四十の一部始終

今年で四十歳になりました。二日に一回更新が目標。

スカイリム日記32『誰も逃げられない』

 

シドナ鉱山。それはスカイリムにおけるの銀の産出量の半分を賄う銀鉱山でありながら、マスカルスのあるリーチ地方の犯罪者を収容する天然の牢獄としても機能していた。シルバーブラッド家はこの鉱山の所有権を持ち、犯罪者という極めて安価な労働力を使うことによって財力を貯え、マスカルスにおける地位を不動のものにしているのだ。

 

ルバーブラッド家は市警隊と癒着しており、俺はタロスの祠から裁判も経ずに直接シドナ鉱山へと連行された。その際全ての所持品を没収されボロボロの布一枚の姿にさせられた。最近はすっかり鎧に頼り切っていたせいか心細い。だが魔法の使用までは封じられていないのは唯一の救いだった。もし誰かに襲われたとしても、魔法で制することができるからだ。灯火を使って視界を確保することもできる。

 

 

背後で鉄格子の錠前が閉められ、看守の足音が遠ざかっていく。中に入ってすぐの広間では一人の男が焚き火に当たっていた。ウラクセンと名乗った男は親切にも俺にこの牢獄のイロハを教えてくれた。看守がここに来るのは一週間に一回のみ。その間に銀を掘り、看守に渡すと労働の対価として食料を渡される。何もしなければ当然食料は得られない。問題を起こせばすぐさま看守によって懲罰を受けることになる。だがこんなところに長居をするつもりはない。すぐにでも脱出のために動き始めるつもりだ。

 

ラクセンはあるノルド貴族に仕えていたが、その貴族がある日何者かに刺されその濡れ衣を着せられそうになった。そこから逃亡しフォースウォーンに入りそこで殺人を犯し捕まったという。ここにいる囚人のほとんどがフォースウォーンであると教えてくれた。囚人は新しい刺激に飢えているせいか、新入りの俺に対して聞いていないことまで話してくれる。こちらはおかげで助かるのだが。

 

マダナックに会いたいと言ったが、それを言うのは新入りだなと鼻で笑われた。つまり簡単に会うことはできないということらしい。とりあえず護身用にナイフを持っておけと忠告された。グリスバーという囚人が持っているらしい。

 

 

広場には入ってきたものとは違う鉄格子の扉があり、強面のオークがそこに立ちふさがっていた。彼はマダナックの用心棒らしいのだが、そこを通りたいと伝えたら通行料を要求された。ナイフをくれたら通してやってもいいと言うのだが……。どちらにせよグリスバーからナイフを手に入れなければいけないようだ。

 

 

グリスバーは坑道の奥の方でつるはしを振るっていた。グリスバーは盗みの常習犯で、何度も窃盗を繰り返しているうちに刑期が無期限に延びていったと愚痴っていた。ここでは誰もが身の上話をしたがるらしい。

 

手先が器用で、銀を掘り出したついでに割れた岩を削り出してナイフを作っているのだという。彼はスクゥーマ(麻薬のようなもの)中毒であり、デュアチという囚人が隠し持っているというスクゥーマを欲していた。

 

 

シドナ鉱山はスカイリム有数の銀鉱山だけあってどこを掘っても銀鉱石が出てくる勢いだが、今の俺は鉱石変化の魔法によって鉄鉱石からいくらでも金と銀が作り出せるのでさしたる魅力はない。デュアチを探して坑道をうろついていると、さっきとは反対方向の場所でデュアチは作業していた。中毒者のふりをして近づくと、その姿を見て同情したのか手持ちのスクゥーマを恵んでくれた。

 

 

スクゥーマとナイフを交換し、ナイフを門番に渡し、ようやくマダナックと会うことができる。オークの持っていた鍵によって開かれた鉄格子の向こうは、小さな牢屋がいくつもありその奥にマダナックの部屋があった。

 

他の囚人の部屋とはまるで違う、酒にチーズに立派な寝床! 一体どうやって手に入れたのかなど、聞くまでもない。なにしろソーナー・シルバーブラッドと通じているのだから。そこで机に向かって筆を走らせる白髪の男がマダナックに違いなかった。身体に深く刻まれた皺がその男の歴史を感じさせる。この男が紛れもないフォースウォーンの王である。

 

マダナックはこちらを一瞥もせず、一心不乱に筆を走らせていたが、こちらの存在に気付くとそのまま話しかけてきた。マスカルスの闇とフォースウォーンの繋がりの話か、それともエルトリスと共に命を狙われた復讐を果たすか。そのどちらかを選べと。

 

 

