『音楽』というアニメは、全編ロトスコープで制作された大変手間のかかった作品だ。
しかしこの作品を敢えてアニメでやる意味あるかな?
実写でもよくない? と最初のうちは思っていたが
音楽、演奏のシーンではアニメとしての本領が十分に発揮されていた。
あの楽器が奏でられた瞬間に変わる空気を視覚的に切り出すには
アニメという形式が適切だったと言うしかないだろう。
間の使い方も大胆で、そのツッコミ不在のシュールさが独特の笑いを生んでいる。
アニメ畑じゃない監督が作り出したアニメの新鮮な驚きで溢れていた。
主人公、研二を始めとする大田と朝倉の三人は、いわゆる不良である。
暴力的で、雑で緩い日常を過ごす彼らがふとしたきっかけで始めるバンド活動。
無知蒙昧な男たちが奏でるのは原始のビートとしか言いようのない音楽。
怠惰な日常にふと輝きが生まれる瞬間。それは青春と呼ぶに相応しかった。
スリーピースバンドなのにベースは二本だし
ドラムセットは音楽室から適当にちょろまかしてきたもの。
チューニングのやり方も分からない。
でもその向こう見ずな彼らが無性に羨ましいと思った。
音楽に限った話ではなく、何かを始めるときにはそれくらいでいい。
SNSであらゆるプロフェッショナルが可視化されているこの世の中で
何もできないままでいる臆病な自分たちにとっての福音のようだった。
人前に出ることにも何の躊躇いもない。
この世界ではその拙い音楽を否定するものは誰もいない。ただ音を楽しんでいる。
その優しさが、なんだか身に沁みた。
いい作品だった。
このブログでの活動も、そういうものでありたい。