四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記11『目覚めの悪夢(後編)』

 

今は聖女マーラの司祭であるというエランドゥルは、とにかく信用してほしいという一点張りであったが、正直なところデイドラの仕業というのはあまりにも荒唐無稽で疑わしかった。しかしこの村の悪夢を取り払わなければ、自分もまた安らかに休息することができないのも事実であった。山の上の遺跡、ナイトコーラー聖堂と彼が呼ぶその場所に行かなければいけないのかもしれない。やむを得ず俺は彼に同行することにした。

 

 

エランドゥルに少し遅れて聖堂の前に到着すると、彼はかつてここで何が起こったのかを語り始めた。今より数十年前、ここはヴァーミルナの司祭が集う場所であった。しかし今のドーンスターのように悪夢に苛まれたオークの戦士らに襲撃されることになったのだが、ヴァーミルナの司祭たちは劣勢に陥るとミアズマと呼ばれる特殊なガスを使い、敵味方の区別なしに全てを眠りに就かせた。

 

そして今、このナイトコーラー聖堂の封印を解くことによって再びヴァーミルナの司祭とオークたちの戦いが始まるという。そんなところに入っていけば当然自分たちも戦いに巻き込まれるだろう。なんという厄介事に巻き込まれてしまったのだと俺は少し後悔していた。そしてあまりにも話が具体的なことに、エランドゥルに対する疑いは益々深まっていった。

 

 

彼が聖堂の扉を開け、自分も後に続く。入ってすぐにある祭壇には、既に長い眠りから覚醒したヴァーミルナの司祭たちが敵を迎え撃とうと待ち構えていた。彼らはオークと戦っていたはずだが、もはや正気を失っており誰が相手かなどは関係ないようだ。ミアズマによって眠りに就いた時間が長ければ長いほど精神は汚染されるという。エランドゥルは何のためらいもなく手にしたメイスで狂った司祭たちを叩きのめす。戦闘に関しては心配するどころか、むしろ頼りになる男だ。

 

 

祭壇の奥にある隠し通路から奥へ進むと、鉄格子で阻まれた吹き抜けの下には、目に見えるほどの不気味な魔力を放つ杖が安置されていた。エランドゥルはそれを”堕落のドクロ”と呼び、それこそが悪夢の元凶であるという。しかしその部屋に通じる道には魔力の障壁が張られておりそのままでは進むことができそうにない。おそらくミアズマを使用したときに、司祭たちが身を守るために発動させたものだとエランドゥルは言った。

 

なんでそんなことまで知っているんだ? あまりにも怪しく思い俺はふと尋ねてみたが、彼は俺の疑いの眼差しに観念したのかようやく白状した。彼は元々ヴァーミルナの司祭だったのだ。しかしこの聖堂が襲撃されたときに逃げ出し、スカイリムを放浪するうちに全てを受け入れる愛の神マーラへ改宗していたのだ。そして長い時を経てドーンスターに戻ってきたとき、悪夢に苛まれている村を見てついに贖罪のときがやってきたのだと思ったのだ。俺はその説明に一応の理解を示した。真偽の程は定かではないが、今は彼を信じるしかあるまい。

 

 

エランドゥルは図書館へ行こうと来た道を戻っていく。目覚めたヴァーミルナの司祭やオークの戦士たちを倒しながらどうにか図書館へ辿り着くと、”夢中の歩み”という本を探してほしいと頼まれた。疲れに霞む目を擦りながらなんとか台座の上に置かれていたその本を探し当てると、そこに書かれていたのは驚くべき錬金術についてのことだった。

 

ヴァーミルナの不活性薬を飲むことで、夢の中で移動することで現実世界でも同じように移動できるようになる”夢中の歩み”というヴァーミルナの秘技。あまりにも信じられないことだが、エランドゥルはこれからそれをやろうというのだ。だが不活性薬はマーラの司祭である彼には効果がなく、ヴァーミルナの司祭もしくは部外者にしか効果がない。つまりこの場合は俺がその術を使うということになる。なんだか恐ろしい話だ。

 

 

ヴァーミルナの不活性薬は、オークによって破壊しつくされた研究室で奇跡的に一つだけ見つけることができた。ゴクリ……いざ薬を飲むとなると怖気づく。黒々した正体不明の液体であることもそうだが、この世ならざるデイドラの秘術に手を出そうというのだ。しかしエランドゥルはこちらを安心させるためか、いざというときのために夢の世界に行った後の身体は自分が見守っているという。他に手は無いのだ。俺は意を決して黒い液体を飲み干した。

