四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

『さかなのこ』鑑賞。

邦画でオススメを聞かれたら『南極料理人』だと答えることにしている。だって面白いし、好きだから。

 

『さかなのこ』は能年玲奈ことのんがさかなクン役を演じるということもあり、どうせ色物映画なんだろう? という印象が先行してまるで興味が湧かない作品だったのだが、前述した『南極料理人』の監督である沖田修一の作品ということを知ったので、じゃあ期待しないで観に行ってみるかな……と思って映画館に足を運んでみたら意外や意外、面白いじゃないか! そして何より”刺さる”作品だったのは収穫だった。

 

さかなクンの自叙伝が原作とのことだが、映画を見ているとどこまでが本当なのか? と思えるくらいの変わったエピソードが多い。カブトガニの人工孵化を始めとする実際にあったエピソードもあるとはいえ脚色や創作の部分も多いようだ(Wikipedia調べ)。つまりさかなクンをモデルにした人物の映画ではあるがさかなクンそのものというわけではなく、魚が大好きな男の子が子供から大人になるまでの半生を描いた映画だと考えて差し支えないだろう。個人的にはTVチャンピオンの魚通選手権で一躍有名になるエピソードが欲しかったが、まあさかなクンであってさかなクンではないので、その辺はしょうがないと諦めた。

 

映画が始まると「男か女かはどっちでもいい」といきなり大きく表示される。最初はのんが男性であるさかなクンを演じていることに対するエクスキューズか何かかと思ったのだが、観ているうちにそうではないことが分かった。それは男でも女でも、子供でも大人でも関係がない。そして魚かそれ以外かでも、”何かが好き”という個性には何の違いもなく普遍的なものだという力強い宣言だったに違いない。本編はゆるめでほのぼのとしたコメディ要素の強いふざけた作品ではあったが、そういったテーマが根底に流れていると感じられた。

 

さかなクンははっきりいって変人だと思うが、その生き様には憧れる。自分の好きを貫いている姿にはある種の救いを感じるからだ。自分も人間として成功とは程遠い人生になってしまったが、ゲームやアニメや映画が好きで後悔したかと言われればそんなことはない。そのせいで結婚もできないし子供もいないが不幸だったかと言われれなそんなことはない。さかなクンほどではないにしろ、その”好き”で確かにこれまで楽しかったし、幸福だった。最期まで人生を楽しみ尽くすために、頼まれなくったって生きてやる。この映画を観てそう決意を新たにした。

 

のんがさかなクンことミー坊を演じたのは、最初のうちは違和感を覚えたものの結果的に言えば正しかったと言わざるをえない。さかなクンのあのエキセントリックな言動を、もし成人男性が演じていたとしたら正直なところ”引いた”と思うから。そういう意味では女性が演じることでその部分はかなり緩和されていたと思う。自然体で天然なところもさかなクンとの共通点としてうまく作用していた。はまり役だった。

 

この映画があまりにも好きすぎて正常な判断を下すのは多分無理なのだが、今は悪いところがあっても全く気にならない状態だ。もしかしたらこれは恋かもしれない。良い悪いを越えた、今年一番”好き”な映画だ。