを確認し、洞窟を出ようとするとそこにはヘルギの亡霊が待っていた。彼女は俺たちに一礼すると、母親が呼んでいるからといって姿を消した。多分、もう二度と彼女の姿を見ることはないだろうと思った。

 

 

モーサルに戻ると、戦いに勝ったことよりも顔色の悪さを皆に指摘された。伝染病ではないか? そんなことまで言われる始末だ。イドグロッドの信用を得られたからか、側近から土地を5000ゴールドで買わないかと持ちかけられたが、今から家を建てるところから始めるのはさすがに気の長い話だ。やはり土地付き一戸建てのホワイトランの家が欲しい。そういう気分なのだ。

 

 

アルバの家から出てくるフロガーを見かけた。最初は疑われもしたが、彼もソンニールと同様に妻と娘を失った被害者であり深く傷ついていた。こちらに気付くと事件を解決したことに礼を述べてくれたのだが、その歩く姿にはまるで覇気がなく、今にも消えてしまいそうだった。今日も彼は誰もいない家に帰っていくのだろう。俺には彼なりの幸せを見つけられることを願うほかなかった。

 

 

【続く】