四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記4『ドラゴンの目覚め』

 

ドラゴンを目撃したという報せでドラゴンズリーチでは幹部を集めた会議が始まった。

その内容は近くにいた俺の耳にも届き、切迫した様子が伝わってくる。

ファレンガーはドラゴンをこの目で見ることができるかもしれないと興奮していたが

城の守りを考えて留守番ということにさせられたようだった。

バルグルーフは側近のイリレスに、兵士を率いてドラゴンを討伐せよとの命令を下す。

そしてなぜか、俺もその討伐隊に参加するように要請されてしまった。

俺は別にホワイトランの兵隊になったつもりはないのだが。

 

正直に言うと気は進まない。

バルグルーフが言うには、ドラゴンと相対して生き残った貴重な経験の持ち主だから

ということらしいが、あのときのことを思い出すと鳥肌が立つくらい恐ろしい。

だが何十人もの兵士を率いて迎え撃つ準備があるというのなら話は別だ。

このスカイリムで成功を収めるなら、これくらいの無茶はしなければ……。

 

 

俺は気休めのつもりでファレンガーから『炎の精霊召喚』を習った。

そうしている間に先発隊は既にホワイトランを発っており

後を追いかけるようにして一人でホワイトランを出発したが道に迷ってしまった。

しかし岩場の陰に山賊の拠点と思われる場所を発見したのだ。

 

たくさんの物資が山積しているにも関わらず、たった二人の山賊しかいない。

これはチャンスだと思った。隠れながら近づいて襲撃すると

火炎の魔法で山賊たちをいとも簡単に倒すことができた。

俺はわずかな労力で手に入れた大きな成果に酔いしれる。

走ることができなくなるほどの荷物を抱え込み

山賊の拠点を後にしようとしたそのとき…。

 

 

複数の人間の話し声が聞こえてくるではないか!

山賊の拠点にたった二人しかいない。そんなはずはなかったのだ。

拠点を離れていた山賊の残りが近づいてくるのを察したがもう遅い。

こちらの姿を確認した山賊たちが走ってこっちに向かってくる。

しかもそのうちのひとりは魔法使いだ!

 

ここで戦うのはまずいと思ったが

荷物が邪魔で思うように動けない。しかし今はそれどころではない。

手当たり次第に荷物を捨てて逃げようとしたが

山賊の一太刀が背中を袈裟懸けに切り裂いた。

 

 

三人もの相手に有効な手は何だ…?

鋭い痛みで混乱した頭を振り絞って思いついたのは

冷気による寒さで相手のスタミナを奪う『氷雪』の魔法だ。

目論見は成功し、放たれた冷気は襲い来る山賊たちの動きをみるみる鈍らせていった。

魔法使いの雷撃が後方から飛んでくる。苦痛とともに痺れが全身を襲う。

こらえるしかない。やがて山賊たちは倒れ、後ろの魔法使いも斧の一撃で沈む。

なんとか勝った…。自らの欲深さを大いに反省させられた一戦だった。

 

 

山賊たちとの戦いの後、ホワイトランから西にある見張り塔の付近で

イリレス率いるドラゴン討伐部隊と合流することができた。

彼女は俺の姿を確認するとゆっくりと頷き、兵士たちに周辺の捜索を指示する。

相手はあのドラゴンだ。精強な要塞の兵士たちの間にも緊張が走る。

いくつかの分隊に分かれながら、塔に向かって慎重な足取りで進んでいった。

 

 

曇り空は次第に暗い雨雲へと変わっていく。

俺は兵士たちの後についていくだけだった。この中には誰もいないのか?

塔の中を覗くが誰もいない。そのとき塔の外で誰かが叫ぶ声がした。

ドラゴンだ!!

 

 

塔の外へ飛び出す。兵士たちが各々に剣と弓を構え、戦闘態勢に入るのが見えた。

塔の周囲を旋回し、着地しようとするドラゴンに対して次々と矢が射掛けられる。

なんと頼りになる兵士たちなのだ! その士気の高さに、俺は心強さを覚える。

 

こちらの攻撃は効いているのか? まるで分からない。

恐怖で震えそうになる身体を押さえつけて炎の精霊召喚を試みる。

今の魔力(マジカ)を限界まで振り絞らなければ使えない高等魔法である。

少し離れた場所に現れたそれは、まるで炎を纏った女性のようなシルエットであった。

何かを命ずるまでもなく炎の塊を次々にドラゴンに対して投げつける。

俺は一定の距離を保ちながら、ドラゴンの動向を見ていることしかできそうにない。

ドラゴンの炎が一人の兵士を襲い、地に倒れ伏した。

次は自分がああなるのかもしれないと思うと寒気がする。

 

 

懸命の戦いは続いた。ドラゴンの炎は何度も自分を掠めていき

そのたびに死の覚悟をしなければならなかった。

イリレスや兵士たちは勇敢にも戦い続け、一人、また一人と倒れていく。

俺は自分が傷つくたびに塔の陰に身を隠し、傷を癒やした。

おかげでまだなんとか立っていられる。

 

鈍重な見かけとは裏腹に素早い動きで飛び回り戦場を駆け巡るドラゴン。

一度狙われたが最後、逃げようと思っても逃げられるとは思えない。

だがこちらの人数が多かったのが幸いしたのか

徐々に動きが鈍っていくのが分かった。

今だ! 目の前に降り立ったドラゴンに向かって斧を振り回す。

斧に宿った氷の力が切れ味鋭くドラゴンの身体に突き立った。

するとドラゴンは弱々しい断末魔の声を上げて倒れていく!

 

 

疲労が全身を包む中、ただ呆然とドラゴンの屍を見下ろしていた。

そのときだった。突然ドラゴンの身体が発光し、自分の身体に何かが流れ込んでくる。

ドラゴンは目の前でみるみるうちにその肉体を失い、骨だけになっていった。

あのときと同じだ!

ブリーク・フォール墓地の底で、壁画に書かれていた光る文字に触れたあのとき。

何かが自分の身体に流れ込んできて、頭に言葉が浮かび上がってくるのだ。

その様子を見ていた兵士の一人が呟く。

 

ドラゴンボーンだ……。確かにそう聞こえた。

 

 

その聞き覚えの無い言葉を、兵士に訪ねた。

ドラゴンボーンとはスカイリムの地に伝わる、ドラゴンを倒すことで

ドラゴンの力をその身に宿して戦う者のこと。

後の世に語り継がれる英雄たちは皆ドラゴンボーンであったという。

 

スカイリムの原住民であるノルドたちには有名な話らしく

知らないものはいないくらいのことらしい。

ホワイトランの兵士たちはノルドばかりだったが

ダークエルフのイリレスはピンと来ない様子でこちらのことを見ていた。

もちろんスカイリムに来て間もない俺にもまるで実感がない。

 

ドラゴンボーン! ドラゴンボーン!

兵士たちがまるで勝鬨(かちどき)のように囃し立てるが

俺の力はドラゴンを倒すのにはあまり役立てなかった。

後ろめたい気持ちがあり、むしろみんなの力があってこそだったと俺は言いたかった。

あまりに突然のことで、戸惑いが隠せない。

 

イリレスは興奮する兵士たちをなだめ、バルグルーフへの連絡役に俺を選んだ。

後始末をイリレスたちに任せ、一路ホワイトランへ戻る。

雨が降りしきるなか、大きな落雷が不気味に轟いた。

 

 

【続く】