四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記18『埋葬(中編)』

 

吸血鬼を倒し、俺は棺の蓋に手をかける。中には隠れていた亡霊のヘルギがいた。そしてその遺体も一緒に。彼女は近くに倒れていた吸血鬼のことをラレッテと呼んだ。このラレッテこそが少女の家に火を放った張本人らしいのだ。

 

ラレッテはヘルギとその母親を殺した後、家に火を放って全てを消し去ろうとしたのだが、生前のヘルギはラレッテと仲が良かったからなのか、血を吸ってから死後吸血鬼として蘇ることを祈って埋葬したのだという。

 

先程のラレッテとの戦いを見たのか男が一人で棺のある場所にやってきた。その男の名はソンニール。他ならぬラレッテの夫であった。最初は何事があったのか訝しんでいた様子だったが、彼はラレッテの遺体を見つけるとその場に崩れ落ちた。

 

彼女はストームクロークの反乱に参加するために家を出たはずだったのだが、知らないうちに吸血鬼となってこのモーサルに帰ってきていた。だが彼はその現実を受け入れられないようだ。ラレッテがモーサルにいた頃はアルバと付き合いがあったと彼は話す。なるほど……色々と繋がってきた気がする。今度はアルバと接触する必要があるようだ。

 

 

だが直接お前は吸血鬼か? などと言って答えてくれるはずがない。アルバは昼は宿屋の酒場にいる。つまり家を留守にしているので、その間に侵入し何らかの証拠を掴むしかないだろう。しかし厄介なことにアルバの家の隣は衛兵の詰め所であり、頻繁に人が出入りしている。アルバの家に侵入するにしても、高度な隠蔽が要求されるだろう。

 

アルバが家を出たのを確認し、俺は衛兵が見ていないタイミングを見計らって家の錠前にロックピックを突っ込む。カチカチ、カチッ。幸いにも簡単な錠前ですぐに開けることができた。わずかに開いた扉の隙間に滑り込むようにして、急いでアルバの家に侵入する。

 

 

アルバの家は地下室への階段がある以外は特に変わったところは無かった。誰にも見つかっていないはずだが、初めての家宅侵入に自然と心臓が高鳴る。吸血鬼を殺しても犯罪にはならないのだが、その確証がない今は単なる空き巣にすぎない。俺は証拠を探そうと机の上や引き出しの中を物色したがめぼしいものは見つからなかった。あとは……地下室だ。

 

 

地下への暗い階段はいかにも吸血鬼にはお似合いの場所に思えた。一番下まで階段を降り、地下室の扉をそっと開ける。部屋の中央には棺が、あった! 動かぬ証拠とはまさにこのことで、俺は思わず拳を握る。イドグロッドに伝えられれば、事件解決だけではなく吸血鬼の浸透を未然に防いだ功績も付くだろう。俺は中に誰もいないことを確認するために、棺の蓋を開けたのだった。

 

 

中には一冊の日記があった。だが魔法で照明をつけるわけにもいかなかったし、地下の暗がりではとても読めるものではなかった。俺は中身を確認するために上に戻ろうとしたのだが、そのときギィ……と入り口の扉が軋る音がしたのだ。

 

まさか、アルバが帰ってきたのか!? 心臓が早鐘を打ち、全身に緊張が走る。俺は冷静に"消音"の魔法を唱えて足音を消すと、階段の下からゆっくりと家の中を覗く。だがアルバと思しき女は扉の前で背中を向けたまま動こうとはしない。

 

 

このままでは見つかるかもしれない。だが、今が最大の攻撃の好機だとも思えた。相手は吸血鬼なんだ、不意打ちで焼き尽くしてやる! そう思い背後に忍び寄る。だがアルバは何かを思い出したように扉を開けて出ていってしまった。拍子抜けしてしまったが、俺は外の様子を伺い誰も見ていないことを確かめると家の外に出た。

 

 

アルバの日記には、陽の下でもなおおぞましい内容が綴られていた。アルバが吸血鬼になった経緯、そしてフロガーを誘惑した後、ラレッテを従僕にし、モーサルを吸血鬼の楽園と化す計画、その全貌が。

 

日記によればラレッテにフロガーの家族を始末するよう命令したのもアルバであった。そしてヘルギを手に掛けたラレッテの精神が徐々におかしくなっていったことまでもが書かれていた。この日記をイドグロッドに見せればもはや弁明は不可能なはずだ。

 

 

日記を読んだイドグロッドもさすがに驚きの色を隠せないようだ。よもやモーサルが吸血鬼に支配されるかもしれなかったのだから。日記にはアルバを吸血鬼にしたモヴァルスという名があった。イドグロッド曰く有名な吸血鬼らしく、そいつが束ねる吸血鬼の隠れ家がどうやらこの近くにあるらしいのだ。

 

イドグロッドは衛兵にアルバを探させたが、この街のどこにもいなかった。そうなるとアルバはこのモヴァルスの隠れ家へ向かった可能性が高い。もしかしたら、アルバが吸血鬼を引き連れてモーサルを襲うかもしれない。イドグロッドはそう懸念しているのだ。

 

 

火事の犯人を見つけるという依頼はこれで終わったわけだが、そのついでにもう一つ頼まれてほしいとイドグロッドは言った。これからモーサルの腕の立つ戦士を集めてモヴァルスの隠れ家を一掃する、その指揮を俺に取ってほしいというのだ。

 

衛兵を率いていけばいいのでは? そう思ったが、一人の男が吸血鬼の討伐隊に志願した。ラレッテの夫、ソンニールである。これはモーサルを守るだけでなく復讐のための戦いでもあるのだ。思えばヘルギは不憫な子であったし、俺だって仇を取ってやりたいと思う。

 

吸血鬼掃討の依頼を受けイドグロッドの屋敷から出ると、外にはモーサルを守るために立ち上がった戦士たちが既に勢ぞろいしていた!

 

 

【続く】