四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記13『思い出の夜(前編)』

 

フォルガンスールを出発し、ほどなくしてソリチュードに到着したのだがその光景は思わず目を疑うものであった。誰が建てたのかは知らないが、とんでもない所に要塞があるものだ。だがその分守りが強固であることは一目で分かったし、もし自分がこの要塞を攻める立場であれば頭を抱えるだろう。そんなことを考えながらソリチュードへの急な坂道を登っていった。

 

 

街に入った俺を出迎えたのは、これから処刑される罪人を一目見ようと集まっていた人たちであった。だがそれにしても異様な雰囲気だ。処刑されるのがただのストームクロークの一員であるなら、ここまでの人だかりにはならないはず。そう思って話を聞いてみると、あのストームクロークの首魁であるウルフリックの逃亡幇助の罪により捕まった、このソリチュードの門番であったロッグヴィルという男の処刑であった。つまりこの要塞の人間ということだ。それを見に来る人間の数は関係者の多さを物語っていた。

 

この要塞の首長であったトリグという男は、スカイリム各要塞の首長たちを束ねる上級王の立場であったが、ウルフリックの声によって殺害(恐らくシャウトによる)されてしまった。そして今はトリグの妻であったエリシフという若い女性がこの要塞を首長を勤めているらしい。だがスカイリム原住民であるノルドのしきたりによって、力ずくで王位を簒奪しようとしたウルフリックを支持するものも多く、このスカイリムにおける混乱の原因にもなっているというわけだ。

 

処刑人によってロッグヴィルの首が落とされる。周囲からは悲鳴と歓喜の声が半々といったところだ。俺にはこの要塞の事情は分からないが、到着早々に見て気分の良いものではない。俺はすぐ近くにある宿屋へ入り一休みすることにした。

 

 

宿に入ってすぐの酒場では、先程の出来事を忘れようとしているのか大きな賑わいを見せている。するとカウンターに座っていたサムという男が飲み比べをしないか? と声を掛けてきた。今はそれどころじゃないと言って断ったが、俺に勝ったらこの杖をやると話を持ちかけてきたのだ。

 

俺はその杖を見て思わず声を失った。壊れてはいるが、この杖に秘められた魔力はとてつもないものがある。まるで、あの堕落のドクロに匹敵するほどの。この男にはその価値が分からないのか? 男の顔をじっと見たが、既に酔っているのかへらへらと笑うばかり。やってやろうじゃないか。

 

 

男とカウンター席に着く。酒場の主人に一杯ずつ配られ、お互い一気に飲み干した。そして二杯目。またもや飲み干すとなんと男がもうこれで終わりだと言うではないか。そして俺の前に三杯目が置かれる。これを飲み干せば俺の勝ちだ。なんだ、わざわざ勝負を挑んでくるからどれくらい強いのかと思えば楽勝だったな。グイっとジョッキを傾けて飲む。どん、と叩きつけるようにジョッキをカウンターに置くと、なんだかとても気分がいい。サムが何か言っているようだが、もはやどうでもいいことだった……。

 

 

怒鳴りつけられる声で目が覚めた。背中に冷たく硬い石の感触が伝わってくる。ここはどこだ…? 俺を起こしたのはセナという女司祭であった。じゃあここはどこかの聖堂の中なのだろう。彼女が何か言いたげだったが、聖堂の外に出た。

 

 

……知らない街だ。だが間違いなくソリチュードではないことだけは分かる。聖堂に戻って女司祭に場所を尋ねてみると、マスカルスという要塞だという。地図を広げて見てみるとなんとソリチュードよりさらに西、スカイリムの最西端ではないか! ソリチュードから一体どうやってここまで来たんだ!?

 

セナは昨日あなたがやってきて聖堂をめちゃくちゃにしてしまったので、片付けてほしいと言う。周りを見ると確かに物が床に散乱していた。自分がやった自覚はないが、女性の顔を見るとなんだか申し訳ない気分になり、とりあえず床に落ちているものをかき集めて渡す。すると昨日の連れは東のロリクステッドという村へ向かったという。俺はお礼を言って聖堂を飛び出した。

 

 

マスカルスはスカイリムの九大要塞の一つである。かつて遺跡であった場所をそのまま要塞として利用してる、高低差が非常に激しい一風変わった街並みであったが、今はゆっくりと観光している場合ではない。この街の入り口でも目の前で殺人事件が起こったが、それどころではない。要塞を出て一路東のロリクステッドへ向かった!

 

どれくらい走っただろう。一昼夜が過ぎ、山を越え、川を越え、そしてまた山を越えていった先に丘陵地が広がっており、そこにロリクステッドはあった。農業と牧畜が産業の主体となっているありふれた小さな農村であったが、ここにあのサムという男が来ているはずなのだ。さっそく聞き込みを開始した。

 

 

サムのことを知っているという農民のエニスという男がいたのだが、俺が話かけたときにはそれはもう激昂して取り付く島もない状態であった。何でも昨晩ここにやってきた俺が、ヤギのグレタを巨人に売ってしまったことに腹を立てているらしい。そんなはずはない! と訴えたが信じては貰えそうにない。このままではサムに関する情報も聞き出せず、あの杖も手に入らないことになる。俺はヤギの奪還を約束し、とりあえずその場に離れた。

 

 

ロリクステッドの郊外は延々と続くのどかな丘陵地帯。一体どこを探せばいいのかと途方に暮れていると、遠くの方でヤギを引き連れた巨人が歩いている。近寄っていくと、巨人はヤギを手に入れてご満悦なのかこちらを気にする様子もなくご機嫌なステップを踏んで闊歩している。その後を追いかけるヤギ。果たしてこの巨人を邪魔してもいいものかどうか少し悩んだが、今はヤギを取り返さなければならない。そう思ってヤギに手を伸ばす。

 

その途端巨人は激怒して襲いかかってきた。渾身の力を込めた棍棒が地に叩きつけられると、大きな衝撃と共に土が空に巻き上げられた! もしあんな一撃を受けてしまったら、自分も空を舞うことになるだろう。そんな光景が脳裏をよぎって、思わず寒気がした。だが幸いにも巨人の足は遅く、逃げに徹すれば追いつかれることはない。

 

俺は逃げる僅かな時間の間に炎の精霊を召喚し、代わりに攻撃してもらうことにした。リディアも弓を撃って援護してくれたが、あまりにも高い生命力を持つ巨人はなかなか倒れない。途中なんどか棍棒が身体を掠めてヒヤリとさせられたが、さしもの巨人も炎と矢の雨霰の前には抵抗虚しく、なんとかヤギを取り戻すことに成功した。ヤギの名札にはグレタと書いてあり、目的のヤギであることも確認できた。

 

 

村に戻りヤギを返すとようやくサムの次の行き先が分かった。なんとホワイトランである。さらに東へ行かなければならないのだが、これは本当に現実なのだろうか。たった一日で行けるような距離ではない。だがここまで来た以上後には引けない。俺はあの杖を手に入れるまで、地の果てまでも追いかけてやると誓った。

 

 

【続く】