俺は復讐よりも真実を選んだ。するとマダナックもまた話相手に飢えていたのか、ゆっくりと口を開き始めた。かつての大戦の最中、ノルドに支配されたマスカルスを取り戻したのだが、即座に報復を受けて捕獲され、裁判によって死刑判決を受けた。だがその執行はソーナー・シルバーブラッドによって止められ、それと引き換えにマダナックを自分の操り人形として生かし続けた。マダナックも最初は屈辱的な扱いだと感じていたが、いずれソーナーが油断するそのときまで堪え続けることを選んだ。そしてようやく、その時が来たのだ。

 

お前も仲間になれ。マダナックは暗にそう言っていた。他の囚人たちがフォースウォーンに鞍替えしたように、俺にもそれを求めているのだ。今はここを脱出するという目的のために従ったフリをするべきだろう。面従腹背だ。

 

だがマダナックは仲間になるためには密告者を始末しろと言ってきた。その密告者とは先程ナイフを取引したあのグリスバーらしい。密告者を排除しなければ脱獄はできない。だから俺にその手を汚せというのか……。

 

 

グリスバーの元へ行き、マダナックの遣いでやってきたことを告げた。するとグリスバーは密告者である自分が始末されることを悟ったのか発狂して暴れだした。つるはしを振りかぶり、今まさに振り下ろされようとしている。だが周囲の囚人たちもみなフォースウォーンである。先に手を出したグリスバーを寄ってたかって袋叩きにし、自分が手を下すまでもなく殺してしまった。

 

 

俺がやったわけじゃないが、グリスバーの訃報を聞いてついにマダナックが立ち上がった。広場にフォースウォーンを集め、ついに立ち上がるときがきたと高らかに宣言する。脱出用の通路は既に坑道の中に存在し、隣接するドワーフの遺跡に繋がっているという。囚人たちは鬨の声を上げると、一列に連なり通路に向かって走っていく。置いていかれないように俺もそれについていった。

 

 

ドワーフ遺跡はこれまで誰も足を踏み入れていないらしく、大蜘蛛やドワーフオートマトンが配置されていたのだが、フォースウォーンの士気は高く連携で次々と撃破していく。

 

しばらく走っただろうか、出口と思われる大扉の前にはフォースウォーンの女が待っていた。彼女は武器と防具を用意しており、囚人たちは次々と身につけていく。その中には戦士としての姿を取り戻したマダナックの姿もあった。そして俺がマスカルス市警隊に没収された所持品一式も取り戻してくれていたのだ。これから俺がどうするのかも知らずに。

 

 

武装したフォースウォーンが次々と門の外へと出ていく。そして俺とマダナックが最後に残った。そしてマダナックが出ていこうとしたそのとき、俺の放ったアイスストームの魔法がマダナックを巻き込みながら、扉を凍結させた。

 

マダナックは驚愕の表情で俺を観た。どうやら完全に仲間だと思っていたらしい。個人的な恨みももちろんあるが、これまでマスカルスで起こった事件のことを考えると逃がすわけにはいかなかった。そして今こそが千載一遇の機会なのだ。扉が凍りつき外に出たフォースウォーンも戻ってはこれない。ここで決着をつける!

 

 

意外なことにマダナックは優秀な氷術師であった。連続で放たれるアイススパイクが身体を貫いてくる。あの牢獄の中で権力を維持していられたのは魔術師だったからだ。だがこちらも装備が戻ってきたことで魔法の連続使用が可能になった。アイスストームで持続的に相手の体力を奪う。お互いの氷魔法のぶつかり合いでみるみるうちに遺跡の中の気温が下がっていく。

 

 

魔法の撃ち合いでは不利と悟ったか、氷の魔法が込められた手斧を振るうマダナック。だが手当たり次第に撒き散らした氷魔法の影響でマダナックの動きも鈍っている。あんな牢獄に二十年もいて、体力が衰えていなかったらどれだけ恐ろしい相手だったのだろう。体力が底を尽きマダナックは膝を付いた。だが俺は容赦なく追い打ちをかける。冷たく凍りついたフォースウォーンの王は力を失って横たわり、ついに動かなくなった。マダナックの気の遠くなるような長い戦いはここに終止符を打たれたのだ。

 

 

遺跡の外に出るとマスカルスの街中で市警隊とフォースウォーンの戦いが繰り広げられていた。両者とも多くの犠牲を払い、死体の山を築いている。俺が市警隊に捕まったときの混乱ではぐれていたリディアが俺の姿を見つけて走ってくる。しばらく身を隠していたらしい。再開を喜び合う。ソーナー・シルバーブラッドもこのような戦いが起こることは予想できなかったらしい。彼は戦いに巻き込まれ、抵抗虚しく死んでしまった。