 

 

意識が身体を離れて浮かび上がったと思うと、俺は知らない場所へと飛ばされていた。全てのものに掴みどころがなく、夢の中と言われればそんな気がしてくる。夢の中で俺はカシミールという名前で呼ばれていた。さきほど現実で安置されていた堕落のドクロの前におり、そこにいた二人の司祭とは仲が良いらしく気さくな会話を交わしている。しかしオークの襲撃が始まり、ミアズマの散布を命じられるとその言葉に操られるように目的の場所へと身体が勝手に動いた。

 

聖堂内ではヴァーミルナの司祭とオークたちの激しい戦いが繰り広げられるが、この身体はまるで意に介さない。俺は障壁の前にあったミアズマを散布するためのレバーを引くと、そのガスが次第に聖堂を覆っていく。倒れる司祭とオークたち。そこで目が覚めた。俺は現実で障壁を越えた場所に立っていた。我に返って障壁を発動する魔力の源になっていた石を台座から取ると、障壁は消えエランドゥルが入ってきた。

 

 

遂に堕落のドクロのある最奥聖域へと足を踏み入れた。しかし堕落のドクロの前には先程夢の中で見た二人の司祭が待ち構えていた。しかし彼らはエランドゥルの姿を見ると別の名前を呼んだのだ、カシミールと。

 

その二人の司祭はミアズマの影響が少なく会話が通じたが、エランドゥルがヴァーミルナを捨ててマーラに改宗したこと、ミアズマから逃げ出したこと知ると彼らの怒りが爆発し激しいメイスの打ち合いと破壊魔法の戦いが始まったのだ! 最初は躊躇いがあったエランドゥルも戦いが避けられないことを理解し応戦を始めた。そして彼らの怒りは俺にも向けられた。

 

まずい! 先程の夢中の歩みの影響で集中力を欠いている状態では満足に魔法を使うことも出来なかった。これだけはやりたくなかったが、仕方ない!! 懐から魔力の薬を取り出すと、一気に飲み干した。そして休息の薬、体力の薬を次々飲み干していく。すると一時的にだが全身の疲労が吹き飛び集中力が戻ってくる。身体の奥底から力が湧き上がってくる。

 

後でどうなるかまではわからないが、これならば! エランドゥルとともに司祭たちへの抵抗を試みる。司祭たちは堕落のドクロに影響を受けてか異様な体力と魔力を誇り、苦戦は免れなかった。だがエランドゥルの戦いぶりにも鬼気迫るものがあり、その甲斐あってかろうじて戦いに勝利を収める。そしてエランドゥルことカシミールの友人であった二人の司祭は、今度こそ永遠の眠りについた。

 

 

エランドゥルはあれだけの戦いを終えた直後にも関わらず、堕落のドクロの障壁を取り除き破壊するための儀式を始めた。疲れていた俺は祭壇を登る階段に腰掛けながらその様子をただ見守っていた。そして儀式が終わりに近づこうとしていたそのとき、頭の中に語りかける声が聞こえてきたのだ。儀式が終わったとき、次は堕落のドクロを手にしたエランドゥルがお前に襲いかかるぞ……。女の声がそう囁く。エランドゥルを殺せ! その話は、エランドゥルに対して少なくない疑いを持っていた俺にとっては、あまりにも甘い囁きであった。

 

しかしその声がどこから聞こえてくるのか、徐々に分かってきた。あの堕落のドクロからである。あの堕落のドクロは恐らくデイドラであるヴァーミルナがこちらの世界に力を及ぼすための端末で、俺の運命を狂わせるために、あるいはエランドゥルの運命を狂わせるために働きかけているに違いない! そう確信した俺は声を跳ね除けようとひたすらに耐え続けた。やがて儀式が終わり、堕落のドクロはエランドゥルの手によって粉々に破壊され、この世から消え去った。それと同時に女の声は聞こえなくなり、先程の推測が真実であることを悟ったのだ。

 

 

全てが終わり、エランドゥルは憔悴しきった表情で深々とお辞儀をした。これでドーンスターは救われた。自分の贖罪は終わったのだと。その顔に浮かんでいたのはまるで重い使命から解放されたかのような安堵感か、それとも友人を手に掛けた後悔だったのか、薄暗い聖堂の最下層ではそれは分からなかったが、彼もまた数十年に渡って続いていた悪夢からようやく目を覚ますことができたのだろう。今はそう思えてならなかった。

 

 

【続く】