四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記12『禁じられた伝説』

 

ドーンスターでたっぷり休息を取った俺は、ふたたびソリチュードを目指して西へと旅立つ。エランドゥルとはナイトコーラー聖堂の前で別れた。これからは殺めてしまった同胞たちの魂を鎮めるためにここで祈り続けるという。彼に対して掛ける言葉も見つからず、今はただあの男に安息の日々が訪れることを願うばかりである。

 

これから向かうソリチュードはスカイリムにおける帝国の本拠地が置かれている場所でもあるらしい。以前ハドバルが帝国軍への入隊もここで行っていると言っていたような気がする。ヘルゲンでドラゴンの襲撃に遭ってからリバーウッドへ逃げ延びたときのことももはや懐かしく感じる。彼は今頃何をしているのだろうか。

 

 

やがて雪原を抜け湿地帯に入る。辺りはすっかり暗くなってしまったが、ここまで来ればソリチュードは目と鼻の先である。だがその手前の渓谷で誰もいない設営されたままの野営地を見つけた。それはかなり長い間放置されていたようで荷物には埃が積もり、山賊が利用している様子も見られない。

 

せっかくだから少し寝床を借りていこうか、そう思って天幕の中に入ると一冊の古びた本が放置されているのを発見した。どうやら日記のようであったが、内容が断片的すぎて何について書かれているのかよく分からない。だがその中に出てきたゴールドールの伝説という名前にはなんだか聞き覚えがある。サールザルの最深部で戦った、ジリク・ゴールドールソン。彼には何か秘密がありそうだったが、生憎魔力を持ったアミュレットの一部くらいしか身につけていなかった。

 

だがその日記を読み進めるにつれ、書き手の強欲で自分本位な一面が徐々に顔を覗かせ、眉を顰めることになった。遺跡の鍵となるドラゴンの爪を民間人から強奪したとおぼしき内容や、これから洞窟を探索するにあたり旅先で出会った一団を罠の囮にするだの物騒なことが書かれているではないか。そしてアミュレットを手に入れるためにフォルガンスールの遺跡に潜る、という文で日記は締めくくられている。ダイナス・ヴァレン。最後のページにはそうサインが残されていた。

 

 

なるほど、つまりこの野営地はフォルガンスールという遺跡に潜るための前線基地であり、それが放置されているということは、持ち主はそこから帰ってこなかったのだと俺は考えた。朝になったらその遺跡を探してみようか、たぶん近くにあるはずだから。そう思って日記を照らしていた焚き火を消し、眠りについた。

 

昨日は暗くてよく分からなかったが、フォルガンスールの遺跡は野営地のすぐ裏手にあった。ソリチュードへ向かう方を優先させるため、少し覗いてみるだけのはずだったが、入ってすぐの部屋の仕掛けは既に解かれていて、容易に先に進むことができた。損傷の激しい遺体やドラウグルが横たわり、自分たちより前にこの遺跡に入ったものの夢の跡が生々しく残っている。

 

遺跡に仕掛けられた罠はまだ生きていたが、その場所には大抵白骨があったので簡単に見抜くことができた。きっと日記に書かれていたように、ダイナス・ヴァレンによって囮にされた旅人たちなのだろう。申し訳ないとは思ったが、屍を乗り越えて先に進んでみることにする。

 

 

数々の罠を乗り越え、ドラウグルがまだ倒されていない領域へと辿りついた。いまやドラウグルはたいした相手ではないが、ダイナス・ヴァレンはここまで来ることができなかったのだろうか? とっくにこの遺跡は踏破され、財宝は既に持ち去られた後という可能性がここで無くなったことを確信する。この遺跡の最奥まで行ってみる価値はあるだろう。罠の犠牲になったものたちには感謝しなければなるまい。

 

他の遺体とは離れた場所で、最後の遺体を見つけた。なぜ最後なのかは、ここから先の仕掛けは解かれていなかったからだ。遺体の懐を探るとこの遺跡の鍵になるという、アイボリー・ドラゴンの爪があった。もはや使われることのなかったこの鍵を使わせてもらうことにする。爪があった時点でなんとなく分かっていたが、この遺体こそがダイナス・ヴァレンに違いない。そして外に置かれていたあの日記の続きがそこにはあった。

 

 