 

 

戦いが終わった。ソーナーとマダナック、マスカルスを裏から支配し多くの人間を不幸に陥れていた二人は倒れた。シルバーブラッド家と癒着していた市警隊にも多くの死者を出し、しばらくは機能しないだろう。脱獄したフォースウォーンも結局街から一人も出られず全員死んでしまった。

 

これで何かが変わるのだろうか。今は残されたマスカルスの民が頑張ってくれることを期待するしかない。しかし今回の事件で俺も有名人になってしまった。ほとぼりが冷めるまではマスカルスには近寄らないようにしよう。

 

 

【続く】

初めての特定健診とフィットボクシング連続150日

四十歳になったので初めて市から特定健診の通知が来た。自営業なこともあり、普段は献血を簡易的な健康診断代わりにしているので、別にいいかなといつもだったら思ったのだが、保険のおばちゃんが健康診断の結果を提出すれば料金が安くなるよと言っていたのを思い出したので受けることにした。

 

検査内容は採血と尿検査と心電図と問診と身体測定。体重はともかく身長なんて何十年ぶりに測っただろうか……。尿検査をするとは思っていなかったので、その日の朝に目覚まし代わりにモンスターエナジーを一本飲んできてしまった。普段健康診断を受けない奴の認識なんてこんなものだ。小便が真っ黄色だったのはさすがにどうかと思ったので、検査で異常が出るかもしれないと不安な日々を過ごすことになった。

 

 

二週間後、結果が出た。中性脂肪が基準を大幅に越えたのは、さすがに医者も渋い顔をしていた。尿酸値が基準を越えたのは朝にモンエナ飲んだせいかな……。献血の検査結果では一度も基準値を越えたことはなかったのだが、こちらはそれよりも基準が厳しいらしく血圧も基準値を越えてしまった。

 

中性脂肪が多いということは、平たく言えば食い過ぎだ。それなりに食べつつも体重は増加してないからいいじゃん! と思っていたのだが、そういうわけにもいかなかったらしい。食生活の改善が求められている。以前は五十くらいで死ねればいいから不摂生しまくれ! と思っていたのだが、一度通風になってからは改心したつもりだった。

 

 

フィットボクシングも連続150日を迎えた。体重が劇的に減ることはないものの微減が続いている。この運動が検査結果にどれくらい影響するのかは、来年の検査を待つことになる。それなりに頑張ろう。改善しなければ運動をもう少し増やすことになるだろう。

 

 

そう思っていたらかつやでタレカツが始まってしまった。今週だけ……今週だけは許してくれ! かつやのタレカツは本当に美味いんだっ! ああ美味い!!

 

 

 

二度目の『トップガン マーヴェリック』鑑賞。

大作が次々公開されることもあって、今年の5月末に公開されてロングランしている『トップガン マーベリック』が全国的に公開終了する運びになっているようだ。公開当初に一回観たのだが、ちょうどこのブログを始める直前くらいのことだったので特に言及することはなかった。地元のシネコンも11/10に終わることもあってか、最後の最後に良いスクリーンが宛てがわれており、せっかくだから見に行くことにした。

 

この作品の魅力は何と言っても映画館で観ることに最適化された映画だということだろう。トム・クルーズも配信ではなく劇場での公開に拘ったというのも納得の臨場感。音が直接ぶつかって身体を揺らしてくるのは自然と精神が高揚してくる。そして戦闘機のコクピットで左右に揺さぶられ、空気と衝突するかのようなライド感もある。

 

この間ガルパン劇場版を映画館で観たときも、家で観たときと違いすぎて驚いたのだが、この『トップガン マーヴェリック』も多分その部類に入り、家で観たら面白さは半減すると思う。まあ話は王道そのものとしか言いようがないので、半減したとしてもそれなりに面白さは保証されていると思うが。

 

『マーヴェリック』は初代より面白い続編としては、好き嫌いはあるにしても『ターミネーター2』ばりに異論は無いタイプの作品だと思う。正直言って初代の『トップガン』は今観るとそんなに面白くなかった。当時どれだけブームになったのかまでは知らないが、ドッグファイトで何やってるかよく分からないし、グースが事故で死んだあとマーヴェリックがうじうじしている時間が結構長い。ただF-14戦闘機のカッコよさだけは今も色褪せてはいなかった。

 

だがトム・クルーズ演じるピート”マーヴェリック”ミッチェル大佐の前史としては無くてはならない存在である。これがあることによって、行く先々の部隊でトラブル起こしてばかりで閑職に追いやられている退役間近の不良パイロットが、数十年ぶりに戻ってきたトップガンで新たな伝説を作るというだけの話が輝きを何倍にも増す。バーで絡んだおじさんが実は伝説のパイロットで! 俺たちの教官だった! そして操縦テクで異次元の差を見せつけられる! なんて分かっちゃいるけど美味しいシーンだ。

