四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

『夏へのトンネル、さよならの出口』鑑賞。

昔は映画の上映時間は長ければ長いほど得だと思っていたが、年を重ねるごとに集中力が落ちてきて、今は短い時間でどれだけ満足できるかの方が大事な要素になってきた。そして『夏へのトンネル、さよならの出口』は上映時間83分という小粒な劇場用アニメ作品で、エンディングを除けば本編は賞味80分を切る短かさなのだが、その分密度が濃く時間辺りの満足度という点では今年観た中でも上位に入る。

 

中に入っている間だけ、外の世界の時間の流れに置いていかれる代わりに欲しい物が手に入るというウラシマトンネル。そんな噂が流れている海辺の田舎町で塔野カオルと花城あんずという男女が出会い、協力しながらお互い自分の願いのためにそのウラシマトンネルを利用しようとする。まさに絵に描いたようなボーイミーツガール作品。

 

そんなSF(すこしふしぎ)な青春映画だが、そのトンネルによって起こるウラシマ効果が話の柱の根幹になっている。ウラシマ効果を使った作品としては、庵野秀明トップをねらえ!』とか新海誠ほしのこえ』とかクリストファー・ノーランインターステラー』とかジョー・ボールドマン『終わりなき戦い』などが思いつくが、共通するのは自分と周囲の時間の流れにズレが生じることで、同じ時間を過ごすことができなくなった友人、家族、恋人との関係。

 

この『夏へのトンネル、さよならの出口』でも、ウラシマトンネルを利用することで当然そういうことが起こるのだが、トンネルの中にいたら外ではどれくらい時間過ぎているのか、中と外で連絡は取れるのか、そういった実験によって最小限の犠牲で最大限の効果を得ようとする試行錯誤と、秘密の共通体験によって徐々に距離が縮まっていく塔野と花城の関係、その過程で明かされる二人の内に秘めた過去と一石三鳥なギミックになっていて、時間を切り詰めるのに一役買っている。

 

そして花城あんずというヒロインの魅力を時間内に十分描ききっていること。美形の黒髪ロングでクールな雰囲気の優等生という第一印象はあっさりと吹き飛ばされ、クラスメイトに対する衝撃的な行動や、意外な目標を持っていること、そして実はかなり重い愛情表現などが明るみになっていく。気丈な振る舞いを見せていた女子がふと見せる弱さには、定番でありつつもやっぱり引き込まれてしまうものがある。

 

魅力的だったのでもっと観たかったというのは当然の話なのだが、一流のアスリートように無駄な肉が削ぎ落とされたことで生まれたスピード感、余計なことには目もくれずサクサク進む話のテンポがこの映画の良いところでもある。入場特典としてついてきた短編小冊子がこの映画のアフターストーリーにそのままなっているので、それで少し気は済んだ。

 

しかし最後まで観て一つ言いたいことは

 

そういうことは

トンネルの外に

出てからやれ!

 

メインの二人が声優ではないのでセリフが聞き取り辛い(特に男の方)ことを除けば結構な拾い物だった。