それはゴールドールの伝説に関する彼自身の考察であった。遥か昔人々に崇められていたアークメイジ・ゴールドール。しかしその力を欲した彼の三人の息子が、力の源であるアミュレットを奪い彼を殺害した。その後アミュレットは三つに分けられ、それぞれ暴虐の限りを尽くした三人の息子はお尋ね者となり別のアークメイジに追われることになった。その結果倒された三人の息子たちは、それぞれの遺体がその最後の地で埋葬されることになった……という話だ。

 

このゴールドールの伝説はその当時の王によって抹消されていたはずで、そのほとんどが散逸しており、各地域に僅かに残った断片からダイナス・ヴァレンはこの伝説の真実に限りなく近づいたのだろう。とても尊敬に値しない人物像ではあったが、その熱意はきっと本物であったに違いない。ならばその研究成果、せいぜい利用させてもらうことにしよう。

 

 

ダイナス・ヴァレンの遺体の奥へ進むと、かつてブリーク・フォールの遺跡で見たような回転盤を用いてレリーフの印を合わせ、爪をはめ込む扉があった。あのときは偶然にも突破できたのだが、今回ばかりはまるで通用しない! 間違えるたびに扉にあった仕掛けから炎が吹き出て危ない思いをすることになった。

 

だがアイボリー・ドラゴンの爪をまじまじと見ると、回転盤のレリーフと同様の印が彫られているではないか! なるほど、あのときも本当はこうやって仕掛けを解くはずだったのかと今更ながらに理解し、ようやく扉を開けることができた。

 

 

扉の先はまだ手付かずのままの、いわば聖域であった。その中央には他とは違う立派な棺が安置されていた。俺はもしものときのために、壁を伝いながらゆっくりと中央の棺に近づくが、周囲のドラウグルたちが反応し始めた。起き上がると明らかにこちらに敵意を向けてくる。そして中央の棺からは、他とは桁違いの殺意を放つドラウグルが起き上がってきた。

 

この気配は、サールザルで戦ったあのジリク・ゴールドールソンと極めてよく似ている。あの日記にはミクルル・ゴールドールソンがこのフォルガンスールに逃げ込んだという記述があった。もしやあのドラウグルがミクルルの成れの果てというわけか。

 

周囲の大量のドラウグルが襲いかかってくる。しかし俺の魔法とリディアの剣では一人ひとりを相手にするのが精一杯であった。その隙にミクルルによって何度も切りつけられてしまう。黒く鍛えられたその剣には魔力が備わっていることが一目で分かった。ただの剣ではなく、相手の力を奪い取る魔力が付呪されているのだ。

 

だがかつてのアークメイジの息子だったというわりにはたいした魔法は使えないようだ。生前どんなに強い力を持っていようとも、脳まで腐ってしまったら満足に魔法も使えなくなってしまう悲哀があり、ジリクとの戦いのときほどの驚異を感じることは終ぞなかった。だがそのしぶとさの前にマジカが底を尽き、慌てて取り出したジリクの杖による電撃を放ち続けるとミクルルは動かなくなった。

 

 

戦いの後の聖域には多くの動かなくなったドラウグルが横たわっていた。ミクルルの持っていた黒い剣と、そしてダイナス・ヴァレンが求めてやまなかったアミュレット、その一部を手に入れる。ジリクが持っていたものと合わせて二つになり、ここまで来たら、残りのもう一つも欲しくなってくる。かつてアークメイジが身につけていたという力の源。きっと冒険の助けになってくれるに違いない。

 

 

その聖域のさらに奥には、スカイリムにある他の遺跡と同様に新たなシャウトの壁画が残されていた。そして大きな宝箱があり、財宝への期待感が膨らまずにはいられない。しかしその中身は石ころがたったのひとつだけであり、ひどく落胆してしまった。壁にでも叩きつけてやろうとその石を持ったとき、頭の中に声が響く。

 

 

その石をキルクリース山へ持ってきなさい……。この声の感覚には覚えがある。声色こそ違うがあの堕落のドクロから響いた声、デイドラのものによく似ていた。非常に嫌な予感がしたが、その声は見返りがあることを仄めかしていた。

 

今にして思えば堕落のドクロはかなり強力な魔力を秘めたアーティファクトであり、消滅させてしまったことについて多少の後悔が無いわけではなかった。だが今回こそあのようなデイドラの強力なアーティファクトを手に入れられたなら……。それは抗いがたい誘惑の響きだった。

 

【続く】