 

個人的に上手いと思うのは最初のダークスターの試験飛行のシーン。あれで空中分解したダークスターから黒焦げになりながら生還することで、この作品におけるリアリティラインのだいたいの線引きがなされるので、フライトシミュレーターみたいなプラント破壊ミッションも、ならずもの国家とかいう曖昧な表現も、パクったF-14で第五世代戦闘機と戦うとかどんな無茶苦茶もわりと受け入れられてしまう。だって黒焦げアフロになりながら水をゴクゴク飲んでガキに宇宙人だと疑われるような映画だから。

 

個人的に気になるのは、一回目に観たときも思ったのだが、マーヴェリックとルースターの確執がわりと有耶無耶になっているところである。散々引っ張ったわりにはマーヴェリック自身の問題として片付いてしまっている。

 

でもしょうがない。なんせマーヴェリックの操縦技術が圧倒的に凄腕なのでルースターも認めざるを得ないからだろう。最初は反目していたサイクロンもあまりの凄さに認めざるを得なくなっているほどだから。まああまり細かいところを気にする映画でもない。楽しいから許す。

 

明日は『すずめの戸締り』だ。

 

 

スカイリム日記31『フォースウォーンの陰謀(後編)』

 

エルトリスの頼みは、下手に首を突っ込めばこちらが火傷しかねないものだ。だが今の俺がそう易々と誰かに殺されたりするものか……そう考えたのは思い上がりだろうか。ちょっと調べてみるだけだ、深入りをするつもりはない。このマスカルスの闇を少し覗き見てみるつもりで、エルトリスの依頼を承諾した。

 

殺害された女の名前はマルグレット、そして殺害した男の方はウェイリンという名前であるというのは、エルトリスがすでに調べて得た情報であった。マルグレットは街の住人ではなく最近やってきた女であり正体は謎に包まれている。ウェイリンは街の鉱山に隣接する溶鉱炉の作業員であり、ウォーレンズと呼ばれる労働者用の住居に住んでいたという。

 

そこまで分かっていれば、何をするべきかはそれほど難しくない。地道に、それとなく、話を聞いていくしかない。それも慎重に。

 

 

俺はまずマルグレットの足取りを調べた。これは簡単に判明し、殺される前は宿に部屋を取っていたことがわかった。それも一番高い部屋だ。これだけでもう怪しさが漂っている。泊まっていた人間が死んだということで縁起が悪いのか、鍵がかかったままの部屋の鍵をなんとか頼み込んで借りて部屋に入る。

 

 

部屋の中にはまだマルグレットのものと思われる荷物が置かれている。その中に一冊の日記を見つけた。読み進めていくと、文章の中にある名前を見つけて驚いた。俺もソリチュードで会ったことがある、テュリウス将軍の名だ。これはまさか……マルグレットは帝国の間諜(スパイ)だったのか? 

 

このマスカルスを事実上牛耳っているのはシルバーブラッド家であり、この辺りはリフテンのブラックブライア家と非常によく似ている。シルバーブラッド家はストームクロークの支持者であるため、帝国のテュリウス将軍にとって脅威だと思われているのだろう。その調査員として派遣されてきたのがマルグレットだった。だが家長であるソーナー・シルバーブラッドに目を付けられ、常に誰かに監視されている気配を感じていた……というのが日記の最後のページに書かれていた内容だ。

 

そうだとすると、殺される理由は十分にあるような気がする。マスカルスの裏側を探っているのを邪魔に思い暗殺されたのだ。まさに今の俺と似たようなものだ。少し背筋がぞっとして身震いしたが、日記を懐に仕舞って宿から出た。

 

 

ウォーレンズは崩落が起こった遺跡をそのまま住居として利用している、言葉は悪いが貧民窟同然の粗末な場所であった。そこに鎧で武装した人間が入っていくのは場違い極まりないだろう。エルトリスもここに住んでいるらしいのだが。

 

管理人を説得し、ウェイリンの部屋の鍵を入手する。土砂が流れ込んでいる殺風景な部屋の中に木箱があり、一通の手紙が入っていた。そこに書かれていた内容は、まるで誰かを殺すように指示しているかのような、そんな風に取れなくもない短い手紙だった。差出人はN。Nとは誰だ?

