個人的には手描きアニメーションの暖かみ、などというものは信じていないが
手描きでなければできない柔らかなタッチの線
設定画通りじゃない手癖で描いた人物の躍動感…それらは確か存在する。
2012年に公開された『虹色ほたる』は作画にCGを用いず全編手描きの作品だという。
作品の一部のシーンが『君の名は。』に引用されていることはよく知られているが
比較動画などを見るとその性質の違いがよく分かると思う。
作品の主な舞台となる1977年をありのままに描くなら、手描きのほうが断然良い。
素晴らしい判断をしたと思うが、その分制作の手間も並々ならないものがあったはず。
物語は、主人公のユウタがダムに沈んだはずの村に迷い込み(タイムスリップ)
そこで暮らす一ヶ月の間の出来事を描いたものである。
昭和52年の夏。自分が生まれる前のことだし、田舎育ちでもない。
しかしなぜだろう、こんなにも懐かしく感じられるのは。
カブトムシ、夏祭り、川遊び、スイカにホタルにおばあちゃんの家…。
定番の夏のイベントも盛り沢山で十二分に夏の雰囲気に浸ることができる。
そして存在しないはずの従妹であるさえ子、同じ年の友人であるケンゾー。
村がダムに沈んでしまう直前の最後の夏を一緒に過ごす。
あるはずだった夏。あってほしかった夏がそこにある。
子供向け作品のような見た目のアニメーション作品だが
どちらかというと大人のほうがじんわり来る作品になっていると思う。
結末は、完全無欠のハッピーエンド。
だいぶ説明が省かれているので、都合がよすぎると感じるか、これで良いんだと思うか
若干のせめぎ合いはあった。
最初の20分は動きも少なく、正直言うと退屈なので
そこさえ乗り越えればあとは流れで最後まで楽しめるはず。
今ならYouTubeの東映アニメーションミュージアムチャンネルにて
期間限定で無料公開しているし、何なら自分もそこで見た。