四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

『ビースト(2022)』鑑賞。

どれくらいの俳優だったらライオンと戦うことが許されるかという点で、イドリス・エルバは絶妙なラインだと思う。往年のアクション俳優のように負ける姿が想像できないために圧勝してしまうというわけではなく、かと言って惨敗しそうなほど弱そうでもない。まず負けるだろうけど、もしかしたら勝つかも……。そんな期待を持たせてくれる。

 

『ビースト』はそんなドリームマッチを叶えてくれる作品であるが、その戦いに到るまでのシチュエーションの大事さを思い知らされる。最初に普通のライオンの群れを見せつつ、たまたま立ち寄った村が静寂に包まれている場面などは定番ながら緊張感がある。今はNYに住んでいるがアフリカにルーツを持つ黒人の家族、野生動物を狩る密猟者に、その密猟者を狩る反密猟者などのテーマもあるにはあるが、掘り下げている時間が無いためフレーバー要素的な側面が強い。この映画のメインは娘からの信頼が地に落ちた男が、父親としての尊厳を取り戻す話である。そのためにライオンと戦わされるとはお父さんも大変だ。

 

一応、密猟によって群れを全てを失った手負いのオスライオンと、妻を失ったうえに暴れ狂うライオンによってこれから娘二人を奪われるかもしれない医者のネイト・サミュエルズという対決のアングルがあるにせよ、当然のことながらライオンと意思疎通できるはずもないので、この設定は観客の胸の中にしまっておくことしかできない。

 

宣伝などでは父VSモンスターライオンという構図が押し出されているが、メインは故障して動かなくなった車の中でライオンの襲撃に耐えるというソリッドシチュエーション・スリラーだ。だがそれだけでは当然盛り上がりに欠けるので、外に出なければいけない理由を作るわけだが、その辺りのハラハラドキドキはなかなかのもの。ライオンは3DCGながら結構出来がよく、動きに若干のぎこちなさを感じる以外は本物と見分けがつかない。

 

ライオンとの決着についてもちゃんと前半の伏線が生かされるので納得感はあったが、時間が短いので掘り下げが弱く盛り上がりの山も低いという弱点を持ってしまったと感じた。だがその分作品としてはシンプルなので、軽い気持ちでちょっとした映像体験とスリルを味わうという意味では悪くはない。