 

 

途方に暮れながらもウォーレンズから出ると、外には男が一人待ち構えていた。誰かの差し金なのか、男は突然殴りかかってきた。相手が素手なのに、衆人環視の場所で剣や魔法で反撃したらこちらが悪いことにされてしまう可能性が高い。よってこちらも素手で応戦するしかない。

 

だがスカイリムに来てからというもの、それなりに荒事にも慣れた。こうなれば殴り合いだ! 相手の打擲に怯むこともなく、俺は両腕を思い切り振りかぶってドライストンの頭を打ち抜く。その後は壁際に追い込んで滅多打ちにすると、以外にもすぐに戦意喪失した。

 

 

名前を訪ねると、男はドライストンと名乗った。誰がやったのかとこちらが凄んで見せると、鼻利きネポスという爺に指示されたんだと涙目で白状した。ネポス……N……? まさかとは思うが、少し揺さぶりをかけてやる価値はあるか。それともこれは深入りしすぎか……?

 

 

ネポスの家を尋ねたが、当然のことながら玄関先で侍女に止められてしまった。だがそのやりとりを聞いていたのか、奥から老人の声がして中に入れることになった。通された部屋の暖炉の前いる老人こそがネポスに違いない。単刀直入にあんたがNなのかと問い詰めると、しらばっくれるわけでもなく観念したように語り始めた。

 

 

かつての大戦のさなか、混乱に乗じてフォースウォーンはマスカルスを占領した。しかしウルフリック・ストームクローク率いるノルドが奪還のために攻め込んで来て、フォースウォーンの王マダナックとその部下である鼻利きネポスは囚われの身になった。その後にネポスは開放されたが、今は牢獄の中にいるマダナックを通じて、二十年の間邪魔者を消すために働いた。それはあまりにも長い時間であった。

 

話が終わったとき、周囲をネポスの召使いたちに囲まれていた。その手には短刀が握られている。ここにいる全員がフォースウォーンだったのだ。なぜネポスが正直に話したのかようやく理解した。確実に口封じをする自信があるのだ。

 

一斉にネポスの手下が襲いかかってきた。だが力の差がありすぎた。俺が手を下すまでもなく、反撃に移ったリディアによってあっという間に全員が斬り伏せられた。たかが鉄のダガーで俺を殺せると思われたなんて、舐められたものだ。

 

 

既に息のなかったネポスの懐から見つけた日記からは、疲れ切った彼の心情が綴られていた。読んでいるだけで、言いようのない切なさに襲われる。ネポスはただの操り人形にすぎなかった。まだエルトリスが満足するような真実にはたどり着いていない。それは俺自身も同じ気持ちだった。

 

 

外に出ると市警隊が待ち構えていた。どうやら事件を嗅ぎ回っている俺のことがだいぶ目障りになったようだ。この街の市警隊はシルバーブラッド家の息がかかっている。ということはつまり、俺が次に行くべき場所はあそこしかない。

 

 

ルバーブラッド家の当主、ソーナー・シルバーブラッドの家に向かった。そういえば、この街の宿屋もシルバーブラッドの名を冠している。もしかしたらこちらの行動は全て筒抜けだったのかもしれない。しかし今は真実を知りたいという欲求が身体を突き動かしている。

 

こっそりと中に入り、鍵のかかった扉をこじ開けて中に押し入った。衛兵を寄越したのはあんたか? ソーナーにそう問い詰めたが、衛兵は誰が自分たちの財布の紐を握っているのか知っていると悪びれずに答える。それが分かったらとっとと出て行け。そう言って取り付く島もない。

 

 

しかしそのとき玄関のほうが騒がしくなった。女の悲鳴が聞こえてくる。それにはさすがのソーナーも焦りを見せた。何者かの襲撃だ! 暗殺者にソーナーの側近たちが次々に殺されていく。ソーナーの妻のリズベットも殺された。俺もやむを得ず侵入者を迎撃することになった。だが暗殺者は死霊術で操られていたようで、息絶えるとすぐに灰になって消えてしまった。

 

 

静かになった家で、ソーナーはようやく重い口を開き始めた。フォースウォーンの王マダナックと取引をし、死刑を免れる代わりにフォースウォーンを暗殺者として使い邪魔者を排除してきた。だが先程の刺客はもしかしたらマダナックが送り込んだものかもしれない……。お前もシドナ鉱山に送り込んでやる! 激昂したソーナーはそう捨て台詞を残し、彼は奥の部屋に引っ込んでいった。

 

 

とりあえず、今わかることはこれが全てだろう。帝国・ストームクローク・シルバーブラッド・フォースウォーン。複数の思惑がこのマスカルスの裏側にあった。だが真実のために流された血の量があまりにも多い。一旦エルトリスの元に戻らなければ……。

 

タロスの祠ではエルトリスが物言わぬ姿に成り果てていた。唖然とする俺の前に、市警隊が現れる。ソーナー・シルバーブラッドめ、初めからこれを狙って……! 市警隊にはシルバーブラッドの息がかかっている。状況証拠を押さえられてしまっては弁護などいくらしたところで無意味だろう。全員を倒して逃げることはできるだろうが、結局お尋ね者になってしまう。

 

お前は鉱山行きだと市警隊の一人が告げた。だが、鉱山にはフォースウォーンの王、マダナックがいる。この窮地を脱するための唯一の方法。そのために俺はあえて大人しく捕まることにした。今は、それが上手くいくことを祈るしかない。

 


【続く】

 

スカイリム日記30『フォースウォーンの陰謀(前編)』

 

久しぶりに訪れたマスカルスは、前回の訪問とはまるで違った顔を見せていた。以前は夜だったためほとんどその全容が分からなかったのだが、日中に改めて見てみると、ドワーフの遺跡をそのまま利用したと言われる要塞は美しい彫刻のように崖に沿ってそびえ立ち、ある種の幻想的な風景を浮かび上がらせる。


思えば最初に訪れたときは街の入り口でいきなり殺人事件が起こり、物騒なのであまりここには近寄らないようにしていたのだが、今回はマーラのお告げによる使者として他人の恋愛成就のためにやってきたのだから、状況が真逆すぎて自分でも可笑しくなってしまう。

 

 

思い耽っていると、ドンッと男の肩が当たって我に返った。こちらが呆けていたとはいえ、さすがに腹が立って呼び止めようとしたのだが、その前に男は走り去ってしまった。マルカルスの構造が複雑なこともあって、あの男が現地の人間だとすれば逃げられたら捕まえられるとは思えなかった。よって追跡は諦める。


だがいつの間にか手の中に、幾重にも折り畳まれた紙が握られていることに気付いた。それを開いて見てみると短い文章が書かれている。”タロスの祠で会ってくれ”とただそれだけ。今の男が書いたもの…ということでいいのだろうか。少し気になるが、今はマーラのお告げが優先だ。

 

 

ディンヤ・バリュによって伝えられたカルセルモという名の男を探して街を歩き回る。階段による昇降に苦労させられる街だったが、要塞の官舎であるアンダーストーン砦にて、宮廷魔術師として働いている老人こそカルセルモその人であった。カルセルモは俺がマーラの使者であることを告げると、その理由を悟ったのか恥ずかしそうに口籠りながら事情を話し始めた。


カルセルモはマスカルスの首長イグマンドの私兵であるファリーンに片思いをしているらしい。ただカルセルモは宮廷魔術師として長年研究に没頭してきたせいで話術の心得がなく、満足にファリーンのご機嫌を取ることもできずにいる。そこでマスカルスにいる人気の詩人であり、ファリーンの友人でもあるイングヴァーに、彼女の好みを聞き出して欲しいという、なんとも奥手で回りくどいお願いをしてきた。

 

 

まさか老いらくの恋にさえ使者を遣わせるとは、愛の神としてのマーラのご利益もそんなに捨てたもんじゃないらしい。俺自身それほど信仰に篤いわけではないのだが、徐々に信じてもいいような気がしてきた。縋り付くような顔の老人に、任せておけと俺は胸を叩いた。


イングヴァーの元へ行く途中、首長の部屋にファリーンがいたのだが若い女性であり、お世辞にもカルセルモと釣り合いが取れているとは言い難い。それとなくカルセルモのことについて尋ねてみたのだが明らかに変人という認識で、脈があるとは到底思えなかった。

 

 

イングヴァーを宿屋の前で見つけ、さっそくファリーンの好きなものについて尋ねた。しかし何でそんなことに興味があるのかと言い返されたら、カルセルモの名を出さないわけにもいかなかった。いかにも”遊んでいる”風のイングヴァーにとっては陰険な爺としか思っていないようだったが、おだてているうちに段々口が軽くなってきて、ファリーンのことについてべらべらと聞いていないことまで喋り始めた。

 

ファリーンは首長の私兵として強気な面を常に見せているが、詩を理解する繊細さも持ち合わせているという。詩は女に言い寄るときに役に立つとはイングヴァーの弁だ。吟遊詩人の大学ではそんなことも教えているのか……。ソリチュードにある吟遊詩人の大学に少し興味が湧く。

 


イングヴァーはかつてロリクステッドで女性を口説いたときに使ったという詩を、ファリーン相手にも使えるように書き直してくれることになった。お値段なんと200ゴールド。最近は金で解決できるならむしろ安いと思えるようになってきたので、気前よく払ってやる。するとイングヴァーはカルセルモに渡すのではなく、お前が渡せと助言してきた。口下手なカルセルモでは失敗する可能性が高いからだと言われたが、それは俺ももっともだと思った。

 


ファリーンに詩を渡すと、彼女はその文章を読んで感激に打ち震えた。自分がそれを渡されたとしたら正直寒気を感じるような内容だったのだが、女とは不思議なものだ……。無論カルセルモからということも付け加えておいた。


彼女はすぐに返信の手紙を書くとカルセルモに渡して欲しいと言ってきた。すぐにカルセルモの元へ行き手紙を渡す。彼は目を皿のようにして手紙を読み耽っていた。その横から内容を盗み見たが、無関係のこちらが思わず赤面してしまいそうな文面だ。

 


カルセルモは手紙を読み終えると、何かを決意したように走り出した。追いかけていくと、これは明らかにファリーンの元に向かっている。まだ首長がいる部屋の中へお構いなしに入っていくと、カルセルモはファリーンに向かって求愛した。


少し離れたところから二人が話しているのを眺めていたが、どうやらうまくいったようだ。カルセルモは俺に気付くと頭を下げた。その姿を見て、なんだか少し羨ましいと感じてしまったのだ。あの詩はカルセルモが書いたものではないのでいつかボロが出るかもしれないが、この後のことまでは責任は持てない。さて、これで俺の役目も終わりのようだな。

 


しかしせっかくマスカルスまで来たのだから、他にも何かないだろうか。そう思ったところに、さっきの紙切れに書かれていたことを思い出した。タロスの祠……この街に来てからまだそんなに時間は経ってはいない。一応足を運んでみるか。

 


マスカルスのタロスの祠は、人気の少ない街の一角にある。秘密の待ち合わせをするならこれほどうってつけの場所はないだろう。いくつかの火が灯っている祠の中に入っていくと、暗がりから男が現れた。エルトリスという顔に紋様を入れた逞しい男だ。さきほどぶつかった男と見て間違いない。


エルトリスは以前この街に来た俺のことを覚えていたらしい。街の入り口の市場で起こった殺人事件を見ていたことも。そして俺が再びこの街にやってきたときに、とある考えが頭の中に閃いた。


この街ではああいう殺人事件が繰り返されている。そのうえ市警隊が決して問題視しないことについて、彼は密かな苛立ちを感じていた。あの殺人犯がフォースウォーンであることも公然の秘密なのだが、自分が目を付けられまいと誰も口にできないでいる。


しかし余所者なら、もしかしたらこの謎を密かに調査できるかもしれない。報酬を支払う代わりに、あのとき殺された女と、殺した男のことを調べて欲しい。それがエルトリスの頼みであった。

 

 

【続く】

Netflix『ロマンティック・キラー』視聴。

休日に何もすることがなくて見始めた『ロマンティック・キラー』、なんとなく最後まで見てしまった。主人公の女子が複数のイケメン男子に囲まれるという、いわゆる少女マンガや乙女ゲーム路線の作品で、正直この手のジャンルの作品にはまったく明るくなく、始めて触れたに等しい程度の認識に基づく感想である。

 

・ストーリー

ゲームとチョコレートと飼い猫という三大欲求にしか興味がない女子高生・星野杏子の元に、突然リリという小動物的な魔法使いが現れる。夢と希望をエネルギーとしている魔法界は、人間界の少子化のためエネルギー不足に陥っていた。そのため少子化対策プロジェクトとして恋愛と縁がない人間に働きかけ、恋愛させようと目論んでいたのだ。そのターゲットして杏子が選ばれ、その日から魔法によって次々と乙女ゲームの定番イベントのような出来事が起こり始め、クール系男子の香月司、さわやか体育会系男子の速水純太、金髪セレブ男子の小金井聖というイケメンに囲まれた生活を送ることになる。かくして絶対恋愛したくない女子と、絶対に恋愛させる魔法使いによる周囲を巻き込んだバトルの火蓋が切って落とされる。

 

この作品は主に女性向けには違いないと思うのだが、とにかく主人公である杏子の奇行と顔芸、リリとのどつき漫才、そして声優の熱演によって非常にコミカル度の高いドタバタラブコメディになっていて、男の自分でもそれなりに楽しむことができた。TVゲームのパロディ的な演出もあって親しみやすい。アニメを見た後に原作も一応チェックしたのだが、アニメほどは弾けていなかった。

 

主人公である星野杏子役の高橋李依が、声優生命を賭けているのかと言わんばかりの奇声を発しており見ていて心配になってしまう。この作品の八割ぐらいは杏子のキャラクターで持っていると言っても過言ではなく、それに対する声優の貢献度はかなり高い。声優が作品の出来不出来を左右することは少ない、というのが持論なのだが珍しくその例外的な作品だと思えた。

 

がさつでお洒落に興味がなく家庭的でもない、”非ヒロイン属性”と揶揄される杏子だが、裏を返せば明け透けで侠気のある性格でむしろ作中一番の”ヒーロー属性”でもある。作品のウェイトを主人公の存在が大きく占めているので、ちゃんと好感の持てる主人公というのは良いことだ。周囲の男子も女子も無意識に落としていく様は、なんだかんだ言ってハーレム系主人公と大差ないかもしれない。

 

うーむ、最初は既存の乙女ゲーム的な設定に対するアンチテーゼのような作品なのかと思ったのだが、よく考えると男子と女子の立場を入れ替えたら男性向けハーレム作品とそんなに違いはなさそうだ。設定的に型破りなところはあるものの、女性向け作品としてはこれがある種の王道なのかも。

 

杏子の顔芸といい、リリによるEDの前口上といい、最初はその灰汁の強さに驚いたものだが、流石に後半はちょっと飽きていた。セレブ男子の聖は登場が遅いので、存在感が他の二名に大きく水を開けられており、舞台装置的な役割から抜け出せていないのは少々勿体ない感じがする。打ち切り漫画のアニメ化ということであまり期待していなかったのだが、素人目にはなかなか楽しめた作品であった。

 

Netflix『グッド・ナース』視聴。

Netflixを眺めていると、なんだか大量殺人鬼(シリアルキラー)を取り扱った番組が多いような気がする。最近でも『ダーマー』という実在の大量殺人鬼、ジェフリー・ダーマーを扱ったドラマが話題になっていた(未視聴)。殺人ピエロの名で有名なジョン・ウェイン・ゲイシーのドキュメンタリーを観たことがあったが、肌に合わず途中で観るのを止めてしまった。グロいからとかではない。そして『グッド・ナース』もまた実在の大量殺人鬼・チャールズ・エドモンド・カレンの実話を元にした映画である。

 

今回に限っては公式からストーリーを引用する。

https://www.goodnurse-jp.com/

命を脅かす心臓病を抱える心優しいシングルマザーのエイミーは、看護師として、ICUのきわめて多忙かつ過酷な夜勤で肉体的にも精神的にも限界を迎えていた。しかしある日、そんな彼女の部署に、思いやりがあり、親身になってくれる同僚のチャーリーが配属されたことで、エイミーの生活に一筋の光が。病院での長い夜を共に過ごすうちに、2人は固い絆で結ばれた親友同士になり、エイミーは久しぶりに自分と幼い娘たちの未来に心から希望を持てるようになる。ところが、患者の不審死が相次いだことをきっかけに、チャーリーを第一容疑者とした捜査が開始。エイミーは、自らの命と子供たちの安全を危険にさらしながら、真実を突き止めることを迫られる。

 

結論から言うと、なんか薄味…というか淡々としている。話に捻りがなく、上記のストーリーで内容の8割ぐらいは明かされてしまっている。一応、医療事故に見せかけた殺人の真相を解明しようとする捜査官のパートもあるのだが、刑事コロンボレベルで犯人が誰なのかは視聴者には分かっているわけだし……。

 

基本的にこの映画では犯人のことについてはたいした掘り下げもなく、犯行動機も明らかにならないため大量殺人犯の方にはあまり興味がなかったんじゃないかと思う。何度も犯行を疑われながらも、病院の隠蔽体質や事なかれ主義のために職場を転々としながら犯行を続けられたり、激務により慢性的に人手不足な医療の現場に対する啓発のほうが明らかにメインテーマ。そういう意味では思ってたのとなんか違ったなという感じ。

 

一応クライムサスペンスとしてハラハラさせられる要素はあって、犯人とほぼ確定しているのに親切な隣人として付きまとわれるのはかなり嫌な気分だし、なまじ犯人と仲良くなってしまったおかげで、子供を抱き込まれて自分が留守の間に家に上がっていたりするのは恐怖でしかない。

 

主人公のエイミーが心臓病を患っているのは作劇上非常に便利な設定で、病気のせいで家計が苦しく仕事で無理をするきっかけになっているし、病気で苦しんでいるのを知られることでチャーリーとの仲が深まるし、病気のせいで激しい運動ができずに倒れてしまう……など実際に心臓病に罹っている人には申し訳ないが、ある意味感心してしまった。

 

そして保険に入っていないので病気の検査と診察で980ドルも払わされる。現在の日本円にすると14万円以上。シングルマザーにこの医療費は堪える。シリアルキラーのことより、そういうアメリカならではの世知辛さが印象に残る映画であった。